53、明智秀頼は説教される
「とりあえずお前がまだまだあたしに明かせないのはわかったよ」
「ご、ごめん……」
「ただ、嘘を付くならギャルゲーの世界だったとか意味不明なことはやめてくれよ。前世があるってことくらいは信じるよ」
あ、そっちは本当に信じるんだ……。
正直、オリンピックとM1グランプリの衝撃の真実のせいでそっちも信用してもらえないと思っていた。
もし、本当にヨルやみんなに俺の説明をする際には円か、またはアヤ氏のどちらかを連れて来た方が良さそうである。
今のは明らかに俺のミス。
会社の面接に行ったものの、どんな会社かのリサーチもせずに就職試験に臨み爆死したのと同じである。
もうちょっと証拠や地盤を固める必要がありそうだ。
「そういや明智。前世があるって言ったな」
「あぁ……。それが?」
「それってどんな時代で、どんな世界だったんだ?それが気になる。もしかして、コロッセオとかで決闘してる世界か!?蹴鞠をして遊ぶ平安貴族!?裏切りに裏切りが蔓延る三国志の時代!?うわっー、ワクワクがあるなぁ!」
「……………………」
ないです。
そういう歴史の憧れるようなロマンとはかけ離れた現代なんだよなぁ……。
現代から現代に来ただけだしねぇ……。
「夢を裏切るようで悪いが、この世界のこの時代と大差ない。現代人が現代に来ただけだ」
「つまんねぇー!ロマンがねぇー!」
「ただ……」
「ただ?」
「ギフトは存在しない世界だった」
「なに……?」
ピンクなことが多いこと。
国の名前が日本とジャパンで違うこと。
王統治の世界ではないこと。
ギフトがない世界。
ちょいちょい違うところは多いが、その程度の違い。
だが、この程度でもだいぶ歯車が狂った世界でもある。
「ギフトがこの世界に蔓延ったのが、2000年問題という歴史があるよな。その2000年問題のせいで人間が新しい力であるギフトという神から授かった謎の力を覚醒させたのがはじまりとされている」
「そうだな。あたしの時代からも変わらない歴史だ。この世界では小学生すら知っている事柄だな」
「俺の元の世界では2000年問題は騒がれるだけ騒がれただけで何もなかった。そんな世界だったね」
因みに前世では1995年生まれの2011年死亡であるが、この人生では2003年生まれである。
西暦が被っている!という突っ込みは、ゲーム世界ということで軽く流しておいて欲しいところである。
「そんな世界もあるんだなぁ。羨ましいねぇー」
「つまんねぇ世界だよ。虐めとか普通にあるし……」
「なんだお前?虐められっ子か?あたしが爪剥がしてやろうかそいつ?」
「物騒はやめて……。前世の話だからさ……」
因みに当然頭に浮かんだのは織田である。
何故か俺との決闘の後、自分で目を抉り、学校を中退したとのこと。
なんで自分で自分の目を抉ったなんてグロいことをしたのか。
俺にはもうあの人には一切関係ないとはいえ、たまにそんな愚かな行為に走ったのか理解に苦しむ。
(考える必要なんかないだろ。一切関係ない人物なんだったら、一切干渉しないのが頭の良い生き方なんだよ)と、中の人が面倒そうな文句を吐く。
こいつもこいつで、織田が嫌いらしく、あいつを思い出すとよく横から口を挟むことが多い。
「あとはワールドカップがサッカーだったりな」
「けらけらけら!ワールドカップがサッカーとか本当に笑う。ワールドカップがサッカーだとしたら、世界中の人々の性行為大会は何大会ってんだよ!」
「……そもそもそんな大会ないんだよなぁ。今さらだが、18歳未満視聴禁止の世界大会ってなんだよ」
因みに、日本代表として沢村ヤマも前回のワールドカップに参加したのだが、『世界には私よりもエロい人はたくさんいました。井の中の蛙でした』とコメントを残している。
「とりあえず、前世を知っているんだな。それは生まれつきか?それとも、思い出したのか?」
「思い出したって言えばいいのかな?頭ぶつけて、記憶の蓋が開いたんだよ」
「それでこんなパッパラパーな頭おかしい人物に……」
「これは素なんだよ。パッパラパーとか、頭おかしいって言うな」
虐待していた時の衝撃で頭をぶつけたことは伏せておいた。
絵美にさえ、虐待している事実はか隠しているのだ。
もしかしたら、ヨルも虐待の事実を知っていて公言しないだけかもしれないが、その虐待についてはわざわざ言う必要もない。
「明智は知らないかもしれないがな、あたしの未来のお前は相当な女泣かせの女垂らしだったそうだ」
「はぁ……」
これも未来タケルの1周目の記憶であろう。
原作秀頼はタケルから見ても女泣かせの女垂らしだったようだ。
ギャルゲー主人公から指摘されるのも、ブーメランなような気がしないでもないが。
「それが前世を思い出し、人間泣かせの人間垂らしになってー!もうちょっと普通の明智秀頼はいないのかよ!?」
「人間泣かせの人間垂らしってなに!?普通にみんなと仲良しなだけだよ!?」
「明智は友情と恋愛感情の境目をもうちょっと区切るべきだと思う」
「区切ってはいるけど……」
「じゃあ、境目をもうちょいずらせ」
「難しいなー」
隣の椅子に座る華子、もといヨルから変な説教がはじまってしまった。
俺の前世持ちなのを知ったヨルだが、その関係は特に変わることはないのであった。
「あとは、もうちょっとあたしにデレをくれ」
「わ、わかった……」
意外と甘えて欲しい年頃のヨルである。
なんともいじらしい彼女なのか。
人間垂らしとの暴言も許してしまいそうだ。