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71、最初の友達

佐木詠美の弟・佐木茂。

彼のギフトは既に学園どころか国にまで把握されており、危険の対象と見られギフト狩りに殺害される。


赤坂乙葉殺害の次は、佐木茂が犠牲者となるわけだ。

でも、そんなことさせるもんか。

詠美は茂が大好きだ。

星子が大好きな俺には痛いほど、彼女の想う気持ちがわかる。

シスコンとか、ブラコンとか、そこに差はないはずである。


──詠美は、俺にとって『平和の象徴』。


その彼女には笑顔でいてもらいたい。

だったら俺は悪役らしく、裏で暗躍してやる。

悪役の明智秀頼のように、大胆に動こうじゃないか!

神の力を使ってでも──。






─────







円とアヤ氏とのグダグダな原作対策会議から一夜。

何も答えを出せなかった俺は、机に向かいあった。

少しでも、詠美ルートの中身を思いだそうと前世の記憶を遡り、転生前にまとめた資料を読み込んでいた。


詠美ルートの最大の特徴は、タケルが終始無能なまま何も事件が起きず、事件の結末だけが語られることだ。

詠美とは恋人にはならないけど、友達として仲を深めている純粋なラブコメから一転、この世界は知らない内に狂っていましたというバッドエンドを迎える。


タケルに残ったのは、親友と仲が良かった詠美。

そんな彼女と、原作の宮村永遠以上の傷の舐め合いというカップリングが成立するのであった。


桜祭のタケル虐めがだいぶある悪趣味なシナリオである。

もし本人と出会えたなら、絶対に仲良くなれないと思う。


つまり、このシナリオで起きたことを知るにはタケル目線の情報は価値がないことを頭に入れなければならない。

必要な情報は明智秀頼の行動だ。

詠美ルートの秀頼の行動を知ることが、茂死亡ルート回避になるのだ。


「って、わかるわけねぇだろうが!」


……となった。

『詠美ルートの明智秀頼の心境と行動を述べなさい』という国語の授業でありそうな問題なんか知るわけない。

身体とギフトが同じであって、あいつは俺じゃないんだから。


そんなわけで、悩んだ結果が『使えるもんはなんでも使う』作戦である。


その作戦を思い付いた日、俺はギフト狩りのリーダーである瀧口を呼び出した。

『先生と2人で大事な話がしたいんです』と、不本意ながらエ●マンガのような展開になった彼と話をすることになった。

彼のフィールド、進路相談室に案内されると俺は開口1番に口を開く。


「【ギフト狩りで佐木茂を付け狙う行動をやめろ。仲間にさせるのも禁じる】」

「はい」

「【彼の殺害も絶対にしない、させない】」

「はい」

「【今日、俺と会話した事実の記憶を抹消しろ】」

「わかりました」


悪役らしく『命令支配』を使い、茂殺害ルートを断ち切っておいた。

あとは、一応関と五月雨の2人も一緒に呼び出して『【佐木茂を殺害してはならない。……というか、ギフト狩りだたからって人殺しはやめた方がいいよ】』と彼らの意思もねじ曲げておいた。

それから用件が済んだとばかりにサヨナラである。


「ぅぅ……。胸が痛い……」


年を重ねるごとにあんまり『命令支配』を使う機会がなかったとはいえ、人の意思をねじ曲げることに強い罪悪感があった。


しかし、詠美の日常を壊すのを防ぐためなら俺は悪役らしく悪魔になったのだ。

これで、とりあえずギフト狩りから茂が狙われることはないだろう。

俺の役目は終わったとばかりに関と五月雨に背中を見せた。











「あー、終わった終わった。とりあえずこれで目先の目標達成だ」


ギフトのゴリ押しだが、やるべきことは終わった。

達成感に包まれた中、自分の教室に戻ってきた。


「今日はなんかご機嫌みたいだねー。なにが終わったのひぃ君?」

「あ、詠美。ちょうど良いところに」

「ん?どしたの?面白いこと?」

「面白いかは知らんけど、詠美にとっては朗報」

「?」


いきなり自分の名前を呼ばれたことで、詠美もキョトンとしている。

ちょっとイタズラっぽく笑いながら「どうしよっかなー?」とか焦らしていく。


「む?生意気だね、ひぃ君!暴力喧嘩になったらどっちが勝てると思う?」

「アホ抜かせ。詠美ごとき、舌1枚で勝てるわ」

「私はブルーな将軍だった……?」


彼女は、謎のショックを受けていた……。


「まぁ、暴力喧嘩になってもひぃ君は女の子には手を出さないもんねーっ!」

「女の子には手を出さないが、詠美は女の子だった……?」

「あぁん?」

「ジョーダン、ジョーダン。詠美は可愛い女の子だもんね」

「っ……」


笑いながら冗談を口にするが、詠美は横を向いていきなり目を反らしてくる。

バカ笑いされるギャグを言ったつもりが、突然の変わった反応に俺もなんか不安になってくる。


「……詠美?どうした?」

「なんでもない!ひぃ君の癖にオレ様気取ってムカつくだけっ!」


別にオレ様を気取ったつもりは1秒たりともないわけだが、急に詠美は不機嫌になったようだ。

よくわかんねぇ奴だ。


「そんで?私は機嫌悪いから話しか聞いてあげない」

「なんで急にご機嫌斜めさんなの……?」


プリプリ怒りながらも、俺がご機嫌だった理由は知りたいようだ。

絵美とちょっとだけ怒り方が似ていてほっこりする。

怒っているのに怖くなくて可愛いのが特徴なんだよね(ガチ切れすると滅茶苦茶怖いが……)。


「それで?私にとっての朗報って?」

「茂に付いていた尾行、解決したから」

「は……?」

「とりあえず茂周りは大人しくなるし平和になったから」


茂は自分がギフト狩りに殺される未来を知っているようだが、それも改変されているはずだ。

こればっかりはどうしようもないが……。


「『茂に尾行どうなん?』って言ってみ?確信するまで1週間くらいはかかるだろうけどな」

「え?え?解決したの……?」

「うん。さっき解決した」

「しかも尾行していた犯人と会ったの!?」

「な、殴り合いはしてないよ!?穏便に済ませただけだから!」


ギフトで意思を曲げるくらいなら殴り合いをしていた方が罪悪感が薄いと考えるくらいには、『命令支配』はあまり使いたくない手段ではあった。

でも、流石に後輩女性の五月雨相手にリアルファイトもしたくはないし、この判断で間違ってはいなかったと思う。


「ほんっと……。ひぃ君は凄いなぁ……。私なんかなんの役にも経たなかったね……」

「無理しなくて良いだろ。適材適所ってやつよ。俺が詠美の役にたちたかっただけだよ。俺の最初の友達が困った時くらい助けさせてくれよ」

「…………っ!ひぃ君、あの……っ!?」

「あ?」


詠美が俺の名前を呼んだ時だった。


「おーい、明智先生!昨日のスタチャの新曲MV見たか!?なんだよ、あの露出少ないのにエロエロ衣装!?」

「山本……」

「あ、わりぃ佐木。明智となんか話してた?」

「なんでもない!よく邪魔したな、ヤマモト!」

「なんでもないんじゃないの!?」


詠美は本当に機嫌悪そうにスタチャの話をしてきた山本へ不満そうな目と態度をぶつけていた。


「まぁ、いいや。ひぃ君、今度プライベートで会おう。ヤマモト抜きで」

「なに!?なにがあったの佐木!?」

「んじゃあ、まったねーひぃ君!」

「俺は!?ねぇ、山本の名前ないよ!?」


ナチュラルスルーを決め込んだ詠美は自分の席に戻っていった。

残された俺と山本は意味がわからないまま、お互いに顔を合わせた。


「わりぃな明智先生!佐木に告白されるとこだったのに邪魔しちゃった!」

「絶対されないよ。詠美との会話を邪魔されたことより、その勘違いの方がイラっとくるわ」


何を言いかけたのかはわからないが、喉の奥に魚の骨が引っ掛かったような違和感が残り続けた。


「でも、確かにあのスタチャはヤバかったな。腰のラインがくっきりしてるのよね!」

「さっすが、明智先生!マジで、今、ツイッターでそこ話題よ」

「あと、露出少ない服装なのに腋と足だけは出てるの最高!」

「あ、その感想はキモい」


山本とはスタチャの衣装の話で盛り上がっていたのであった。

ヒロインなはずの五月雨茜の扱いが本当に雑だった……。

活躍させたいのに、毎回踏んだり蹴ったりな役割をさせられる子である。



詠美ルートは、CS版ひぐらしのなく頃にに収録された盥回し編のような結末に近いかもしれません。


気付かなければならないことに目を向けることもなく、日常をただ楽しんでいたところに日常が崩壊する。


そんな、主人公が主人公をしないことによる神の怒りなのかもしれません。

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