51、柏木華子は下品
ヨルのお手製エスプレッソを口に含んだ時だ。
「──っ!?」
ピキーンという電撃が駆け抜けていく。
「ど、どうした明智!?明智っ!?美味しかったか!?それとも不味かったか……?」
「ひゃ、100点満点だ!流石華子だっ!」
「変なお世辞やめろ。あと、今は2人っきりだから許容するが、みんなの前で華子呼びは絶対やめろよ」
「えー?本当にうまいのに……」
華子についてもみんなに知っていてもらいたいくらいに良い名前なのになぁ。
「は、華子は……2人っきりの時だけだから……」
「わ、わかった……」
むしろ2人っきりでなら華子と呼んでも良いスタンスというように捉えて欲しいように見えた。
可愛いなー華子。
素敵だなー華子。
華子と名前を呼ぶことに対してもちょっぴり照れてしまっていた。
「あと、流石にコーヒーの味が100点は言い過ぎだろ……。まだまだマスターの味には近付いていない。まだあたしなんか40点程度だ……」
「謙虚なのか、図々しいのか判断が難しい自己評価だな……」
「これはそう。正当な評価だ……」
「自己評価は正当な評価ではないよ」
自分で100点と認めようと思えば100点になるシステムに公正さは一切ないと思われる。
俺だって全盛期の剣道の強さが20点で、明智秀頼になってからはあんまり竹刀を握ってないので10点も付けられない。
ただ、これも自己評価なので客観的な評価が欲しいくらいなのだ。
「別にマスターの味が100点満点ってわけでもないだろ。華子は華子の味を作っていけば良いじゃん」
「あたしの味……?」
「そうそう。そういう意味で華子に100点を贈ろう」
「だ、ダメだ!ダメだっ!あたしは調子に乗りやすい性格なんだ!おだてられるとロクなことにならない!だから100点は取り下げてくれ」
「そ、そうか……」
「さぁ!正当な評価を下してくれ明智!」
変なところで真面目だなぁと苦笑いしながら、エスプレッソをまた一口、二口と飲んでいく。
コーヒーの苦味と、まろやかさ、酸味が口いっぱいに広がっていく。
美味しい。
確かにマスターの味ではないが、馴染む味ではある。
「決めた」
「そうか!何点でも文句言わない。さぁ、明智!正当な評価をあたしにくれっ!」
「1億点、逆転優勝」
「やったぁぁぁぁぁぁぁぁ!優勝だぁぁぁぁ!華子ちゃん大勝利ぃぃぃぃぃ!……じゃねーよ!1億点ってなんだよ!?真面目に評価しろっての!」
「さ、さっき何点でも文句言わないって……」
あと、さっきのヨルのキャラクター崩壊のようなノリ突っ込みはなんなんだろう……。
原作ではタケルをからかいつつも、シリアスを纏ったようなヒロイン像がだいぶ崩れてしまった気がする。
「美味しいなぁ!華子ちゃんが俺のために淹れてくれたコーヒーが不味いわけないじゃないか!このコーヒーを不味いとか言う奴いたらそいつバカ舌だよ、バカ舌」
「だからお前は褒めすぎなんだっての!加減を知れっ!」
「加減してこれだが……」
「嘘付け。加減して1億点出すバカがどこにいる」
「華子のためなら10億点出して圧倒的優勝を飾るくらいなら平気でジャッジするが?」
「あ、明智って意外と重い愛情表現する時あるよな……」
「えへへへへ」
俺が普段からみんなからもらっている愛に出来るだけ報いて返したい。
それが伝わっているなら俺は嬉しい。
「そうだ、明智。お前にずっと聞きたいことがあったんだ」
「ずっと聞きたいこと?」
「ずっとと言うと変だな……。正確には恋人になってからずっと聞きたかったこと」
「ほう!」
『いつ性行為をしてくれるの?』なんていう誘い待ちをしても良いのだろうか。
いやいや、ヨルだけを特別扱いするのも、それはそれで角が立つ。
DDD結成して1日で裏切る行為はまだしたくない……。
だが、誘われたらしてしまうだろうという確信はある。
「あ、あの……。明智……?」
「うん?」
ヨルがもじもじしながら赤くなっている。
恥ずかしそうに口元を手で抑えて、俺の息子をじっと見ている。
な、なんなんだヨルさん!?
いやさ、華子!?
これはどんな反応なんだ!?
「あ、あたし……」
「うん……」
「あたしでしこってくれてる?」
「…………はい?しこるって言った?」
「うん……。男ってしこるだろ?タケルだってアリアを想ってしこってた」
「それは聞きたくない」
40代くらいのタケルが10代の思い出に浸ってアリアでしこってたとか、イメージすらしたくない。
「だから……。明智はあたしでしこってる?恋人ってことは、彼女を想ってしこるんだろ?み、未来の悠久もそう言ってた」
「あのクソ女……」
未来でも現代でも悠久は悠久であった。
「しょ、正直に答えてくれ!言いにくいならあたしから言う!明智をオカズにしてる!」
「華子でしこってる!」
「りょ、両思いだな!?」
「両思いだよ」
因みに、一応みんな平等にオカズにしている。
たまに当番じゃないのに永遠ちゃんをオカズにしたい時も、死ぬほど堪えている時もある。
まぁ、そんなの一生墓に持っていくべき事実である。
「あっけっちっ!たまにはあたしともスキンシップしてくれよっ!」
「は、華子……」
「わりぃな……。あたしの周り下品な奴らしかいなくてさ。気持ち悪いかもしれねぇけど……」
「気持ち悪くねーよ。下品な女大歓迎よ」
「清楚な女だって大歓迎な癖して」
「でも華子は下品で荒い方が好き」
「けっ……」
ウェイトレス姿のヨルが耳まで真っ赤になりながら俺の隣の椅子に座ってきた。