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55、明智秀頼の3者面談

「失礼します……」

「失礼しまーす」

「なんであんたはそんなに淡々に堂々としてるの……」


明智秀頼の育ての親である明智奈々は、息子が堂々と教室に入っていく様がやたら風格を感じていた。

普通は緊張やギクシャクした感じがありそうはものだが、隣の息子は家にいる様子とまったく変わらなかった。


「あ、明智君とお母さんですね。私は英語を担当しています担任の星野と申します」

「知ってる」

「誰も明智君に紹介してないから」

「コラ!秀頼!申し訳ありません……。この子、なんか喋らないと死んじゃう病なんで……」

「死なねーよ」

「はぁ……、そうですか……。難儀な病気ですね……」

「だから病気じゃねぇよ」


申し訳なさそうに同行者のおばさんは頭を下げる。

隣に控える秀頼は心外という不満が顔から見れてしまっていた。

(こんなやりにくい3者面談ははじめてだぞ……)と、担任の星野はスタートから戸惑いだした。


「席にお座りください」と促されて、「失礼します……」と2人が口を揃えて椅子に座った。


「秀頼……。とりあえず敬語!敬語!」

「おし、わかった」

「わかってないでしょ……」

「大丈夫だよ」

「…………は、はじめていきますよ?」


保護者の注意を向けられた秀頼の様子が、学校のクラスにいる時とまったく同じものであり、秀頼の大物っぷりを見た感じになった星野である。

数日前から準備した明智秀頼の資料のプリントを再び読みながら、彼に対するアドバイスや進路相談を構築していく彼女であった。


「学校での秀頼の様子はどうでしょうか星野先生?もう、私怖くて怖くて……」

「ひ、人に慕われやすいでしょうか?はい、人に慕われるタイプの生徒です」


苦笑いを堪えながら、星野は明智秀頼の評価を口にする。


「ほっ。まともな評価を先生に聞かされると安心する」

「ウチのおばさん、俺が学校で不良だと思い込んでいるんすよね。そんなことありませんよね星野先生?」

「え、えぇ!不良ではありません!安心してください、お母さん!」


秀頼と星野がおばさんを元気付けるように断言する。

とにかく秀頼に乗っかるように、星野も明るく務めるのであった。


「明智君は、リーダーシップを発揮できるタイプじゃないでしょうか?」

「リーダーシップを発揮できるタイプです」

「…………秀頼がですか?」

「人を導くスキルは相当高いんじゃないでしょうか!まさに教師とか進路には持ってこいだと思います!」

「えー?教師ぃ?」

「本人のやる気、皆無ですね」

「ですね……」


生徒のグループラインで先生の悪口とか言われるかもしれないという恐怖に怯えながらの仕事はストレスが高そうだ。

イマイチそこまで教師という進路に魅力は感じなかった。


「ただ、問題はリーダーシップ力が高過ぎるんですよね」

「それは高過ぎるデメリットとかあるのですか?」

「我々、教師よりも明智君を慕う生徒が後を絶ちません。盲目的に明智君を宗教の教祖かのように慕われるのが問題なんです」

「秀頼、だからあまり恥ずかしい真似はやめなさいとあれほど……」

「ちがっ、違うって!ないない!そんなことないって!星野先生の演出過剰に惑わされないで!」

「無自覚かなんかなの?」


星野は脳内でタメ息を吐く。

明智秀頼の生徒の影響力はそれほどギフトアカデミーの中でも高いのだ。

『あ、この知識は明智から紹介されたギャルゲーで出た内容だ!』と他のクラスで英語の授業をしていた時の生徒の呟きは一生忘れられそうにない星野であった。


「あとは、リーダーシップが強すぎて集団虐めみたいになるということでしょうか……」

「ひ、秀頼が虐め!?」

「俺が虐め!?」

「なんで秀頼も驚いてるのよ……」

「いや、知らないもん俺。虐め嫌いだし……」

「はい。明智君は、虐めなど嫌いでしょうね。人の嫌がらせもしないと教師陣では人気者です」

「先生……。秀頼を褒めすぎです」

「いや、おばさんは信じて!?俺、普通だから!普通よ、普通!?」

「普通でもないですが……」


明智秀頼は普通だと連呼する。

ただ、長く育ててきたおばさんも、担任の教師も普通とはとても呼べない生徒だと認識している。


「むしろ、虐めを止めたりすることもしているようなので正義感は強いと思います。他のクラスの島咲さんが虐められていたのを止めたのが明智君のようでしたし」

「あら、秀頼にそんな話が?」

「ただ、何故か虐められていた島咲さんは、虐めていた木瀬さんという子と仲良くなったそうです」

「なんで!?どうして!?秀頼!?なにしたの!?」

「なにも……?」


島咲碧と広末のことだろう。

そんなこともあったと1、2ヶ月も前になる出来事を振り返っていた。


「そ、そんな秀頼がなぜ虐めを!?」

「いや、してないって!」

「そう。あれは先週です」

「めっちゃ最近だな!?俺なんかしました!?記憶にないんですけど!?」

「明智君はクラスの男子全員を友好を深めようとカラオケに連れ込んだのです」

「いや、確かにそれはあったけど誰も虐めてないよ!?」


『そもそもなんで星野先生が知ってるの!?』と秀頼はそちらが気になっている。

おばさんは星野のクラスメートに対する話を深く聞き入っている。


「そして、明智君がみんなにカラオケで言ったんだそうです」

「ご、ごくり……」

「『クラス一丸になって、明日の体育で隣のクラスとのサッカー勝負に圧勝するぞーっ!』と……」

「ふむ。まだ普通の話ですね……」


ウチのクラスのターザンが隣のクラスの奴に名前をディスられたことによる報復である。

ターザンの敵打ちにクラス一丸で協力する。

美しい友情だと秀頼は自負している。

そんな秀頼の考えを一蹴するように、星野は虐めの話に変えていく。


「そして、迎えた次の日の体育。ウチのクラスと隣のクラスの一騎討ちが始まったんです」

「はい……」

「明智君がリーダーシップを執り、サッカー部の時期キャプテンの山本君以上にきびきび動いたそうです」

「おぉ!あの山本君ですね!」

「結果はウチのクラスの圧勝でした」

「普通の体育の話じゃん!なにも虐めの話がないじゃん!」


そこで星野が1トーン低い声で告げる。


「…………33対4。隣のクラスは悔しくて半分の男子が泣いたそうです」

「こ、こわぁ……」

「いや!チームワークの成果を虐めとか言うなよ!?それに4点も入れられたんだよ!?」

「虐めです」

「虐めですね」

「あー!男の友情も、女からしたら虐めになるのかよ!?」


秀頼は憤慨とばかりに星野に言い訳をしたが、2人共納得しないのであった……。

「はぁ……」と、タメ息を吐く秀頼は負けたようなものである。

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