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61、平和の象徴【邪神】

『クハッ!なーんか、トゲが抜けて、憑き物が落ちたって顔してるぜぇ旦那ぁ!』

「お前……、エニアか?」

『クハッ、クハッ!せーいかーい!なんでわかった?なんでわかった?』

「笑い声で一発だっての……」

『声でわかってくれよーっ!明智の旦那ぁ!』


授業をサボりながら屋上で風を受けていると、エニアが空中から突如浮かび上がるように姿を現す。

その側には、サイドアップにしている桃色の髪色をした彼女の従者が黙って立っていた。

現在は体育の授業。

身体を動かすのは好きだが、サーヤと夜に盛り上がったせいで、眠くて走る気にもならないのでこうやって1人サボタージュをしていた。

『命令支配』で体育教師の基礎熱血マッスル先生(そんな名前だっけ?)や、タケル以外のクラスメートは俺も体育に参加しているという幻覚を見ているので後は幻覚がどうにかしてくれている。

基本的俺が授業をサボっている間はその幻覚君が頑張っているのだ。

頼もしい限りである。


『クハッ!最近の明智秀頼はよぉ、なんか悪さが足りねえんじゃねぇか?なぁ!?』

「悪さ……?」

『去年まではギラギラだったじゃねぇかよ。目に映る奴、みーんな敵。あいつも敵。こいつも敵。気になる女の子(あのこ)はセフレ。そんな明智の旦那はどこに消えちまったんだよ!?クハッ!』

「うるせぇな……。エニアの都合で動くわけじゃねぇんだよ」


確かに、指摘されて思い返せば、最近人を殴ったりどころか、脅しすらしてないかもしれない。

普通の凡人の生活を送っていた気すらしてくる。


『クハッ。どうやらお前も自覚したようだな。なぁ、愛沙』

「はい。エニアの言うとおり。ヨリ君は最近センチメンタルヨリ君です」

「あー?うるせぇよ」


理知歩愛沙。

普段はエニアの従者なのを黙って日常に溶け込んでいる、変な女である。


「最近のヨリ君は可愛いです!ね、エニア!?」

『クハッ。そういうこと。可愛いなぁー』

「ちっ……」


サーヤからも可愛いと言われ、愛沙にもエニアにも可愛いと言われ始める始末である。


「かわーいっ!かわーいっ!かわーいっ!」

「黙ってろよ、可愛い狂がっ!あと、川井って奴の応援してるみてぇじゃねぇか!」

「突っ込みも可愛いです」

『クハッ!こういうのをあざといって言うんだと十文字タケルが言ってた』

「マジで帰れよお前らっ!」


サボタージュの睡眠の邪魔を全速力のフルスイングで頑張ってくる悪女共である。

ギフト『命令支配』を使うことすら躊躇いなく使用したいものである。


『明智秀頼の平和の象徴が佐木詠美ってことなのかね?クハーッ』

「クハーッ」

「おう、うるせぇよ。お前ら、詠美に手を出したら本気で殺してやるぜ」

『クハッ!ナイト気取りがウケるな!』

「ナイト気取りが可愛いデスッ!」

「別に……。ナイトなんか気取ってない……。あいつが笑顔でいてくれたらそれで良い……」


別に今さら、詠美に手を出す気もない。

恋人にもなりたいわけじゃない。

ただ、あいつが大事な存在なだけ。

それだけ。


『なんかさー、佐木詠美に対する時だけこいつなんで童貞オーラ強いんだ?』

「んなっ!?」

「童貞ヨリ君可愛い!」

「うっせ!ヤリ逃げされてお腹の中の子供と一緒に捨てられたら良いんだっ!」

『お前、すぐに下ネタに逃げる癖やめろよ。ロジハラだぜ、ロジハラ』

「エニア。ロジハラじゃなくてセクハラ。無理して横文字使うエニアも可愛い!」

『ばっ!うるせぇよ、愛沙ッッッ!?神は間違えない!ロジハラだっ!ロジハラ!セクハラなんて言葉はないっ!』

「いや、あるだろ……」


エニアの強い自己主張に、共感性羞恥心のようなものが込み上げる。

間違いを間違いと認められない、昔の自分と重なってしまう。


「可愛いねぇ!エニア可愛いよ!」

「もはや従者から可愛がられているなお前……」

『クハッ!明智秀頼も可愛がって良いぞ!』

「ヤケクソだなお前……」


小さい身体でふんぞり返り、腕を組むエニア。

外で騒いでいる体育の授業を受けるクラスメートたちの声が遠くから響く。

日常と非日常の間が自分がどこにいるのかわからなくさせる。


「とりあえず眠らせてくれ……。頭がクラクラする……」

『クハッ!仕方ない……』

「ヨリ君の頼みじゃ仕方ないねー」


シュッとエニアと愛沙の身体が空気と同調し、景色と混ざり合う。

彼女らの存在が薄くなり、ようやく静かな屋上を取り戻す。

遠い声が子守唄のように眠たくなってくる。

このまま意識を落としていこう。

まぶたをゆっくり閉じていく──。







『クハッ!ねんねーんポロリぃーよぉー。坊やは明智秀頼じゃ、ねんねしなーっ!』

「うるせっ!」

『クハッ、起きた起きた!これぞ概念を司る神の必殺技『帰ったと思ったら帰らなかった』じゃ!』

「お前が普通の女だったならダンベルでその軽そうな頭かち割ってたわ」


それくらいに不快な子守唄であった。

愛沙の姿だけが消えて、気配を殺していたエニアだけが横になった俺の右隣に歌いながら座っていた。


『クハハハハハハッ!』とイタズラが成功したからか楽しそうにしていた。


「なんだよ、本当によ……」

『あんまり目を擦るな。病気になるぞ』

「病気と無縁そうな奴から信じられない言葉をもらったな……」


眠たくて擦った手を離す。

そのまま上半身だけ起き上がると、エニアと横並びになった。


『明智秀頼よ……。もし、お前の平和の象徴である彼女の平和が乱れるかもしれないと言ったらどうする?』

「なに?」

『そういう破滅の足音がすぐそこまで迫っている…………かもしれない。クハッ!』

「ちっ……。んだよ、そりゃあ……」


一気に眠気は飛んでいき、怒りが込み上げてくる。

イライラが積もってきて、「ちっ……」とまた舌打ちをする。


「それで、俺にそれを教えた理由は?いつもは高みの見物を決め込むエニア様が珍しいじゃないか?」

『そりゃあ、決まってますぜ明智の旦那ぁ!』

「あ?」

『久し振りに暴れたお前が見たい。ただそれだけじゃ』

「邪神だよ、お前は……」


このまま眠る気にもならず、立ち上がる。

色々とやらなきゃいけないことが増えたようだ。


『楽しみにしておるぞ。クハッ!』

「見世物じゃねぇっての……」


エニアの前から離れて行き、調べものをはじめる為に動きを開始した。

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