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10、セレナの冷や汗

【タケルSIDE】



「あ、また来てくれたんだタケル!」

「よっ。セレナも元気そうだな」


たまに暇になるとふらっとこの自然公園に来ることが増えた。

普段はスマホやゲームやテレビなどのディスプレイばかりと向き合っているが、最近はこういった自然と向き合う楽しさも覚えてきていた。


そんなことを秀頼に言うと『それは自然の恐ろしさがわかんない奴が言うんだよ』と真顔で言う。

『自然が本気出せば、人なんかすぐ死ぬぞ。無人島に行ったら自然と向き合うの楽しいとか言えねぇから!』と、まるで無人島に行ったことがあるような口振りをする。

ネタなんだろうけど、オーバーな親友で見ていて飽きない。


とりあえずそんな自然に囲まれたところで、セレナと会うことが最近楽しみになりつつある。


「今日はアレある!?」

「あぁ」

「わぁ、楽しみー!」

「たこ焼きだろ」

「このタコォォォォォ!」

「そんなマジギレせんでも……」


威嚇する猫のように、『シャアァァァァ』という鳴き声が聞こえてきそうなほどに口を開き目を吊り上げた。


「『ミルクたい』のたい焼きだろ」

「わーい!わーい!たい焼き!たい焼きだぁ!」

「でも、今日は1個しか作ってないんだって。だから1個しか買えなかった」

「そんな……。じゃあタケルはワタシが食べるの横で見ててね」

「鬼かよお前。違うよ、俺がたい焼き食べるからセレナが横から指咥えて見てなよ」

「鬼かよタケル。やだ、やだぁ!たい焼きちょーだい!」

「ほんと、お前クレクレマンだな。たまには奢れっての」


いつもいつもたい焼きをたかりに来る少女に文句を言う。

ただ、彼女のたかりに対しては特に不快感はなく、弄りたくなる。


(理沙や、乙葉みたいな妹が出来た気分だぜ……)


なんなら秀頼の妹の星子ちゃんも妹みたいなものか。

妹みたいな子には、無条件で優しくしてしまうのも俺が兄貴だからだろうか。

セレナにたい焼きをあげて、紙袋から俺のぶんのたい焼きも取り出した。


「嘘じゃぁぁん!1個しか作ってないって言ってたじゃん!」

「手品で出したんだよ」

「すげぇぇぇ!タケルすげぇぇぇ!」

「てじなー……にゃん?だっけ」

「は?タケルきっしょ」

「言葉がきつくね!?」


秀頼が手品した後にする猫の物真似?みたいなことをしたが不評であった。

というか照れが出てしまい、口に出すのが恥ずかしい。

あいつのメンタルの強さに拍手を送りたくなる。


「俺よりも、俺の親友の方が手品凄いよ」

「えー?そんなに?」


セレナは半信半疑であるようで、目が信じていないのがよく伝わってくる。

こういう人に秀頼みたいなあっと驚かせると格好良いんだけどな……。

俺は秀頼はじゃないんだよね……。


「手品ってどんなのするの?」

「口からトランプ吐き出す」

「は?タケルの親友きっしょ」

「他にも切ったレモンの中からトランプが出てくる」

「は?タケルの親友きっしょ」

「耳がでかくなる」

「は?タケルの親友きっしょ」


ダメだ……。

秀頼の好感度は下がる一方である。

あいつの凄さをもっと人に知ってもらいたいのに俺には技量がないようであった……。


「あのさぁ、タケル」

「あ?」

「そいつ、タケルの妄想の存在なんじゃねぇの?普通の人間が口からトランプ出せるわけないじゃん!あはははははは!タケルの妄想、激しすぎっ!」

「なんだとぉ!?なら、今度そいつ連れてセレナをあっと驚かせてやるぞ!?」

「タケルの親友とか変な奴来そう……」

「それはまったく間違ってない」


明智秀頼以上に変な奴はまだ俺の人生で会ったことないと思う。


「うーん!やっぱりたい焼きおいしいぃぃぃ……。生きてるぅって感じするぅぅぅ!」

「大げさだなぁ」

「この粒々がサイコーっなの!つぶあんサイコーっ!」

「あ、俺こしあん派だから」

「は?死ね」

「言葉がキッツい!」


最近は俺に慣れてきたのか、ズバズバと毒を吐くセレナ。

和に弄られる秀頼もこんな感じなのだろうか?と奴の苦労がこんなに共感することも珍しい。

しかも、和と彼氏彼女として付き合えているあいつすげぇよ。


「わかってないなぁ、タケルちゃんは……。ミルクたいの小倉たい焼き食べたら価値観変わるのに」

「食べたことあるからね。俺、君と初対面の時小倉たい焼き食べてたよね」


初対面時にはセレナが食べていたクリーム味のたい焼きを俺は今、パクパクと食していた。


「邪道だね、タケルちゃん。どら焼きにクリーム合わないでしょ。アンコは至宝なんだよ!」

「シュークリームにアンコは合わないでしょ。クリームが最高なんだよ」


あと、タケルちゃんって言うな。

秀頼からもよく呼ばれるが、無駄にしっくりくるのがムカつくニックネームである。


「もういいよ、タケルと味の好み合わないのはわかってるから。ぶーっ!」


頬を膨らませ、むくれるセレナ。

こういうところが、本当に理沙と同い年なのかと戸惑う時がある。

いや、ウチの妹がしっかりし過ぎているだけな気はするが彼女に対する変な違和感は常に隣合わせだ。


それはそれとして……。

可愛くて弄りたい。

セレナの膨らんだ頬をぷちって潰してやりたい。

イタズラ感覚で、彼女の頬に触った時だった。


「ッッッ!?」

「うわっ!?ど、どうした!?」


セレナは驚愕して俺の指から離れた。

冷や汗をかいて、触った左頬を左手で押さえた。


「いったーいなぁ。もう!毎回毎回、タケルの静電気強すぎ!」

「え……?」


静電気なんか出ていたか?

俺は一切痛くないのに、彼女だけが冷や汗をかくほどに強い静電気……?

頭が真っ白になりながら、俺は自分の右手を注視する。


「あ、そろそろ行かないと……」

「え?」

「十文字先生の診察の時間なんだよね。タケルのお父さんなんでしょ?」

「あ。……あぁ、そうだっけな」


親父の患者さんと会っているなんて知られたらなんて思うか……。

ちょっと気恥ずかしいな……。


「そういや、親父と俺の話とかしてる?」

「え?い、いや……。できっ、できないよ」

「ん?」


どこか隠し事をするような態度のセレナ。

俺の話を『しない』、ではなく『できない』……?

言葉の違和感が酷く気持ち悪い。

親父が怖いから?

いや、むしろ温厚で話しやすい人だ。

親だからとか抜きにしても、他人でも親しみやすい人だと思う。

なんか、セレナってよくわかんない子なんだよね。


「じゃあ、ワタシ行くねっ!」


そう言って、ベンチから立ち上がって、木の奥へ走っていく。

「待って」と言いながら、俺もベンチから立ち上がり消えた方向へ目を向けるもまたいつの間にかセレナの姿を見失っている。


「…………」


変だな……。

俺がセレナの頬を触った一瞬、いつかに感じた感触が指を走ったんだ。


これは、確か秀頼と織田の決闘の時だったか……?

織田のギャラリーをヨルと一緒に相対した時だ。

『目からビーム』を出すギフトを打ち消した時と同じ触覚だ。


「『アンチギフト』が発動した……?」


ヨルが秀頼が付けた名前って言ってたっけ?

そもそも秀頼は、なんでそんなこと知っているんだ?

『アンチギフト』はなんで発動した?


わからないことが滝のように溢れだしていた……。

タケルの脳内秀頼ばっかりである。

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