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7、ヨル・ヒルはわかっていた

「この中でも、過去の美月と美鈴の不仲を知っているのは私だけかな?本当に姉妹が2人揃っている時は生きた心地がしませんでしたから……」


永遠ちゃんが、遠い目をしながらそんな風に語ってみせた。

あまりに苦い思い出なのか、彼女の目のハイライトがなくなり鳥籠の少女編を思わせる原作の心が壊れた宮村永遠の顔になっている。


「でも、やっぱり秀頼さんが彼女らの関係修復に買って出たんですもんね!」

「買って出たというか、巻き込まれたというか、死にたくなかったというか……」

「なんで美月と美鈴の関係が修復しないと秀頼さんが死ぬんですか?」

「あ、いや……。姉と妹が仲悪いとか死ぬほど嫌じゃん。仲良くいてもらいたいじゃん!」

「ま、まあ確かにそうかもしれません……」

「血の繋がった者同士で憎しみあって欲しくないのさ」

「お兄ちゃん、素敵……!」


永遠ちゃんからの真顔な『なんでお前が死ぬの?(要約)』に対して、慌ててシスコン理論で押し切りながらことなきを得た。

鋭い彼女に俺の事情を断片的に語っているだけで、前世持ちなのが知られそうなのも困るのだ。

誰よりも永遠ちゃんが好きだからこそ、俺の──明智秀頼の運命に巻き込みたくない。

そんな深森姉妹の双子が話題に挙げられていた時だった。

店内に響くベルの音に全員が入り口に視線を向けてきた。

そこに、1人の少女が入ってきた。


「おはようございます。ご機嫌いかがですな皆さま方」と挨拶をしながら深森美鈴が姿を表した。

それから続いて「おはようございます」と姉の美月も『サンクチュアリ』に姿を見せる。


「えーっと……、ヨルさんだけ居ませんね。ただ彼女はスタッフだから居ないとすると…………、お姉様がビリじゃないですか」

「ビリとか言うな!お前とタッチの差だっただろ!大体美鈴の準備が時間掛かり過ぎるんじゃないか!」

「お姉様の準備が短か過ぎるんですよ。彼氏である秀頼様とお会いするのに服装から化粧から髪型まで全部時間を掛けてセットするものですわ」

「大体、美鈴の髪型はいつも前髪上げているだけじゃないか」

「よく見てくださいな!後ろに髪が結われてあるでしょ!ここは毎回結び方が違うところでこだわっているところですの」

「わかったから。喧嘩しないの」


永遠ちゃんがパンパンと拍手のように手を叩いて2人の仲裁に入る。

彼女が乱入すると、お互いにシュンと低くなる。

「パワーバランスが一目でわかるね……」と絵美がボソッと呟いた。


「はい。美月と美鈴と私の3人の中で1番私が弱いんです」

「えー……」


絵美は永遠ちゃんの言い分に『嘘だぁ』と目で訴えていたが、彼女は涼しい顔でニコニコしていた。

「はい。3人で永遠さんが1番立場つよ……弱いです……」と美鈴が遠慮がちに口を開いていた。

弱いの前『つよ……』って聞こえたけど、なんだろうねアレ……。


「2人共、喧嘩しないでくださいね!今から外に出るので私がビリになりますから」

「なんの意味が……?島咲もおとなしく座っておけ」

「はい……」


上松ゆりかのすごくさっぱりとした正論に島咲さんが論破されてしまい、椅子に座ることになった。


「美月と美鈴の家からここまで遠いのわかってるからさ。気にしないでくれ」

「す、すまない……」

「秀頼様は心が広くて包容力があって素敵ですっ!」

「あ、ありがとう」


美鈴が俺の手を握って真っ正面からお礼を言ってきて、小恥ずかしい。

彼女のお礼はストレート過ぎて、糖分が高い。

美鈴の化粧の匂いが、不快感なく鼻をくすぐるので近寄るだけで照れがまわる。


「とりあえず全員揃ったということで良いんですよね?」と、理沙から確認されて全員を見渡す。

絵美、理沙、円、咲夜、永遠ちゃん、星子、和、ゆりか、三島、美月、美鈴、楓さん、島咲さん。

ここにキッチンにいるヨルと詠美。

それとこの場には不在な島咲さんのギフトのミドリちゃんを含めると16人の彼女と付き合っていることになるのか……。

さ、流石にもう増えないだろうし、むしろ減る……んだよね?

もうちょっと普通の恋愛をしてみたかった感は否めない。


「それで、秀頼君?今回はどうしたの?」

「ちょ、ちょっとみんなに話があって……」

「…………あ。わたし、もうなんとなく察しましたよ」

「え?」


半開きのジト目をした絵美の見透かしたような視線と声にドキッとした。

いやいやいや、話があることを伝えただけで当てられるわけがないだろうに。


「もう1人追加なんて言ったら怒るよ?」

「そ、曹操かこいつ……?」

「どの辺が曹操なの?」

「あ、ごめん。口に曹操が残って……!」

「ウチらしかわからんことを残しておくなよ」


絵美の鋭い指摘に動揺して、意味がわからないことを呟いてしまった。

でも、絵美の指摘で大体の人が察したようだ。


「ま、またぁ!?明智君、こないだもう無いって言ったばかりだよね!」

「こ、こんなことになると思わなかったんだよ!」


こないだの原作対策会議での円と話し合ったことがまだ残っていたらしく、それをチクチクと責められる。


「だ、誰なのお兄ちゃん……?」

「お、おーいヨル……」

「だからこうなるのわかってたんだろ……」


キッチンの奥から先ほどナイフを向けてきたヨルが、次はヤレヤレといった態度をしながら現れた。

「さすがひぃ君。大人数だね」と詠美がヨルについて来て姿を表す。


「え、詠美さん!?」

「詠美!?」

「ヤッホー、ハルカもミツキもクラス別々になって久し振りだね」

「詠美も彼女らと結構繋がりあるんだな……」


三島と美月は目を丸くして詠美の登場に驚いていた。


「く、クラス同じなのは知ってたんだけど明智さんと面識あったんですね……」

「そりゃあ2人より先にひぃ君とは仲良しだからね」

「ひ、ひぃ君……?」


三島と美月は突然の詠美のカミングアウトにわなわな震えていた。


「ちょ、ちょっと!?他の子ならまだ理解できる!でも、なんで詠美ちゃん!?意味わかんないよ!?」

「絵美とひぃ君が付き合ってるの知ってて告っちゃった」

「詠美ちゃんは、こういう人なんですよ!だから苦手なんですーっ!」


詠美と仲良しな子らは、阿鼻叫喚であった。


「絵美ちゃんに似てるね」

「似てますね」


楓さんや島咲さんらは詠美の容姿に驚いていた。

こうして騒がしい詠美と彼女たちの紹介になっていく。

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