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番外編、神様に目を付けられた者

お参りも終わると、肩の荷が降りたように力が抜ける。

悪役という血の定めなのか、神聖な場所に来たせいでデバフでも受けているのかもしれない。

なんて、勝手な想像をしているとクイクイっと服を引っ張られる感覚があった。


「ん……?」

「へへへ……。秀頼きゅん!」

「ん?どうしたんだ絵美?」


いつの間にか、絵美も『秀頼きゅん』と変な言葉づかいが増えたな……、なんて今さらなことに心で突っ込んでいた。

可愛いから全然良いんだけど、人前で呼ばれるにはちょっと恥ずかしい……。

そんな絶妙な呼び方である。


「今年も、来年も……。ずっとずっと一緒だからねっ!」

「っ!?」

「居なくなったり……、しないでね……」

「っ……。あぁ!ずっと、ずっと……一緒だぞ……」


こんな言葉で、嬉しさが込み上げてくるんだから自分は安っぽい。

でも、ただただそんな風に必要とされていることが何よりの幸せだ。

必要とされない苦しみに悩んだこともあったのに、こんな風に求められることが心を満たすなんて知らなかったよ……。


「秀頼さん!絵美だけじゃないですよっ!私だってずっとあなたの側にいるんですからねっ!」

「エイエンちゃん……」

「いつだって美鈴は秀頼様の味方ですからっ!」

「わたくしとも、まだまだよろしく頼む……」

「ボクも一緒にいたいです!」

「ありがとう……、みんな……」


こんなに弱い自分に、これだけの味方がいるんだと思うと、死亡フラグくらい全部へし折ってやる!、なんて気合いが貯まる。


「さ、みんな行きましょ。後がつっかえています」


三島に促されて、列を抜け出して賽銭箱の前から離れていった。

やってやるからよ、わかったか!

この神様野郎!

最後に、この地に奉られている神様に向かってそんな誓いを立てたのであった。






─────






「クハッ!クハッ!あけおめー」

「あ!?ヨリ君にみんなだ……。か、か、か、可愛くあけおめっ!」

「あ、あれ……?概念さんに千姫さん?あ、明けましておめでとうございます……」


絵美が『みんなでおみくじしよう!』と提案し、三島がおみくじのあるところへ案内しているとスッゲー見覚えのある2人と遭遇したのであった。

概念さんはいつものように優雅に、千姫は何故か俺を気にしているのか概念さんの背中に隠れながら挨拶だけ交わしている。

本当になんで最近の千姫は、こんなに俺を避けるのだろうか……?

酷く嫌われたように感じて、毎回ショックが大きい……。


「概念さんも千姫さんと初詣に来たんですね!正月っぽくて初詣良いですよね!」

「クハッ!その通りだっ、遥香!正月っぽいな!クハハッ、偽りの神だろうがそこに神がいると思えばいるかもしれんからなっ!」

「偽りの神は言い過ぎじゃないか黒幕!?普通に失礼だぞっ!」

「クハッ、美月。お前はウチに失礼ぞ」

「な、なんだと!?」

「落ち着きましょうよお姉様……」


神様本人が『偽りの神』と神社に対して張り合いながらマウント取りをしていて共感性羞恥心が込み上げて、見ていられなくなる。

やめて……、お願いだから神様の威張りをやめてくれ……。


「概念さんは無神論者なんです。あまり美月も責めないであげて!可愛くことを流しましょ!」

「わ、わかった……。そういう宗教の人なのか……。納得はしよう……」


大人な対応の千姫と美月でなんとかこの場は収まった。

数億年単位で生きている神様が1番大人げない事実は、一生墓まで持っていくことにしよう……。


「クハッ!明智秀頼らもおみくじか?」

「あぁ。そういうこと」

「1回100円じゃな。各々が100円出してくれたらウチが変わりに引いてやるぞ」

「大きなお世話だよ……。自分の運は自分で引き当てる!」

「おっ!かっくいー!秀頼きゅぅぅん!」


100円を入れて、かき混ぜるようにしておみくじを手探りで選んでいく。

──一心集中。

俺は自分の邪念を無にしておみくじを仕分けていく。


「…………」


これはダメ。

これはダメ。

これもダメ。

微妙にダメ。

惜しいがダメ。

絶対にダメ。


中々インスピレーションが合うくじを見つけられないまま20秒ほど。


「っ……!?これだっ!」


ビビーンと電撃の走るくじを見付け出して引き上げた。

これ絶対大吉や!

その確信があったまま、手を開く。


「秀頼様、くじ2枚持ってますよ」

「あれ……?」


握られていた手には美鈴の指摘通り、2枚のくじがあった。

おかしい……、絶対1枚しか取らなかったはずなんだけど……。

どっちかは大吉のはず……なんだけど……、どっちが当たりなのかわからねぇ……。


「どっちにするのー、秀頼君?」

「クハッ!さぁ、選べよ凡人」

「秀頼様!ファイトですっ!」

「燃える展開だな、秀頼!」

「秀頼さんなら素敵なくじになりますよっ!」

「ドキドキしますね……」

「ヨリ君、可愛い欲張りだね……」

「…………」


多分あの中にこの状況を仕組んだ奴いるな。

『クハッ、クハッ』ってゲスく高笑いしながらこの展開を見守っている味方側がいるんだけど……。

マジシャンの俺が、まさか仕組まれるとは恐れ入ったぜ……。


「俺は手前を選ぶぜ!」


腹から見て奥側にあるおみくじを箱に戻して、ペリペリと剥がしていく。

「クハッ!」と、目の前の女から怪しげに嗤われながらそのおみくじに目を通す。


「…………」


あなたの運勢:大大大大大大大大大大凶


「もはや大吉取るより遥かに難しいじゃねぇかよ!」

「な、何これ!?大が10個もある凶なんて存在するの!?」


絵美が驚愕の声を上げていた。


「大大大大大大大大大大、さてツキツキに問題です。私は今『大』と何回言ったでしょうか?」

「10回!」

「違う美月!」

「え?なんでだ?」

「残念!11回!」

「な、なに……?」


美月は千姫の出した問題に見事に引っ掛かっていた。

永遠ちゃんの制止も虚しく美月はうながれていた。


「え?あ、あなた様!?大大大大大大大大大大凶を引きましたか!?」

「え?誰?」

「あ、巫女さんだ……」


白一色の服に身を包んだ清楚系な20代女性が突然現れて、ワナワナと震えていた。

三島から巫女さんと言われると、確かに巫女さんであった。


「この神社で大大大大大大大大大大凶を引かれた者は神様に目を付けられた者と言われております。す、凄い……。生まれてはじめて見ました……」

「これ、巫女さんとか住職さんが入れたのでは?」

「いえ……。何故か入れていないはずなのにたまに箱に入っているらしいのです。お、おめでとうございますお客様!」

「いやいやいや……。めでたくはないでしょ!?」


書いてある文章も滅茶苦茶である。

幸運:君が幸せなら幸せだし、不幸なら不幸なんじゃない?

健康運:君が健康なら健康だし、不健康なら不健康なんじゃない?

どんなおみくじだ……。


「神様に愛されている証拠であります!」

「愛されてるというより、馬鹿にされてる……」

「クハッ!クハッ!手前側を選ばせる。メンタリズムというやつじゃな!」

「ぐっ……」


元凶は楽しそうに笑っているだけであった。


「うわっ!見て見て!わたし大吉!」

「ボクも大吉です!」

「美鈴も大吉ですわっ!お姉様は!?」

「わたくしも大吉だ!」

「私も大吉です!」


何故か俺と一緒に来ていた5人は連続大吉であった。

大吉のバーゲンセールかよ……。

俺の運はみんなに広がったようである。


「クハッ!しょーきちーっ!」

「大凶!可愛くない!」


因みに概念さんと千姫は微妙な結果に終わったのであった。


「まあまあ、秀頼君。死なないように頑張ろうね……」

「哀れみの目を向けるなぁぁぁぁ!?」

「まあまあ。サービスでお兄さんたちを軽くお祓いしますから元気出してください。あと、『暗黒真珠サーヤ』から取り寄せた最強のお守りが3000円で販売中です!」

「この巫女、商魂逞しい!?」

「美鈴が秀頼様のぶんも買いますわ!」

「じ、自分で買うって!き、気を使わないでくれぇぇ!」


──こうして、俺の1年は不吉なスタートを切ったのであった。

ただ、不吉だけど、楽しい始まりではあった。

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