3、宮村永遠のハーレム解決策
「まったく……。なんで店に君たちの彼女を全員連れてくるのさ。バカなの君?」
「はい……。バカです……」
「なんか今日は殊勝だな……」
俺はマスターに頼み込んで、彼女たち全員を喫茶店『サンクチュアリ』に連れ込むことになっていた。
今回は、全員ぶんのコーヒー代を俺持ちということになっている。
「ついに君の彼女を全員店に連れ出すだけで僕に許可が必要なほどの人数になるってどうなってんのさ?」
「普通に高校生してるだけなんすけどねー。前世では彼女出来たと同時に死んだんすよ俺」
「知らん、知らん。まぁ、英雄色を好むなんて言うし。いやぁ、凄いねぇ」
「あ、俺を英雄扱いしてくれるんだ」
「曹操的な?」
「悪役だな、それ」
なにも間違ってないのだから反論出来なかった。
マスターとの雑談をしながら、なんとか緊張を解そうと努力をしているのであった。
なにを隠そう。
この度、佐木詠美とも付き合うことになってしまいその説明の場が欲しいと彼女に言われてしまい、こうして休日を使って朝早くから喫茶店にいるのであった。
「お?曹操秀頼だ」
「曹操を名字感覚で呼ぶなよ」
「すまんすまん。明智曹操」
「名前でもねーから」
いつの間に引きこもっている部屋から出たのか、咲夜がもう喫茶店の店内に来ていた。
谷川親子の生活スペースは喫茶店の2階なので、咲夜が部屋からここに来るまで1分かからない距離ではある。
「はぁぁ……、マスター……。お腹痛いよ……」
「知らねぇよ……。なんでもかんでも俺に相談してきてさぁ。たまには姉貴にも相談してみろよ」
「あ、マスターが俺って言った」
珍しい地の出方である。
おばさん以外の前ではあまり出ないマスターの一人称だ。
「別に良いでしょ。まだ開店してないし。客いないし」
「あれ?俺、客じゃないの?」
「ウチの彼氏は客じゃない。身内というマスターからの照れ隠しメッセージだ」
咲夜のちょっと照れたフォローに対し、マスターは嫌そうな顔を隠そうともしなかった。
それどころか愚痴愚痴と口を開きはじめる。
「んなわけねーだろ。俺はね、『娘さんを僕にください!』って結婚の挨拶で頭下げてきた男に対して熱湯のお茶ぶっかけるのを咲夜が生まれてからの16年間楽しみにしてきた男だぞ」
「なんにも誇れねーな、この親父」
「マスターの元ヤン根性は変わってないな」
俺と咲夜が娘大好き過ぎる態度に白い目になりながらヤジを飛ばしていた。
「ちょっと待て。その理論で言うなら結婚の挨拶で熱湯ぶっかけられる被害者は秀頼じゃないか?」
「え?俺?」
「やめてくれマスター!」
「咲夜……」
マスターの咲夜が生まれてきてから考え込んでいた夢に対して、必死に咲夜がやめるように助言する。
咲夜……、お前……、良い彼女だな……。
必死に呼び掛ける彼女の後ろ姿に涙が出るほどに嬉しい気持ちに包まれる。
「マスターがお茶ぶっかけたところで、秀頼から竹刀で巻き上げされて不発になるだけだ!お茶がもったいない!」
「なんの心配してんの!?」
「いや、結婚の挨拶の時に出されるお茶とか絶対高級茶葉だろ?ウチ、楽しみ!ニヤリ」
「ニヤリ、じゃねーよ」
「そもそも、秀頼君って結婚の挨拶の時、竹刀持ってくるの?」
「持ってこないよ」
「下半身に立派な竹刀があるからな」
「しれっと女が下ネタ言ってんじゃねーよ」
いつも通りボケボケの谷川家である。
こないだまでよりいくらか心の余裕があるからか、幾分か楽しいトークに華を咲かせることができる。
「結婚の挨拶は良いけどさ……。実際問題、秀頼君はどうすんの?」
「そのことについてだが、永遠から考えがあったようだ」
「エイエンちゃんから?」
「あぁ。全員と婚姻届を出して、全員と離婚届出してみんなの旦那として過ごすのも良いんじゃないかと」
「え?離婚すんの?」
叔父さんとおばさんすら離婚してないのに?
と、考えたが永遠ちゃんの案だし、なにか理由があるはずだ。
「最近は結婚したままの生活よりも、離婚届を出した方が補助金が多いとかで離婚したけど一緒に暮らす夫婦とかも多いとか。意外とそういう理知的な夫婦もいるらしいぞ」
「うわっ、隙が無さすぎてヤバい……。やっぱりエイエンちゃんは天才だな……」
「秀頼君の離婚歴が多いと、別に奥さんが何人いようと不自然ではない。母親が違う秀頼君の子供が何人いても不自然ではない。……まさかそんな力技のハーレム解決策があるとは……」
「ハーレム解決策っていうな」
俺とマスターは完全に盲点だった力技のハーレム解決策に唸らされた。
いや、でもなんかやっぱりおかしい気がする。
俺やみんなはともかく、子供たちが不幸じゃないのかそれ……?
「いや、そもそも10人以上と再婚と離婚を繰り返すやべぇ奴扱いだろ俺……」
「秀頼は一般人だから許されるが、スタチャのような有名人が10人以上と付き合っていたら炎上間違いなしだな」
「いや、一般人でも許されんでしょ。そういう価値観がジャパンに無いんだからさ」
「つまりは価値観を変えれば良いのか」
このジャパンの人全員に『命令支配』を掛けていき、『何人もの人と付き合う価値観を認めろ』と命令を下していく方法も取れなくはない。
現実感薄いなぁ……。
「終わりの出せない結論だなぁ」
「だが、ウチは秀頼と結婚する気満々だからな!この気持ちは10年変わらん!」
「10年前、まだ知り合ってなくね?」
「約10年だ。別に誤差だろ誤差」
咲夜のストレートな好意に心が熱くなるも、マスターの前では照れたくなくて、突っ込みをしながら誤魔化したのであった。




