64、平和の象徴【タケルのアドバイス】
「詠美……、最近の君の周りはどうだい?」
「と、とりあえずは落ち着いているよ」
学校の放課後。
教室に居残っていた詠美に探りを入れるように話かけた。
しかし、詠美からも探りを入れるような態度に変わったのを肌で感じる。
「そっか。なら良いんだけど……」
「どうかしたの?」
「いや、なんでもない」
どうも最近、そわそわした日が続く。
ヨル・ヒルにギフト狩りの情報を握らせたりと行動に移しているのだが、妙に焦燥感に刈られる。
「なんか、ひぃ君に余裕がない感じがするよ。ピリピリしてる?」
「多分ピリピリしてるかも……」
「秀頼がピリピリしてるのはいつもでしょ」
「うるせーっ。てか、タケルは呼んでねぇ」
「酷いよ!?それは酷いって秀頼さぁーん!?」
ぬるっとナチュラルに詠美との会話に混ざってくるタケルに邪険にするが、帰る気はなく居座るようだった。
別にこの男なんか居ようが、居まいがどっちでも良いのには変わらない。
「てか、なにしに来たんお前?」
「最近の俺は本当にお前の親友なのかどうか不安になってきた……」
「しんゆーっ、しんゆーっ。安心しろって」
「ひぃ君にそんな雑に扱ってもらえるならジューモンジは親友だよ」
「歪んでるなぁ、君らの親友表現!」
タケルと俺が親友であろうがなかろうが、正直どうでも良い。
突き放しても、時間が経てばやっぱりやって来る犬みたいな奴だから。
だから親友とも言えるし、親友ではないとも言える。
本当に俺とタケルのことをどんな人間関係なのかと言われると、世界中にある言葉と言語では表現出来ないような歪んでいる仲なのは間違いないだろう。
別に言葉で表現したいとも一切思わないけど……。
「らしくねーな、秀頼」
「あぁ!?なんだよ、タケル?」
「だからお前は頭でっかちな鎌倉脳なんだよ」
「鎌倉脳ってもはや1周まわって昭和脳より固くないだろ。あと、周囲から鎌倉脳なんて言われたことねーよ」
「それは、秀頼君が友達少ないからじゃ……。指摘する人いなかったんだね……」
「ひぃ君……、ぶふっ!」
「むかつくなお前ら……」
あと、笑っている詠美だってそんなに友達いないのは知っているがあえて触れないでおく。
「まあまあ。親友の俺がお前に解決策を授けようじゃないか。明智の秀頼の麿」
「もはや鎌倉通り越して平安に行きやがったな……。でもなー、お前無能だし……」
「無能ではないですよ!?どう思う佐木!?」
「……若干無能?」
「無能なんか……」
ようやく自分が無能だと気付いたのか?
タケルのことが若干心配になってきた。
「別に無能で良い!とりあえず秀頼に策をあげる!」
「なんだよ?」
「もうさ、ピリピリしている元凶に直接文句言えば良いじゃん!悩むくらいなら動けよ!」
「っ!」
ピリピリしている元凶に直接文句を言う……?
そうか、確かにコソコソコソコソしている方が俺らしくないか。
俺なら堂々と元凶にぶつかっていける力があるんだったな。
「サンキュー、タケル」
「お?決まった?俺、決まった?」
「あぁ。無能な意見もたまには聞いてみるもんだな」
「ねぇ!?その無能ってやめない!?虐めだよ、虐め!?」
「鎌倉脳だって虐めと変わらないと思うが……」
「結局、なんやかんやひぃ君もジューモンジも仲良しじゃん……」
不本意な詠美の言葉が胸に突き刺さった……。
─────
その日の放課後。
俺はタケルのアドバイス通りに、元凶に向かって歩きだしていた。
ギフト狩りの元凶・黒幕、その男が潜んでいることを確認した職員室への入り口を開き、堂々とその地へ踏み入れる。
「失礼します。【瀧口先生の側にいる2人でその男を捕えろ。この場にいる他の先生は静かに黙ってここに誰も入らないように人払いをしてください】」
「わかった。静かにしてください瀧口先生」
「なっ!?離せっ!離してください!……ぐっ、何しに来た明智!?」
「俺とちょっぴり話をしましょうよ、瀧口先生。いや、ギフトリベンジャーとでも呼ぶべきでしょうか……」
無造作に瀧口の向かいの先生の椅子に座り、足を組む。
眼鏡越しに睨んでくる瀧口に対し、余裕を感じさせながらじっと目を合わせる。
「瀧口先生、落ち着いてください!」
「そうですよ!ただ、我々はあなたを押さえ付けているだけですから!落ち着いてっ!」
「ぐっ……。明智っ!これがお前のギフトかっ!?この卑怯者のギフト風情がっ!」
「あんたがギフトを恨んでいるとか知ったこっちゃないんですよ……。あなたのエゴを他人に押し付けないで欲しいですね」
わざと煽るように馬鹿にした口調で語りかけると、キッとより眉を鋭くさせる。
普段、温厚な人から睨まれて威嚇されたところで何も怖くなかった。
俺の心はそんなことに恐怖などない。
「俺はあなたがギフトリベンジャーになった理由を、いつかに上松ゆりかに聞きましたよ。なんともまぁ…………、あなたという人間はクソ雑魚な人間だなぁって馬鹿にしてました」
「お、お前っっ!?」
「瀧口先生!?興奮しないでください!より力を加えますよ!」
「がっっ!?ぐぅぅっ!?」
敗者のような姿勢になりながらも、俺を親の敵のような目で憎悪を差し向ける。
「大事な人があの世にいるんですよね?ならばこっちの世界で復讐なんかしないで、大事な人の側に居てやれば良いじゃないっすか。これ、人生の先輩からの意見っす。……あ、一応あんたのが年上だっけ?」
「あけちぃぃぃ。…………ふっ、ふふふ」
「なんだよ?壊れちまったか?」
「ははは…………!ははははははっ!」
俺の名前を呼んだあとに、頭が狂ったのか甲高い声で、くぐもったように嗤いだす。
自暴自棄という印象ながら、なにか悪い企みをしているような嫌な予感がした。
「君が僕たちギフト狩りをリサーチしていたように、僕たちも君をマークしていた……。佐木詠美と仲良しなんだろう?幼馴染なんだろう?」
「てめぇ……、エニアが言ってたのはそういうことか……」
「残念だったな……。偶然だが、まさか佐木茂が佐木の弟だったとは……。あいつは今日、ギフト狩りによって狩られる」
「っ!?」
「ふははははっ。残念だったな、明智。既に関と五月雨はこの学校に居ないぞ」
「ぐっ、このクズがっ!」
苛立ちが爆発して、椅子を倒れるような力で立ち上がる。
既に時限爆弾は爆発寸前だった。
頭を強くかきむしりながら、とりあえずクズ野郎に嫌いなギフトの力を向けた。
「【星野先生、伊藤先生。瀧口の首をおもいっきり絞めて殺害しろ。なるべく苦しめるようにじわじわとなぶり殺しにするんだ】」
瀧口を押さえ付けている担任の星野と、現代文の教師に瀧口殺害命令を下す。
「瀧口先生、死んでください」
「首絞めますよ!死んでくださいねっ!」
「やめっ、やめろっ!……がっ、がっ!?がっ!?かはっ……」
「じわじわ死んでくださいよ、瀧口先生」
ギフト狩りの元凶である瀧口が死ぬ様をゆっくり鑑賞する暇がない。
こんなに後悔することも一生ないと後ろ髪を引っ張られながら、俺は学校の廊下を走って行った。