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21、深森美月の察し能力

居間に案内され、テーブルが目に入る。

そこへ各々が家族4人の並び順としてのポジションに付く。

美月の右に美鈴、美月の前に父親、美月の斜め右に母親が並ぶ。

姉妹がしばらく家を離れていても、座るポジションは変わらないようだ。

そして美月の席の前にはシュークリームが、美鈴の席の前にはカステラが置かれていた。


「このカステラ、長崎の人から送られてきたんですよ美鈴」

「は、はぁ……。ありがとうございます」

「美咲ではなく私の知り合いからだがね」

「はぁ。そうですか……」

「反応が薄いな美鈴……。父親のことがそんなに嫌いか?」

「嫌いではないですけど……、苦手?」

「なんだと!?」

「まあまああなた……。落ち着きましょう……」


父親が妻に宥められ、「すまない……」と謝りメガネをくいっと上げる。

今日はまた父親の様子がいつになくギクシャクしている気がする。


「美月のは昨日の夜にお父さんが買いに行ったんですよー」と母親から伝えられて「ありがとうございます」とお礼を言っていた。


「美月は素直だな。美咲そっくりだ」

「美鈴は頑固です。あなたそっくり」

「嬉しくないそっくりですね。美鈴は喜びませんよ」

「娘の父親離れというやつか……」


忌々しいと父親は嫌そうな顔をする。

『そもそも美鈴のことは放置しておいて……』と、口に出したいのを美鈴はぐっと飲み込んだ。

あからさまに美月に対し贔屓が多くなり、美鈴のことについては謝罪もなく冷たくなっていった。

それが原因で美月とも仲違いをした。

母親だけが美鈴を構ってくれる状態の深森家に変わっていった。

しかし、その緊迫した状況ともまた違う部屋の中の雰囲気に美月は違和感を抱きつつ、その正体に思い至ったのである。


「あ。なるほど!お父様は美鈴に謝りたいのですね」

「は?」

「なっ、美月」

「まぁ」


美鈴、父親、母親と全員が美月の推理に驚く。

「違うんですか?」と、美月はまっすぐな目を父親に向けると「…………っ」と、観念したような顔になった。


「今まですまなかった美鈴……。あの時の私は気が立っていた……。なにか紋章を消す手段はないかと私も手を尽くしたがそれがわからず仕舞いだった」

「え……?」

「弱っていく美鈴を見てこの人も冷たく突き放したことを後悔していたの……。素直じゃないから謝るきっかけも作れなくて、紋章を解けたらきちんと謝罪すると常々お母さんには語ってたの……」

「紋章がある内はすべての謝罪が白々しくなるだけだと……。いや、言い訳だな……。美鈴からずっと逃げてきた……。私が悪かった……」


母親がフォローしつつ、父親が頭を下げる。

そんな1分程度の謝罪であったが、美鈴の心は自然と軽くなっていった。


「あの自分のミスを許さないお父様が……」

「ぐっ。美月からも驚かれるとは……」

「意外と容赦ないわね美月……。お母さんビックリなんですけど……」


美月からの罰か、天然なのか。

素直な感想に両親も傷付いていた。


「わ、わかりましたよ。許します、許しますから頭を上げてください!美鈴ばっかり怒りを引きずっていて子供みたいじゃないですか……」


美鈴が謝罪をなんとか飲み込んだ。

『ウチの妹が可愛い』と美月が微笑ましく眺めていた。


「その紋章を解いてくれた明智秀頼君については私からもお礼を言わなければならない」

「は?秀頼様?」

「待ってください……。なんでいきなり秀頼の話になったんですか?」

「彼とお付き合いしているのは知っているよ。美鈴が前に私に面と向かって宣言したからね。娘たちが誰と付き合おうが私は常識さえあれば口出しはすまいと昔から考えていた。貧乏だろうがデブだろうがもやしだろうがチビだろうがチンピラだろうとね。だが、常識があればね」


秀頼を悪く言われた気がして、2人がムッとする。

その反応に間違いないと言わんばかりに父親の反応は右手に拳を作りプルプルと震えていた。


「秀頼を常識のない男のように言うのはやめてください」

「お姉様の言うとおりですわ!」

「聞けば彼、16人の女の子とお付き合いをしている常識知らずのようじゃないか」

「そうだった……」

「ぐうの音も出ないとはまさにこのことでした……。って待ってくださいお父様!?どこでそんな情報を知り得たのですか!?」


美月と美鈴でぐったりと項垂れた中、美鈴が息を吹き返す。

秀頼はそういうことを口に出さないし、知る人も少ない。

それが何故父にその情報があるのかと問い詰めた。


「決まっているじゃないか。探偵だ」

「た、探偵ですって!?」

「しかも、美月も美鈴もそれを受け入れていると。娘2人も同時に取られているだけで不快なのに、お前たちも受け入れているとは情けない」

「ぐっ……」


「あー、情けない。娘たち情けない」と父親は煽るようにわざとらしい声を上げる。


「それに美咲からの評価が高いのがまた気に食わない」

「秀頼君は良い子なんですけど!」

「こうやって私が文句を言うと、美咲がプリプリと怒って彼の味方をするのがより不快だ」

「この人、私が秀頼君に『若くて美人で子持ちに見えない』と言われたのがムカつくんでしょうね」

「8割しか当たってない!」


(ほぼやん……)


深森姉妹がジト目の無言で突っ込んでいた。

口説かれたみたいだと不孝を買ったのだと理解してしまった。


「ふふっ。家族に外道だの鬼畜だの畜生と罵られても傷付かないくらいに私は腸が煮え返っている」

「外道」

「鬼畜」

「畜生」

「本当に罵る家族がいるか!傷付くわ!それに美咲まで混ざるんじゃない!」

「振りだと思ったんですけど」

「ぐっ!このポンコツめっ!」


深森家は真面目系ポンコツ家族であった。


「ついに昨夜、雇った探偵からたくさん情報が届いたのでな。明智秀頼という男の闇を徹底的に暴こうじゃないか」


父親が手元にあったベルをチリンと鳴らすと、家の別室に待機していた探偵がズカズカ歩きながら現れた。


「はじめまして深森美月さん、深森美鈴さん。上松えりなです。我、探偵です」

「この度は依頼をこなしてくださりありがとうございます上松さん!お若い上に腕は立派と聞き及んでおります」

「うむ。我、優秀です」


父親が雇ったという20代前半くらいの若い探偵を名乗る女であった。

黒が多く混ざった紺色の長い髪をキレイに整えていたキャリアウーマンといった風貌の人が現れた。

スーツとかでもなく、いかにも若者といった服を着こなしている。


「…………」

「…………」

「怪しい人を見る目を向けている方々が美月さんに美鈴さんですね。よろしくお願いいたします」

「(なんなんでしょうね。このがっかり感というか、残念感……)」

「(しっ!やめろ美鈴)」

「あ、あれですよ!プライベートとか気にしてるかもですが、守ってますからね!我、不審者じゃないから!不審者じゃなくて探偵だから!」


既知感に襲われた深森姉妹だがあえて何がとは触れないで、探偵の上松さんの報告を待つのであった。

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