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11、アリアのジト目

彼女たちに詠美の紹介をする一大イベントも終えた俺はとりあえず強い安心感に浸っていた。

それからは、いつも通りな学校生活が待っている。


「あら。ごきげんよう、秀頼」

「おはようアリア」


うわぁ、お姫様の挨拶の仕方だ!と、アリアの口調に非常に満足してちょっと口がにやける。

アリア様、その口調は可愛すぎだって……!

隣の席の俺はいつでもアリアに振り回される。


「……………………」


そして、相変わらずなにも口を開かずに黙って俺を見ているオペラ座の怪人に登場するような無機質な白い仮面。

掘られた黒い穴から覗く瞳がじーっと俺を突き刺すような眼を向けている。


「なんか今日はやけに悩み事が解消したって爽やかな顔をしているわね……」

「そうか?俺は常に爽やかを目指している男だぜ」

「秀頼の癖に爽やかとか生意気!」

「お前……。本当にそればっかりだな……」

「あたしに意見するなんて秀頼の癖に生意気!」


アリアの何故か俺に対するキツイ人当たりに傷付きながらも、ちょっと喜んでいる自分がいるのも複雑だ。

なにかする度に『生意気』と口にするのは、やはり悪役の親友役としてアリアからもヘイトが溜まる存在なのをふつふつ自覚させてしまう。


「ところでさ秀頼」

「ん?」

「また増えたみたいじゃん」

「え……?」


増えた?

増えたってなに?

アリアからの主語がない言葉に、ぐるぐる頭を回転させる。

なにか最近増減したことがあったっけ?

わかんない。

突然の指摘に混乱してきた。

中の人、教えてくれ!


(ピコン。ヒント、詠美)


教えてくれと言ったのにヒントしか出さないサディスト。

このひねくれ具合が本当に秀頼と思いつつ、『詠美』の単語でなんのことか一発でわかるのもまた凄い。


「そ、そんなことないよ……。増えたわけじゃなくて」

「これはアレかな?あたしへの当て付けかなんかなのかなー、秀頼」


半開きの眼でじーっと見つめてくる。

ジト目で見られると、なんか無意味に慌ててしまう。


「あ、当て付け!?た、確かに大変だってのはわかるよ!?でも、アリアは今でも充分美しいし魅力的だしさ!」

「う、う、う、美しい!?魅力的!?ちょ、ちょっと秀頼!?こ、ここ教室……」

「あ、焦る必要なんてないんだよ!?アリアはアリアのペースがあるんだからさ」

「あたしはあたしのペース?」

「そうそう。アリアはもう女として完璧なんだからさ。むしろ堂々としていて良いんだよ。そんなアリアが俺は……、その……、すすす……、好きだよ」

「女として完璧で堂々としたあたしが好き……?」

「う、うん」


うわっ、好きとか言っちゃった。

テンパっちゃったとはいえ、『悲しみの連鎖を断ち切り』のヒロインの中でベスト5には入るくらいにはアリア・ファン・レーストが好きである。

彼女じゃない子に好きとか言っちゃったよ……。

友達として好きだよ、とわかってはくれるだろう。


「ほ、ほ、ほ……。ほんとにほんとにほんとに秀頼は生意気!アホ!女垂らし!」


ビューンと、教室から走りだしてしまった。

「え?女垂らしってなに?」と驚くのもつかの間。

今までムッツリと口を閉ざしいた仮面の騎士が「明智秀頼の気持ち、伝わった」と会釈をして追いかけていく。


一体なんの時間だったのだろう……?


消えたアリアと仮面の騎士。

静まり帰った教室の面々が、嵐が過ぎ去った後の災害地に見えて仕方ない。


「…………ねぇ、秀頼君」

「うわっ!?絵美!?どうしたの?」


何故か雑談が誰もしなくなった教室で、負のオーラを纏った絵美がゆらぁと現れる。

な、なんだろう……?

目が若干、秀頼の奴隷になっている絵美時代のものに見えてくるのは気のせいか……?





「次はアリアを口説いてるの?」







──ゴゴゴゴゴゴ。

絵美の背中から噴火しそうな火山の限界が見える。

本当に噴火しそうで怖い……。


「口説く?な、なんの話をしているの……?」

「え?好きとか聞こえたんだけど?」

「友達として『好き』と言っただけだ」

「えー?嘘だぁ!」

「そもそも体重の話していて口説くとかないでしょ」

「…………は?」

「なんかさ、すげぇ勘違いしてくるのよ」

「すげぇ勘違いしてるの秀頼君なんじゃ?」

「は?話の当事者は俺だよ?」


話を遠回しに聞いていたからといって、俺とアリアの心が繋がっているところまでは察することができないようだ。


「アリアが俺の体重が増えたことに怒ってたんだよ。……まぁ、実際の俺はちょっと痩せたんだけど……。今日はいつもより着込んでいるから太ったように見えたんだろうな」

「え?本当になんの話?」

「だから体重の話。アリアってかなりスレンダーじゃん。もう少し太って身体の肉付きを増やしたいんだろうな。だから俺が元のままでもアリアは魅力的だと褒めたんだよ。な?なんにもおかしくない」


主に胸とかを大きくしたいのは原作知識として知っている。

それもこれも中の人が『詠美』というヒントを出したことによる正解。

詠美を紹介するストレスで体重が変化したことを中の人は示していたのだ。


(え……?なに言ってるんだこいつ……?)


ほら、中の人も絵美の勘違いにドン引きしている。


「諦めなさい絵美……。明智君はそういう人なのは長い付き合いでわかっていたでしょ?」

「そ、そうなんだけどさぁ……」

「なるほどな……。ああやって勘違いしながら無自覚で女が喜びそうな言葉を使ってアドバイスをしていくんだな」

「ひぃ君、手慣れ過ぎ……」

「え?ど、どうしたのみんな……?」


円、絵美、ヨル、詠美の同じクラス4人の彼女たちがなにかを言いたげにしながらも、ふんわりとしたことしか口に出さない。

こ、これ……、なんか俺が悪いことしたことになってんじゃないか……?


「えっと……、指摘してください……。全部甘んじて受けます」

「パス」

「パス」

「あたしもパス」

「パース」

「酷くない……?」


みんなが指摘をしてくれない……。

なにか虐めにあっている気分である。


「私たちは、別にアリア様に塩を送るようなフォローとかしないからね」

「え?アリアが俺を好きとか……?」

「自惚れ」

「自惚れ」

「自惚れ」

「自惚れひぃ君!」

「えーっ!?」


アリアの告白みたいなあったけど、やっぱり遊ばれていただけなのか……?

わからない、わからない。

最近は女心を学んできたつもりだったけど、だんだん自信が無くなってきていた。


「アリア様には要注意ね」

「なんで円はアリアを様付け?」

「あ、そっか。癖で」

「どんな癖だよ!」

「マドカ、ウケるー」


女4人がそんなアリアトークをしながら、俺の元から離れていく……。

女心、達裄さんに習いにいこう……。

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