19、黒幕概念は石像
部室の椅子に座り、机同士を五月雨とくっ付けて向かい合わせにする。
その様を概念さんがちょっと遠くからじっと観察していた。
彼女は石像とはいえ、石像に見られていても視線のようなものはなにかあるのでちょっと気を遣いそうだ……。
「明智先輩、奢っていただきありがとうございます……」
「気にすんな。俺から誘って五月雨の時間奪っちゃったわけだし」
「時間を奪ったなんてそんな……。どうせ今日はどこか人気のない場所で食べるところでしたし……」
俺が缶コーヒーのプルタブを開けると、五月雨もなっっちゃんのプルタブを開けた。
相変わらずジュースが好きで、五月雨が可愛い。
「乙葉とか友達と一緒しないのか?」
星子や和、アヤ氏など部活メンバーも同じクラスだ。
そこを指摘されると「あ……」と居心地が悪そうな表情を向けた。
「確かにそういう日もありますよ。ただ、今日みたいな陰口とかあって『自分がここに居て良いのかな……?』って被害妄想に陥っちゃって……」
「うん……」
「あと……。単純にちょっとギクシャクしてて……。乙葉ちゃんから自分を戸惑いの目を向けられたりとかされたし……。自分もちょっと後ろめたさがあって……」
そういえば乙葉のギフトのせいで、俺が余計なことを頭で考えてしまったからか……。
乙葉との仲がギクシャクした遠因俺じゃん……。
五月雨本人の後ろめたとは、ギフト狩り関係が透けて見える。
観察したりなど色々していたんだろうな……。
彼女の因果応報とはいえ、それでボッチになるのも可哀想ではある。
人との関係にアレコレと口を出す気はないが、なんか五月雨はほっとけないんだよね……。
明智秀頼、佐々木絵美、赤坂乙葉など同様に彼女もまた死亡フラグに魅せられしキャラクターの1人。
知り合ったばかりで、お互い距離が離れた人間関係だけどフォローしてあげたいという気持ちにさせられる。
俺と五月雨は先輩後輩という遠すぎず近すぎない距離感を保っている。
お悩み相談室みたいな雰囲気で気軽に雑談が出来る関係には構築されていた。
「じゃあ、いただきますね明智先輩」
「うん」
「ゴクゴク…………クュゥー!」
「やっぱりそれするんだ」
「はい!なっっちゃんといえば鉄板ですよ!飲んだらこう言っちゃいますよ!」
「クュゥ飲めば?」
「学校の自動販売機にないじゃないですか」
それで妥協してなっっちゃん飲んでそう言ってるのか……。
クュゥ飲んでも『クュゥー!』と言っているのかもしれない。
この子、無垢過ぎない!?
「クハッ!クハッ!クハハハハハッ!」
「わ、笑わないでください黒幕先輩!」
「クハッ!自分石像なんで。五月雨に対して笑ってないです。だって石像だから」
精一杯の石像アピールをする概念さん。
そもそも石像は喋らないし、笑わないんだよ。
彼女は石像をゴーストキングとかバトルホテルに登場する甲冑とかのモンスターかなんかと勘違いしているんじゃないだろうか……。
「わかる、わかる!ウチもなっっちゃん飲むと『クハーーッ』って言っちゃう。仲間よ、仲間」
「お前はいつだってクハクハ言ってんだろうが」
「あ、仲間じゃなくて石像か」
「気に入ってんの、石像?」
今日はやたらご機嫌な概念さんであった。
「はぁ……。良いなぁ……。あったかい……。先輩たちと同じ学年になりたかったな……」
「同じ学年になっても陰口を言う奴らはいっぱいいるさ。気にしてたらアホだよ、アホ」
「クハッ!友達も多いがアンチも多い奴は図太いな」
「うるせぇな石像……。アンチとか陰口とかそういうのはもう慣れてんだよ」
リアル本能寺のツイッターアカウントでは、宮村永遠アンチに目を付けられて荒らされたり。
前世でもいっぱい陰口を言われたものだ……。
『あいつウザイ』とか『剣道しか取り柄ない』とか『パッとしない顔』とか『弄ると本気で対応してオモロイから弄りまくれ』とか。
そういうのたくさんあったんだよなぁ……。
高校時代なんか剣道部の先輩らに上履きを捨てられていたりしていた時は本気で凹んだっけ……。
テンション下がったまま、俺以外の奴が上履きを取ったら上からスライムが落ちてきて防犯ブザーを鳴らして、上履きを触った奴の動画データがスマホに送られてくるとか対策したこともあったな。
そんなDIYも覚えたことで、前世について書かれたノートを隠す装置も作れたりしたので意外と役に立つスキルである。
一時期DIYユーチューバーを目指して上履き泥棒撃退システムを全国のDIY大会に応募して実績を作ろうとしたこともあったが残念ながら一時予選落ちしたのでDIYの才能は無いと突き付けられたので、その夢は諦めた。
大会の優秀賞の作品がジブリっぽい小屋とか作っていて勝てるわけないやんって打ちのめされた……。
ジブリはズルいよ、ジブリは……。
「強いですね明智先輩は……」
「そうかな……。まぁ、別に嫌いな奴からどう思われようがどうでも良くない?」
「え?」
「俺は好きな子とか友達からどう思われているかはすげぇ気にするけど、嫌いな奴のこととか考えないからさ」
「好きな子からどう思われているか…………。そうですね!自分のことが嫌いな人とか、そりゃあこっちも嫌いですね」
「そういうことよ!そう、それ!」
五月雨がそうやって納得出来たように微笑んだ。
嫌われない人なんかいるわけないんだから。
「俺は五月雨のそのパールのような白い髪も、ルビーとアクアマリンみたいな目の色もめちゃくちゃ可愛いと思うし、国宝に推薦したいくらい好きだよ」
「あ、明智先輩……。は、恥ずかしいからやめてくださいよ……」
老人のようとか、両目の色が違うのが気味悪いとか思う奴、馬鹿かい。
白髪もオッドアイも萌えポイントじゃないか!
前世でも人気な萌え属性を悪くいう奴は説教してやりたいくらいだ。
「で、でもありがとうございます!明智先輩にそう言ってもらえるとこの白い髪も、目の色も自分の誇りだって言いたくなりました」
「そっか」
「あ!休み時間も半分切りましたよ!早くなっっちゃん飲まないと!クュゥー!」
「クハーーッ!」
「石像は関係ないだろ」
五月雨とちょいちょい混ざってくる石像女という珍しい組み合わせで昼休みを過ごしていく。
『あ、そういえば星子に会ってないじゃん』と気付いたのは昼休みのチャイムが鳴ってからであった……。