13、西川流亜
「本当に俺ら、ここにいて良いのかな……?」
「ダメだったら追い出されるでしょ」
「それはそうだが……」
達裄さんを先頭に女性がすぐ後ろを。
それから3歩後ろの間合いを取る俺とタケルはこそこそと密談を交わしている状況であった。
2人には聞こえないように、会話のボリュームを出来るだけ下げるようにと務める。
「追い出されたら追い出されたでそん時考えようぜ」
「そりゃあそうなんだが……」
「慕っている師匠の家に遊びに来たら追い出されたのでざまぁします」
「そんなしょうもない理由でざまぁをするなよ……」
つい3分前に追い出されたばかりではあるが……。
タケルと話し合いをしていると、階段の前まで連れられてそれからすぐが遠野さんの部屋になる。
何回か来た場所なので、特別目新しさはないが、タケルだけが「広い部屋だぁ……」と嬉しそうで楽しそうな声を上げた。
「達裄……、というか彼らは?ブレザーを着ているけど学生さん?」
「うん。学生。友達みたいなもん?」
「あ、こんにちは。明智秀頼です。達裄さんの弟子です」
「どうも。こんちはっす。十文字タケルっす。達裄さんの弟子じゃないです」
「名前と弟子か弟子じゃないかの情報しかないんだけど……」
そう言いながらわりとタメ口で達裄さんにしゃべりかける女性。
彼の姉にしては、見た目が幼いし違うな……。
蒼くてキレイな瞳の色に、アリアのようはクリーム色交じりの金髪。
おめかしのようなものをしていて、絵美のようにオシャレをきっちりしている。
というか全体的に絵美のような年齢と見た目があってないしっかり者なイメージを抱かせる。
声もやや高めであり、どこかで聞いたことがある気もする。
はじめて会った気がしない女性だ。
「とりあえず名乗っておけば?」
「はぁ……。西川流亜です。達裄の弟子じゃないです」
「お前ら……。俺の師匠がどうかとかどうでも良い紹介やめろ……」
なんか面白い人というのは伝わってきた。
「あ、思い出しました!」
達裄さんの馴れ馴れしく彼女に話しかける様に上松ゆりかの姿が浮かぶ。
そうだと、いつだったかにすれ違ったのを思い出す。
「思い出したってなにを?」
「これは俺が、自分の弟子であり彼女の子とデートした時の話なんです」
「なんで達裄も明智君もしれっと弟子いんの?トレンドかなんかなの?十文字君も弟子いるの?」
「いや、俺は別に……」
テンションが低いわりに、メチャクチャ突っ込む辺り達裄さんが気に入りそうな人だとなんとなく察した。
「学校帰りにバッティングセンターに行った時に達裄さんといましたよね?」
「ば、バッティングセンター……」
「覚えてないっすか?流亜さんが達裄さんに『ルアルア』って呼ばれて泣きながら空振りしまくってたの」
「覚えてる……。あの時じゃん……、めっちゃ私ダサい……」
流亜さんが顔を真っ赤にして、右手で顔を隠した。
その姿に達裄さんはニヤッとしながら愛おしそうにしている。
確信した、やっぱりこの人はマスターが会ったとかいう彼の彼女さんである。
「流亜とバッティングセンターなんて1回しか行ってなかったが、見られてたのかよ」
「『ルアルアじゃないもん!流亜だもん!…………あぅ』って空振りしてましたよね!?」
「してた……」
「ルアルアって呼び方可愛いですね!」
「ルアルアじゃないもん!流亜だもん!」
「可愛いだろ」
「可愛いですね」
達裄さんの彼女な理由がわかった。
彼、こういう小動物系が好きらしいし、流亜さんからもそんな守ってあげたくなるような見た目をしている。
背伸びをしたがるような……。
どことなく絵美と話が合いそうな性格をしている……。
「達裄って女の扱い方の師匠かなんかなの!?」
「違うみたいですよ……。多分、強いからとかなんとか……」
「あー……。私の彼氏化物ですから。熊より強いです」
「あなたの彼氏はギフト所持者かなんかですか?」
「全部素のフィジカルですよ」
「へぇ……。そういや俺、ゴーストキングと戦ってた時しか達裄さんの実力知らんなぁ」
タケルの言い方だとゴーストキングは近所にいるチンピラより毛の生えた程度の強さしかないと思っていそうだが、多分アレ熊より強いよ……。
エニアの同族みたいなもんよ、アレ……。
「まったく……。達裄ったらまた変な人に懐かれてる」
「変な人言わないでくださいよ、ルアルアさん……」
「流亜だってば!なんで私は年下にまで弄られるわけ!?」
「あ、やっぱりルアルアさんは年上なんですね……。大人の人って年上か年下か判断付かない……」
「それでも高校なんかとっくに卒業してんのよ、こっちは。年齢で言うと達裄の1個後輩だからね!」
「あ、リーフチャイルドと同い年だぞタケル」
「えぇ……?嘘だぁ……」
「疑われてる!」
達裄さんの妹の恋さんにもビックリするけど、ロリっぽい風貌で年上のギャップに驚かされる。
なんか、年上を相手してる感は一切ない。
「まあまあ。秀頼は女心を知りたいんでしょ。ちょうどここに女心を知り尽くした女の西川流亜氏がいるんだし色々聞いてみればいいよ」
「なんですか、いきなり女心を知りたいなんて……」
「秀頼が女心を学びに俺のところに来たんだって」
「そもそも明智君は達裄が女に見えてる?」
「いえ、全然。ただモテるので詳しいかなと……」
俺の本音をぶちまけると、ルアルアさんは目を大きく見開いた!、
「そう!この男、ムカつくほどにモテるの!だからこそ、この男のアドバイスなんか聞いちゃダメ!このダメ男を完璧にエミュると10人とか桁違いな女から誘惑されるわよ!君は普通の恋愛をしなさいね!」
「そ、そうですか……。気を付けます……」
「もう手遅れだよ」
横にいたタケルがやたら冷たかった……。