番外編、アリア姉妹の正月
「見なさいアイリ!ゴミが人のようだわっ!」
「アリア、違います。それを言うなら『人がゴミのよう』です。あと、イメージが悪いのでそのような言葉は吐かないようにしましょう」
「別に誰も聞いていないし、良いじゃない」
1月1日。
アイリとアリアの腹違いの姉妹も、この日は初詣に来ていた。
これは自発的に来たものではなく、姉であるアイリが無理矢理アリアを連れ出したものであった。
結果……。
「ダルい……。なんであたしがこんなことしないといけないの……?」
「自分が収めることになる国の文化です。しっかり目に焼き付けましょう」
「テレビでずっと放映されてるわ」
「アリア……。そんな引きこもりのようなことを言わないでくれ……」
アリアのテンションは著しく低いものであった……。
人前に立つことにおいては立派に動く彼女であるが、アイリの目の前というプライベートでは面倒くさがりな怠惰な一面もあった。
オンとオフが極端に大きい面である。
「そんなことで第5ギフトアカデミーに転校してもやっていけるのか?」
「その時は真面目にしますぅ!」
チロッと舌を出しながら、アリアは強がるように言い放つ。
可愛い妹ではあるが、同時に情けない気持ちも込み上げてきた。
「まったく……。友達が出来ないボッチだから転校なんて情けないぞアリア……」
「アイリって実は体育会系よね……?」
「体育会系だ」
授業のレベルが合わないなど色々な理屈を捏ねた言い訳が転校の理由としてあるのだが、そんなことは2の次である。
アリアが『今通っている学校はつまらない!』と言い張っていたのであった。
『姉のアイリもあたしに付いて学校に通いなさい!』と補佐に任命したこともあり、今年の4月からは新しい学校での暮らしを余儀なくすることになった。
「くぅ……。もうちょっと……!もうちょっと、アリアの人生が変わるきっかけのような人物との出会いがあればっ!」
「へ?なにそれ?」
「そうだな。アリアが惚れるような人物が現れるとかな。男でも、この際女でも良い。お前にそういう相手が来ることを願って縁結びの神社に来た」
「アイリってそういう神頼みとか好きよね……。占いとか信じなそうなくらいおおざっぱな性格な癖に……」
「私はそういうものに縋りたくなるんだよ。時間やきっかけさえあれば、行き付けの占い師の店とか開拓したいくらいには占いやオカルト大好きだぞ!こう見えて、ユーチューブの登録チャンネルの5割はオカルト系でな!」
「ほーん……」
「自分で振っておいて興味なさそうな顔をするのはやめてくれないか……?」
むしろアリアがドン引きしていたので、あっさりと引いたアイリであった。
雑談をしながら人混みの中を歩き続けた2人はお祈りを捧げ、20分くらい並びお守りも何個か手にしたアイリがホクホク顔でアリアの前に差し出したのだ。
「見ろ、アリア!恋愛成就、学業向上、性欲上昇の3拍子揃ったお守りが手に入ったぞ!この神社の人気お守りだぞ!」
「性欲上昇って言った?」
「ほら、アリアにも1つプレゼントだ!」
「親戚からもらうよくわからん神社のお守りが1番反応に困る……」
「そう言うなアリア。楽しかっただろ?」
「多分、楽しかったのはアイリだけでは……?」
人が多いだけでアリアは来たくないくらいには人間嫌いであった。
アイリの言う、彼女の人生が変わるような出会いなど果たしたことがなく、姉以外で心を開くような相方はついぞ現れなかった。
「新しい学校では良き出会いがあるように、私からの願いだ」
「うん。じゃあありがとう……」
何かのバッグに付けようかと、アリアはそのお守りを手に取った。
『秀頼きゅぅぅん!人が多いよ!絶対手を離さないでね!』
『絶対手を離さないから!』
『あ!ちょっと!?明智さーん!?』
『三島!?三島が離れそうになってる!?』
『わたくしが助けに行こう』
『美鈴たちも遥香の近くに行きましょう』
帰るアリアたちの目の前に、神社に向かう集団が彼女の視界に映る。
友達に囲まれた集団を見て、一瞬ぼーっとしてしまっていた。
「アリア?どうした?」
「いや、別に何もないわ。なにか新しい出会いが転校先で欲しいわね……」
「そうだな」
その集団に少しだけ羨ましさを持ったまま、アリアはアイリと一緒に帰りの道を歩き出していたのであった。