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60、平和の象徴【ウブ】

「モミクサやべぇな!めっちゃ色々な機能あるんじゃん!電子書籍まで読んでくれるってよ!ひゃー、ゾンアマで買い物まで……!な、なんだこれはぁ!?」

「知らないで設置してたのかよ!?あんなに自信満々に設置しておいて!?」

「兄さんはよくわかんないまま手を動かす人なんです……。恥ずかしい……」

「しかも、秀頼に設置したタイプは108つの性格設定のキャラクターが変更出来る最新型モデルらしいじゃん!モミクサのマスターに対して『お姉さま』とか『お前』とか『クズ野郎』とか『豚』とか『マゾ豚』とか色々な呼び方してくれるとかおもしれー!」


『どうせならお兄ちゃんって呼ばれたいな』とか勝手なことを言いながらモミクサの性格設定をした男が、なんかのブログを読みながらモミクサの扱い方を読み上げていた。

そんなタケルの解説を俺と理沙ちゃんはただただ聞き流しながら通学を続けた。

いつの間にか校庭に着き、もう少しで教室に着きそうになっていたようだ。


「これがあればスターチャイルドの写真集を読んでもらえるってか!すげぇ!スタチャとモミクサのタイアップの完成だぜぇー!」

「写真集を読んでもらったところで、お前に画像の視覚部分ないからな?帯部分の『知られざる彼女の素敵な素顔公開!』とかしか読んでくらないからな!?」

「あと、タイアップの意味違います。兄さんはタイアップの意味を理解してから使ってください。…………ん?」

「どうしたの理沙ちゃん?」


理沙ちゃんがどこかよそ見をしていたので、俺もその視線に導かれるように振り向く。

茶髪頭の知らない女子生徒が俺たち3人を凝視していたらしく、俺と完全に目が合った。


「っ!?」


──ダダダダダダダダダダダダっ!


その女子生徒は俺と目が合った瞬間に、ツーサイドアップにした髪を揺らしながら全速力で走って逃げて行った。

なんだありゃ?と知らない女子の奇行に、呆然とする。


「なんですかあれ?明智君の知り合いですか?」

「知らねぇ……」

「秀頼がいつかに泣かせた女の1人じゃないなのー?このこのー?」

「泣かせた女とか、50を越えた辺りから数えたことねーよ」

「普通に最低な言葉ですね……」


理沙ちゃんが苦笑いを見せると、そいつの兄が「あっ!?」と驚いた声を上げてみせた。


「どうしたタケル?」

「あの子の髪型、スタチャそっくりじゃなかったか!?」

「はいはい。そうですねー」

「本当に髪型だけ同じですねー」

「2人共冷たい……。前世は氷だよ、お前ら……」


タケルのショボーンとした落ち込んだ声だけが虚しく響いた。

それから別クラスの理沙ちゃんと別れて、俺とタケルが並びながら教室に向かって行く。


「今日の理沙も可愛かったなー!わかるか秀頼!?理沙は昨日新製品のシャンプーにしたんだぜ!?」

「あっそ」


理沙ちゃん不在になり、理沙ちゃん自慢を始めるタケルを全力で無視してクラスへの扉を開ける。

ガラガラガラと、音と共に、クラスメートたちが騒いでいる喧騒が耳に入ってくる。

相変わらずうるさい学校だなと朝イチで嫌になってくる。

陰キャ軍団を集めた陰キャオンリークラスとかを新しく作って欲しいものだな……。

自分から立候補をするくらいに魅力的な響きである。


「やぁ!ひぃ君!ジューモンジもおはだぜっ!」

「佐木!おはよう!」

「……………………」

「こらこら、目付き悪い男!無視するな!」

「…………」


そして教室に入った瞬間に詠美から見付かる始末である。

陰キャオンリークラスとは真逆を行く陽キャ女の登場である。


「とりあえず座らせてくれないか?」

「座って雑談に付き合ってくれるなら」

「…………付き合うよ」

「んじゃあ、俺はこっちだから」


うざってぇタケルが立ち去ったと思ったら、次は詠美が加入した。

今日は朝から色々な奴と絡みのある日だ。


「どうしたー、詠美?」

「あらあらあらぁ?私の話をひぃ君が聞きたい?どうしよっかなぁー?どうしよっかなぁー?」

「この先の話を続けたいなら英世を1枚」

「金取るってか!?酷いよぉ、ひぃ君!?私のひぃでよを取るなんてー!フクシマの英雄、野口ひぃでよを私の手から奪うなんてーっ!」

「諭吉でも良いよ?」

「おつりは?」

「ないです」

「ぼった!ぼったくりぃぃぃ!」


詠美が可愛らしくぼったくりを連呼している。

やっぱり好きな子は虐めたくなるね。

彼女を弄りながら、幸せに浸っている。


「じゃあ、ひぃでよさんを私があげたってことで話をしよっか」

「もらってないが……。というか、アレだろ。茂のことだろ?」

「さすがひぃ君!以心伝心だねっ!」

「野郎のことなんか知るかよ」

「おまっ!冷たいか!氷人間かっ!アイスマンかっ!」


最近詠美の弟の佐木茂と知り合ったことにより、彼女から色々相談を受けていた。

特に茂が俺に憧れているだの、不良っぽくなりたいだのと彼からも変な目で慕われてしまっていた。

んなことはマジでどうでも良い。

俺はただ、詠美が元気なら、他の奴らのことはどうだって良い。


「よーし!ならひぃ君に胸を揉ませる権利をあげよう!」

「何っ!?」

「ほーら、ほら。揉みたいかっ!?モミクサでえろーいBGM付きでやらせようか!?」

「ディープキスと、セッ●スもセットならな」

「ディッ!?セッッッッッ!?」

「ははは!」


詠美が赤くなりながら茹でダコのように固まった。

そんなウブな反応も可愛くて、つい頬が緩む。

弄るのも楽しいし、反応も楽しい。

詠美がいるだけで、自然と抱えている孤独が薄れていく気がする。


俺の本命だけど、多分彼女は手が触れられない。

彼女は俺にとっての太陽だから。

太陽は熱くて眩しくて、──そして触れないくらいに天にある尊いものだ。

俺には、詠美と釣り合うことはない。

だから眺めるだけで幸せなんだ。

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