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48、誘いと暴言

【原作SIDE】




「はぁ!?あたしと協力だぁ!?お前が?」

「悪い話じゃないはずだ。お前の行動を見る限り、ギフト狩りを敵視しているのは明白だ」

「けっ……。勝手にあたしの行動なんか見てるんじゃねぇよ気持ち悪い。お前にストーカーされているってだけで生きてる心地がしねーよ。あたしとタケルのラブラブ空間に土足で踏み入れやがって。殺すぞ」

「ブッ……!」

「吹いてんじゃねぇよスケベエロ親父がっ!」


ヨルは人がいないガラガラなバイト先で髪型をいつものポニーテールにしてウェイトレス姿で暇そうにしていた。

それこそ『バイト終わるまでタケル以外の客は来ないといーなー……』と考えながら、ぼーっと頬杖をかいていた。

『サンクチュアリ』なんて聖域という意味の大層な名前をした喫茶店ではあるが、店長も仕事にやる気がなく出掛けてしまい、こうしてヨルが暇そうに店番をしていた。

聞こえてくるのは2階で引きこもりをしている店長の娘が部屋でバタバタしているのが10分に1回くらい物音を立てている程度だ。

そんな平和……というよりは時間が止まった空間の店内だった。

だが、来客を告げるベルの音と共に足を踏み入れた茶髪の男がやって来た。

その茶髪の男がクラスメートと認識すると、『げっ』と心で悪態を付き、嫌そうに眉を潜めた。

「エスプレッソでももらおうか」と、気持ち悪いほどに人当たりの良い顔を浮かべた男にうさんくささを覚えながらコーヒーを出すと、彼が話を切り込んできたのであった。

そして、今に至るということである。





「おいおい、まさか明智秀頼様がついにあたし様を落としにきたなんて笑い草だなぁ!ええ、おい?」

「お前を落とす?この俺様が?ヨル・ヒルみたいなちんちくりんを……?あ、やべ。一切勃たねぇからチェンジ」

「そういう店じゃねぇんだよここは!大体あたしみたいな小顔美人に勃たないなんてイ●ポだ、イ●ポ!」

「もうちょい清楚な感じ。下ネタ言う女はちょとない……。それに狂犬は嫌いだ」

「どの口で下ネタ批判してんだよ!?煩悩まみれのクソガキがっ!それに誰が狂犬だコラァァ!?」

「お前しかいないだろ」


お高い顔を合わせるなり罵倒、罵倒、罵倒に罵倒、そして罵倒。

磁石のS極とS極のように反発し合うほど、この2人の相性は最低最悪。

そのブレーキ役になり得る十文字タケルも不在とあれば、それはもう遠慮なしに口が悪い2人組である。


「ちっ……。はい、エスプレッソお待ち」

「不味そうなコーヒーだな……。やっすいコーヒー豆使ってんな」

「高いコーヒー豆で美味しく淹れるのは当たり前!安いコーヒー豆をいかに美味しく淹れられるかなんだよ!それが一流のマスターってもんさ!」

「え?お前、進路喫茶店のマスターになるの?」

「ならねぇよ!」

「ならねぇのかよ」


ヨルの進路は本人自身もまだ考えていなかった。

何故なら彼女には復讐心で過去にやって来て、復讐を終わった後の幸せな未来などまだまだ想像が出来ないのだから……。

嫌な話を振るもんだと、明智秀頼を睨み付けた。


「それで、協力関係に関しての返答は?協力が嫌なら同盟でも良い。お前以外の邪魔な存在から消したい」

「ギフト狩りを潰すためにあたしとお前が同盟を結ぶだぁ?何考えてやがる?」

「あいつら邪魔なんだよねー。春に1度俺を襲ってきまイカれた女を始末してからというもの目付けられちゃって」

「はぁ!?お前、ギフト狩りを1人始末したってのかよ!?」

「あ……。まだその段階なんだ。意外と抜けてるねー。ヨルは」

「馴れ馴れしく名前を呼ぶんじゃねぇ!」


抜けてるの指摘に名前呼び。

ヨルの地雷をわかっていて踏んでいく秀頼は楽しそうに笑顔を浮かべていた。

ヨルという地雷原を踊りながら何個踏めるかをエンジョイしている秀頼だった。


「まあまあ。悪い話じゃないでしょ。メリットとデメリットを天秤に置いて考えなよ」

「お前という錘を天秤に置きたくないんだよ」

「酷いなぁ。俺が何したってのさ!」

「人間のクズ野郎がっ!」

「俺が人間のクズ野郎だとしても、別にヨルに何もしてなくない?去年も今年もただのクラスメートじゃないか」

「ま、まぁ……。確かに……」


去年1年。

十文字タケルとの日常に隠れ、佐々木絵美と悪さをしまくった明智秀頼。

色々な悪い噂はつつけば山のように出続ける。

しかし、ヨルは何かされたかと言えば偶然何も被害がなかった。


「お互いギフト狩りが邪魔でしょ。だから排除しようよ。この角砂糖のようにギフト狩りを消しちゃおうぜ」

「…………」


エスプレッソの中に角砂糖を投げ込み、スプーンでかき混ぜる秀頼。

溶けて消えていく角砂糖をギフト狩りに見立てた比喩に、ヨルも険しく眉をひそめる。

確かにギフト狩りが邪魔な者同士、明智秀頼の協力に乗っかった方が近道かもしれないと思考を巡らせる。


「ふっ……」

「なんだよ、突然笑いだして気持ち悪い女だな」

「いや、なに。タケルはエスプレッソに角砂糖を入れないで飲んでたからな。お子さま舌なんだなって察しただけさ。可愛いじゃないか、明智秀頼様よ」

「はぁぁ!?エスプレッソをブラックで飲むとか舌がイカれてんだよ。苦くて頭痛くなるだろうがっ!」

「なんでお前が正論言うだけで面白いんだよ」


ギャップ萌え……?

ヨルはなんとなく、新しい発見をしたのである。


「それにヨルちゃんが淹れるコーヒーはマズイですなぁ!うーん、20点!」

「はぁ!?ふざけんなや!てめえのバカ舌が狂っているだけだろうが!?追加で10点入れろや!」

「いや、それでも30点じゃん」

「良いんだよ、それで。まだまだあたしは未熟な自覚はあるんだよ……」


ヨル自身、まだそんなにコーヒーの腕に自信がなかった。

特にサンクチュアリの店長のコーヒーはいつ飲んでも美味なのだ。

それに追い付けない。


「なーんか良いこと言ってる風な空気だけどよぉ、『まだまだあたしは未熟な自覚はある』ってなんで伸びる可能性がある前提なんだよ。お前のコーヒーはここが底なんだよ。あとは腕が落ちるだけだね。ゆるやーかに下降するんだよ。今、生きているこの瞬間が人生で1番若いんだからよお!衰えていくんだ、な?」

「なんでお前は的確にあたしを傷付ける言葉が出せるんだよ!」


ヨルは自分の髪と同じくらいに赤くしながら怒鳴り散らす。

それを、秀頼は涼しい顔をしてエスプレッソを啜る。


「俺のギフト能力『弱点解析』だから」

「嘘付け。『操り人形製造機』の癖に!」

「俺のギフトをそんなチンケな呼び方をするんじゃねぇよ。というか、なんで俺のギフト能力知っているんだよ。ギフトの内容わかってなければ『操り人形』なんて絶対に出ない単語じゃねぇか」

「企業秘密でぇーす!ばぁぁぁぁか!」

「ふっ。お前が所属している企業とか来年には潰れてるっての」

「お前の息を吐くように出す嫌味はなんなの?女の前みたいにさかっているのを抑えたような紳士っぷり見せろやアホ」

「だってお前女じゃないし。俺は犬に対しては雌でもチ●コ勃たねぇんだわ。だから平気で性器の名前も出せる」

「お前アレだ!女性軽視フェミニストからツイッターで批判されろ!ちんさんがよぉ!」

「俺、フェミニストには優しいから大丈夫さ」


一進一退の暴言と軽口は止まらなかった。

もし、2階で部屋に閉じ籠っている咲夜にこの2人の会話が聞かれていたらすぐに家から出たくなるかもしれないほどに汚い言葉が飛び交っていた。


「んで、誰だ?お前を狙ったギフト狩りっつのは?殺したのか?」

「脈絡なく本筋に戻るなや。まぁ、いっか。お前も知っているだろう。上松ゆりか。当然、正義の名の元に断罪してやったよ」

「鬼畜かよお前……。ん?上松?あれ?どっかで聞いた名だ……」

「なんだよ薄情だなぁ。去年、俺らと同じクラスだったろう。今年からは名前を消されたがな……」

「あ!去年自殺したっていう……!」

「そういうこと。あいつはギフト狩り集団の1人だ」


秀頼が衝撃の事実を暴露し、ヨルさ目を見開いた。

まさか、去年のクラスにギフト狩りが混ざっていた衝撃に手が震えていた。


「俺さ、いきなり上松ゆりかに襲われたんだぜ?酷くないか?酷いよなぁ!だから、俺も襲って雌にしてやったわけ。どことなくヨルに似てたかもなぁ。気が合って意気投合してたかもなぁ」

「誰がギフト狩りなんかと気が合うってんだよ……。まぁ、あたしもギフト狩りとして上松に襲われてたら殺してたかもしれないからお前を批判できないが……。それにしても性的な意味で襲うはないだろ!?」

「お前も上松の性別が男だったら俺と同じことしてるよ」

「絶対それはねーよ!殺して地面に埋めて証拠隠滅くらいに留めておきますぅ!」


物騒な話題が喫茶店に響き渡る。

お客さんが1人もいないことが、ある意味幸いだったのかもしれない……。

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