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66、津軽円は怪しむ

「第なん回目になるかわからない原作対策会議ーっ!」

「多分12回くらいじゃない?」

「最低でもその倍はしてるよ……」


今回は、久し振りの原作対策会議ということで津軽円が明智家の自宅まで赴いていた。

活発化するギフト狩り集団連中をどうするのかや、各ヒロインの動向などなど話題にすることはそれこそ山ほどあるのだ。

とりあえず盛り上げようと、テンション高めで拍手をしながらこの場を仕切るように務めていたが、陰キャで騒がしいのが嫌いな津軽円の反応は素の態度であった。

せっかく盛り上げようとしているのに、一切乗っからない。

悲しい……。

非常に俺は悲しかった……。


「そうだ、明智君!」

「ん?どうした?」

「セカンドのヒロインってヨル、島咲葵、赤坂乙葉、佐木詠美、五月雨茜の5人なんだよね?間違いない?」

「あぁ、その5人だよ。間違いないよ」


『まだ思い出してないんかい!』という突っ込みをぐっと飲み込んでおく。

円のそういうおおざっぱなところが大好きだから。

今頃になって来栖さん情報が更新された気がして、こっちも嬉しいの極みだ。

目の前に自分で準備した冷たいウーロン茶をごくごく飲みながら、心はにやつきながらも顔だけはにやつかないように誤魔化した。


「ふぅ……。それでその5人がどうかしたわけ」

「…………ん」


円も俺に倣ってウーロン茶を飲んでいたようだ。

小さい声を出しながら頷いていると、その本題に切り出していく。


「今、誰ルートにいる?」

「…………なにが?」

「だーかーらぁ!察しが悪いわね!」

「ん?」


円がきっと睨み付けながら口を大きく開く。

小型テーブルをとんとんと指で叩きながら、自分に注目させている。


「明智君は今!誰ルートを攻略しているかって話!」

「ゲホッ……!お、俺!?」

「そっ。君しかいないでしょ。最近さー、『もしかしたら原作の主人公は明智秀頼だったんじゃないかしら?』と疑問が出てきてねー」


ジト目で、責めるような口調の円が咎める。

原作の主人公が明智秀頼ならもうそれは誰得なバグROMだよ。


「ないない。明智秀頼が主人公なわけないでしょ」

「『悲しみの連鎖を断ち切り』は、明智秀頼が主人公で各ヒロインたちを不幸のどん底に突き落としていくゲームでしょ」

「ある意味では間違ってないのがなぁ……」

「それでいて、たまにルートではちょっと良い奴感出して退場するのが面の皮があついなって」

「それな!乙葉ルートと詠美ルートな!」


彼にはもうちょっとゲスくてかませ犬的な役割じゃないとしっくり来ないものである。

(なんでお前たちの解釈にしっくり来させなきゃいけないんだよ!)と中の人は憤慨である。


「それで明智君、白状しなさい!君は誰ルート進行中かな?五月雨茜!?佐木詠美!?赤坂乙葉!?アリア様!?」

「アリア様は絶対ないよ。ファイナルシーズンに入ってすらいないんだから……」

「明智君、アリア様と席が隣になったでしょ?クラスで噂されているんだよねー?」

「え?噂?」


まったく俺の知らない話題に食い付く。

アリア様と俺が噂されてる……?

そんな事実がないにしてもちょっと照れるな……。

永遠ちゃんがヒロインランキング1位だとしたら、3位内にはアリア様がランクインしている自分としては恥ずかしい。


「そ。噂されてる。『明智君、アリア様の奴隷説』」

「何、そのクソみたいな噂?」

「要するに『弱み握られてる説』。『あの明智君がアリア様の言いなりになってる!しかも、アリア様にだけ弱い!』的なやつ」

「ないない。俺がアリアの奴隷なわけないだろ……」


ちょっと逆らいにくいだけである。

あの無垢な笑顔で、俺への態度は最悪なのである。


「アリア様、女子には愛想が良いけど、男子には塩対応ばかりなんだよ?そんな男子の中で唯一明智君にだけ弄ってくるんだもん。彼女の特別だよね?」

「特別嫌われているんだよ」


妹の目の前で姉をしばいたのだから、要注意人物に見られているだけである。

あと、アリア様の塩対応な本性が暴かれつつあるようだ。


「別に誰ルート進行中とかないからさ。落ち着けよ、円」

「本当に?」

「あぁ」

「それで毎回毎回新しい恋人が増えましたとか言うんだから信じるわけないよね?」

「なん……だと……?」

「最近、佐木詠美と仲良しだよねぇ?怪しい……。怪しいですよ明智君」


原作対策会議の名目で集まったのに、何故かアリアや詠美との仲を怪しむ円。

これが正しい原作対策会議なのかは不明。


「確かあの子って、明智秀頼がずっと好きな憧れな子だよね。あー、強い……」

「強いって何!?」

「ストロング!」

「誰が英語の話をしてるんだよ」

「次は佐木詠美と付き合いました!って報告が来るぅぅぅ!」

「ないです」


確かに、詠美のことはまんざらでもないが、そこ止まりである。

彼女のことは過去の子という認識であり、恋人云々よりは親友に近い距離感である。

それを円に説明するのもまた恥ずかしい。

ウーロン茶を飲みながら、円の詠美弄りを軽く受け流していた。


「その『円の言うことくらい多少面倒でも見て見ぬ振りしてあげよう』って態度がムカつく……」

「円の発狂芸が来栖さんみたいで可愛いなって。3時間映画になれば良いのにって」

「おぅふ!……不意打ち気味にドキドキさせるなっ!というか、来栖由美に発狂芸なんかないわよっ!」

「…………」


『あぁぁぁ!豊臣君が素振りしてる!素振りしてる!動画に残さないと!きゃー、心のユーチューブにアップロードしなきゃ!』


確かに俺の前では発狂は少なかったが、部活をしていると視線と声が丸聞こえだった。

本人的には隠れているつもりなのだろうが、俺は聴力が強いので大体聞こえてしまっていた。

いや、あえて本人には言うまい。


「…………ないね!」

「なんの間?」

「いや、なんでもないから気にしないで。ただ、来栖さんも円も両方大好きだし、愛してるよって」

「て、照れるなぁ!怒りにくいよ!」


円が赤くなりながら戸惑っていると、部屋の外から『ピンポーン』とインターホンが鳴る。


「あ、インターホンだ。絵美じゃないよね?」

「あぁ。絵美はもはやフリーパスだ」


おばさんが『インターホンなしで自由に出入りして良い』と絵美に伝わっているのでインターホンは鳴らさない。


「ついに奴が来たようだな……」

「奴?」

「円にはいつか紹介しなきゃと思ってたんだ」

「え?誰?イケメン?」

「円にイケメンなんか紹介するくらいなら喉にナイフ突き刺して死ぬっての」

「やだ、素敵!」

「俺たちの同士だよ」


俺が彼女のことを前ぶりだけ紹介すると、パタパタパタと階段を元気良く駆け上がる音がする。


「同士?どういうこと?」


円が疑問を口にした瞬間、俺の部屋のドアが開かれた。


「オッスー!明智氏!お疲れ様でござる!」

「来たか、アヤ氏!」

「…………は?」

「うおっ!?そちらにおらすのは津軽円氏でござるな!おなぶか(同じ部活)の綾瀬翔子です!」

「…………は?」


突然嵐のように現れた後輩の登場に、円の思考は止まった。

豊臣光秀は来栖さんのストーキングを半ば気付いていたが、ずっと知らない振りをしていた。

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