番外編、ささやかな願い
「……ん?」
俺は、一瞬だけ心臓を鷲掴みされたような心境になり足を止めた。
それは多分……、恐怖なのか……?
いつだったかにアイリーンなんとかさんと対峙した時のような感覚。
だが……、気のせいか……。
「…………」
まさかな……。
そう思いながら少しだけ後ろを振り返る。
その時、どこか見覚えのある少女が立っていた気がする。
彼女は短い金髪を揺らしながら、こちらを眺めている。
どこか寂しそうな蒼い眼を見て、なにか思い出しそうになる。
彼女はまさか……!?
ファイナルシーズンのヒロインのアリ……!?
「ま、待ってくれー!?わたくしも流される!?」
「美月さぁぁぁん!?」
「美月!?」
三島に続き、美月も人波に拐われてしまい全員で救出に向かう。
永遠ちゃんが美月の腕を掴み、なんとか引き上げたようであった。
その姿を「お姉様まではぐれそうになるなんて……」と妹の美鈴に叱られてしまいシュンとしていた。
「ご老人軍団が現れ、避けようとしたら違うご老人軍団に巻き込まれた。不覚だっ!」
「固まって動く方が良いかもしれませんね……」
あれ?
美月流され事件で流されてしまったが、そういえばさっき原作ヒロインのアリアが居たような……?
チロッと振り返るが、件の彼女の姿はどこにも無くなっていた。
いや、アリアなんかいるわけないか……。
こんな庶民的な場所にお姫様が来るわけないじゃん。
人混みに酔ったかもと自覚すると、少し頭が痛くなってきた気もしてきた。
「あ!なら、皆さんで明智さんとくっつきましょうか!」
「え?」
「え?」
「確かに!絵美と美鈴ばかりズルいと思ってたんです!」
「わたくしたちも秀頼とくっつきたいしな」
「え?え?なに?」
頭が痛い自覚から会話を聞いていなかったが、俺にくっつくという謎の発言でハッとする。
「秀頼さん、もう面倒なんで全員一緒に腕を組みましょう!」
「は、はい……。腕をどうぞ……」
繋いでいた美鈴と絵美の手を離すことになる。
その変わりに、右手に美鈴と美月と三島、左手に絵美と永遠ちゃんと無理矢理腕を組むことになった。
「なんか変じゃない……?」
「多分、変だよ」
「ですよねぇー!」
絵美から真面目な返答をされて、客観的な自分の姿が滑稽な気がしてきて恥ずかしくなってきた。
どこか周りからの視線もチロチロと見られている気がしてくる。
「ねぇ、ママ!あれ何やってんのぉー?あれ何やってんのぉー!?恋愛アドベンチャーの爆弾処理やってんのぉー!?まるでゲームやってる時のお父さんみたい!」
「コラ!やめなさいユカ!ほほほ、申し訳ありません!帰るわよ、ユカっ!」
「あはははは……」
何回か街中で見たことのある親子のやり取りを顔を引き吊りながら愛想笑いを浮かべた。
どんなお父さんなんだよと引っ張られる5歳くらいのユカちゃんを見送りながら心で手を振った。
「爆弾処理ってなんですかねお姉様?」
「コ●ンの映画でやっていたアレじゃないか?」
「違います美月さん……。いや、美月さんも美鈴さんも知らなくて良いことです……」
「え?教えてくださいな遥香!?」
「そうだ!わたくしたちにも教えてくれ!」
「爆発しないように機嫌を取ることですよ」
「?」
「?」
弟の影響なのか、ガッツリ三島は意味を理解しているようであった。
恥ずかしい……。
ユカちゃんの呟きを理解されていることがこんなに恥ずかしいなんて……。
「秀頼君、顔赤いよ?」
「みんなが好きだから赤いの!」
「もう秀頼君、可愛い!」
絵美から弄られながら歩みを進めていると、ようやく賽銭箱の前に着く。
各自、5円玉を納めながらお祈りを捧げたのであった。
──どうか、みんなが幸せであるように。
そんな、ささやかな願いを込めた。