62、平和の象徴【死相】
【原作SIDE】
「ちっ……。情報を探しまわるのがこんなに大変だとは……」
あちらこちらへ行ったり来たり、ギフトの『命令支配』を使ったりしながらギフト狩りの情報も集めていく。
1日や2日程度で調べあげるには時間も人手もない。
「こんな時に絵美さえ居れば……。いや、居ない奴のことは考えるな……」
それに最近はヨル・ヒルの動きも活発だ。
釘を刺す意味で、あの女を牽制しておくのも手か……。
それにヨル・ヒルから近城悠久に情報が行き渡れば、悠久の推察なども聞けるかもしれない。
俺の知っているギフト狩りと『ギフトリベンジャー』の情報をあの女に流してやるか……。
PCの前に向かいながら、いそいそと資料作りに励むことになる。
「サラリーマンってこんな風になるのかねぇ……」
エクセルにギフト狩りに対する色々なデータを入力しながら、近い起こり得るかもしれない将来を考える。
自分はサラリーマンって柄じゃないな。
タレントでもないし、工事現場のような肉体労働でもない。
「………………」
自分の将来が無いんだな。
見えないではなく、無い。
多分、自分が今までの因果応報で殺されることを1番に直感している。
それが1番望んでいる。
「あー、やだねぇ……。自分で自分の死相が見えるなんて……」
占い師のサーヤがいたらどんな反応をするのか。
最近はあのメス豚を弄るくらいしか楽しみがないからか、そんなくだらなく些細なことを考える。
神様なんかに魅入られている時点で短命だろうけど……。
「だったらサーヤの太もものように太く逞しく、好き勝手に生きるしかないかぁ!」
近所の電気屋から処分品の容量が少ない安物USBをPCに繋ぐ。
ヨル・ヒルにわざと俺と上松ゆりかの拷問シーンの動画データをUSBに入れておく。
単純な嫌がらせである。
「待っていろよ……、詠美……」
一気に1日の疲労が襲ってきて、まぶたが重くなってくる。
やらなければならないことが、なさなければいけないことがまだまだ山ほどあるんだ……。
「……………………」
眠気に抗いながら、俺は指をキーボードに走らせていった。
─────
「秀頼ー?あら、まだ11時なのに寝ちゃったかしら……?」
サーヤのスマホが23時14分を表示していた。
いつもなら秀頼が暇そうに調べものをしていたり、スマホを使っていたりとまったりしている時間なだけに「珍しい!」と彼女が声を上げていた。
明智秀頼にしては、早すぎる睡眠時間である。
明るい部屋に付けられたノートパソコンと、作業の途中の寝落ちだとサーヤは秀頼の現状を察した。
「まったく……。いつもは子憎たらしくらいに格好良いのに、寝ている秀頼は可愛いわね……」
パソコンの前で眠って動かない秀頼を見て、サーヤがクスクスっと笑った。
こんなに無防備な秀頼は中々見れなくて珍しくて、頬を優しく引っ張るが秀頼の反応がない。
ぐっすり夢の中のようだ。
いつもは、猫のように警戒心が強い姿を見ているからこそ、この秀頼はレアだと思い、サーヤは写真に撮った。
普段の秀頼ならシャッター音が鳴ろうものなら飛び起きるだろうが、それも一切ない。
「なにこれー?『ギフト狩りの動機』?よくわかんないけど、妾も呼ばないで必死にパソコンにかじりついて打ち込んだ文章ということは誰にも読まれたくない文章よね……。せめて画面は消してから寝なさいよね」
エクセルの画面でCtrlとSボタンを同時押しして文章を保存してあげる。
一応何回か保存はしてあるくらしく、『タケルのち●かす野郎』という謎のタイトルファイルに文章を上書きする。
「秀頼ったら……。意地でも人をバカにしたいのね……」
タケルという人物とサーヤは面識はないが、秀頼の親友ということは話に聞いていた。
そのタケルという人物にこの文章のタイトルが知られないようにと秀頼の変わりに祈っておく。
エクセルを閉じて、すぐにパソコン画面をスリープモードにしておく。
秀頼のパソコンの中身が気にならないわけがなかったが、そこは彼のプライバシーを遵守する良い女代表のサーヤである。
「今日は帰るわね秀頼……。あ、そうだ!」
サーヤは思い立ったとばかりに秀頼の部屋から1枚毛布を持ってきて、彼の身体にかけてあげる。
「妾、こういうのやってみたかったのよね。秀頼で叶っちゃった!」
自分の失われた記憶が戻る前は秀頼以外の男にこんなことをしてあげたいと思っていた自分を一瞬恥ながら、秀頼の身体を毛布ごと抱き締める。
「…………秀頼。わからないんだけど……、あなたからなにか死相のような良くないものを感じるの……。お願いだから生きて……。妾のためだけで良い。生きて……。置いて行かないで……」
自分は所詮、ヤル目的の女としか秀頼に見られていない。
彼の特別でもなんでもなく、ただ利用されているだけなのはサーヤもわかっていた。
秀頼が、自分に本当の恋心を見せるのを嫌悪する性格なのもわかっている。
彼が違う女に熱を上げているのも、全部わかっていた。
──それでもサーヤは、秀頼に依存していたのだ。
「今日は帰るね、秀頼」
「……………………」
眠っている彼からは返事がない。
このまま、ずっと嵐のような静けさばかりのような日々が続いていけば良いのに。
部屋の扉を閉めながら、摺り足をしながらサーヤは消えていった。
─────
「ん………」
なんか夢を見ていた気がする。
サーヤがなんか……、ん?
寝惚け眼で顔を上げると、モニターが消えたノートパソコンが目に入る。
背中には毛布の感触。
「あー……」
誰か家に上がってきたような気配だ。
俺の部屋にある毛布をわざわざ掛ける相手なんかサーヤしか思い浮かばなかった。
スマホを見ると、彼女から『おやすみ』とメッセージを受信していた。
24時過ぎの時計を見て、悪いことしたなと彼女へ申し訳ない気持ちにいっぱいになった。
「さて……、もう少し作業を進めるか」
気遣いからか、スリープモードになったパソコンを立ち上げながら、俺はギフト狩りの情報を一気にまとめにかかった。