表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

673/889

63、平和の象徴【焦り】

締め切りがわかるということは幸せなのかもしれない。

既に提示されたゴールに向かって作業を継続させれば良いのだから。


『明智秀頼よ……。もし、お前の平和の象徴である彼女の平和が乱れるかもしれないと言ったらどうする?』

『そういう破滅の足音がすぐそこまで迫っている…………かもしれない。クハッ!』


破滅の足音ってなんだよ……。

それがいつの出来事なのか、まったく情報がない。

俺の手足になる奴隷を増やすか?

見えない焦りに、無意識にイライラが募っていく。


『えー……、ギフトは神からの贈り物という説があるがその神がどこから来たのか、何故それが公式のように言われているのか。まったくの謎に包まれています。不思議ですよねー。神とはなにかの比喩なのでしょうか?』


呑気にレベルの低いギフト理論の授業を受けている状態で良いのか、常に時計をチラチラと確認する癖すら付きそうだ。

しかも、詠美自体もまだそんなに焦りがないことが余計に混乱を招く。

『ちょうど終わりのようだ』と、先生がそう告げるとチャイムが鳴り響く。

昼休みの時間になったようだ。


「あっけっちくーん!おべんと、たべっよっ!」

「あぁ、木瀬か……」

「明智君のぶんのお弁当作ってきたの!明智君、春巻き好きでしょ?」

「木瀬が作る料理は全部好きだよ。確かに君の作る春巻きは絶品だね」

「ほらほら!当たった!当たった!」

「ただ、お米がちょっと柔らかいんだよね。もうちょっと固い方が好き」

「それこないだも言ったよね!今日は固いご飯になりました。行こっ行こ!」


別のクラスである女優の広末に似ている木瀬という女子から昼飯の誘いを受けて屋上に引っ張られる。

週に2回くらい誘いがあって、ちょっと抱いたら彼女面してこういう通い妻みたいなことをたまにしてくる。

コンビニで買った昼飯用のピザパンがあったが、明日の昼飯に変わりそうだった。


「今日の物理とか教え方からしてもうわっかんなくてぇー?先生変えて欲しーっ」

「あの先生、説明下手だからな」


イライラが募ることばかりだが、こういう何気ない会話がストレスを軽減させるのもまた事実である。

女と会話をすることで、幸福度が上がる。

安い幸福だが、俺にはそれが宝だった。

自分の顔は異性から見たらそこそこイケメンな部類に入るのを、小学生の時に自覚した。

最初こそ『命令支配』を使って女のイチャイチャを楽しんでいたが、最近はもはやギフトの能力に頼らずとも大抵の女は愛想笑いをして、相談に乗ったり雑談なんかで簡単にホテルに連れ込めた。

『愛してる』という言葉をもらうと、自分が満たされていった。

1人からそう言ってもらえると、2人、3人と次々にその言葉が欲しくなる。

自分が無条件に人から必要とされているのが、多分ベッドの上のイメージが大きいのもそういう経験からが強い。


「今日も良い天気だねーっ」

「だな。木瀬のお弁当も楽しみだよ」

「作りがいがあるね!座ろうか。愛情たっぷりお弁当のお披露目だよ」

「おぉ、そりゃ楽しみ」


ただ、いくら愛を囁かれようと満たされが足りない。

もう、充分満たされた経験を何個もしたのに、まるで自分の聖杯(うつわ)は壊れてヒビが入っているのかのように一瞬で消えていく。

もう、人としての何かが壊れているんだ。


「…………」


タケルとかの凡人を見ているとイライラする。

少し満たされれば、それを活力にいくらでも頑張れる姿が、立ち上がる姿が癪に触る。

俺には、まったく理解出来ない。


もっと何かに熱中できて、もっと人に心を開けて、もっと誰かに寄り添えるようなそんな人になれていれば楽しい人生だったのかもな……、なんて……。


「はい、明智君のお弁当」

「ありがとうな木瀬」

「うん!両親もいないんでしょ?毎日学校に来れるだけでも偉いよ。こんなことしか私は手伝えないけど……」

「そう言ってくれると嬉しいよ」


もっと打算的な考えがないような人間関係とか作ってみたかった、かもな……。

人の親切にありついたヒモのような人生は多分、死ぬまでやめられないだろう。

今さら、変える気にもならない。





─────





木瀬との昼食を終えて、彼女を教室まで送り、1人廊下を歩く。

ギフト狩りについて探るか、ヨル・ヒルに接触するか、タケルを弄って遊ぶか。

目的もなく歩いていると、廊下を歩いていた女子生徒が俺の顔を見て「あ……」と声を上げた。


「ひ、秀頼様……」

「やぁ、美鈴じゃないか」

「お、お時間よろしいでしょうか……?」

「うん。なんだい?」


双子である深森姉妹の片割れ。

出来の悪い深森美鈴が声をかけてきた。

顔には醜い紋章が浮かんでいる。

可愛いらしい顔も、その不気味な紋章のせいで非常にもったいない。

この紋章さえなければ、深森美月のようにモテる女性になれただろうに。

一時期は美月とタケルが出来てるんじゃないか的な噂もあったが、今はそんな噂はどこへやら。

消えたようである。


「ほ、本日ですが……、ヨルさんはバイトで例の喫茶店に行くシフトだそうです」

「OK。サンキュー」

「あと、指定された人物について美鈴なりに調べました」

「うん。確かに。今回は助かったよ。ありがとう」


ギフト狩りのメンバーの詳細な情報は美鈴に丸投げしておいた。

昨日の夜に指示を出しておき、今日の昼で全部終わるとは良い意味で想定外であった。

出来の悪いなんて考えてしまったが、優秀な美月に隠れているだけでそうでもないのかもと彼女の評価を改める。


「ひ、ひ、秀頼様!」

「あん?」

「約束!覚えていますよね……?」

「だいじょーぶ、だいじょーぶ!紋章の呪いでしょ。治る治る」

「わぁ!ありがとうございます!」

「だから約束通り、卒業まで俺のパシリ頑張りなよ」

「はい!」


美鈴は俺の返事に満足そうに頷く。

実に単純で使いやすい駒である。

契約として、卒業まで俺の言いなりのパシリになることで、卒業式の日に美鈴の苦しめる紋章の呪いを解くという内容である。

お互いの利益を満たすウィンウィンな関係である。

ビジネスパートナーというだけで、彼女には一切手を出していない。


「卒業式でタケルに告白するんでしょ、頑張って」

「ありがとうございます!秀頼様!」


美鈴は用事が済むと嬉しそうに走って行く。

どこまでも踊ってくれピエロさん。

紋章の呪いなんか解けるかなんて、俺が知るわけないが……。

それっぽい感じに『命令支配』で解けるかどうかの実験くらいはしてやるが、出来なかったら出来なかったでギフトで文句を言わせないように黙らせるだけだ。

『命令支配』で紋章の呪いが解けると良いね。

他人事のように、他人事のような心配はしておいた。


パシリの前払い的に紋章を消すような『命令支配』を使っても良かったのだが、美鈴に限らずどうせならすべての努力が無駄になった絶望した顔が1番見たいので、釣り餌をぶら下げるように自分らが卒業式の日という約束にしてある。

呪いくらいなら治る治ると煽るようにはしている。


「他に調べておくことはあるのか?」


今日中にヨルへUSBを渡し、美鈴の資料をじっくり読み込む。

中々前に進んでいる気がしない。

でも、着実に進んではいると信じるしかない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ