44、明智秀頼は同士を見つける
「とりあえず、移動しようか茂」
「明智先輩……」
「大丈夫。俺は詠美にも茂にも何か悪さしてやろうとか一切ないからさ。ゲーセンじゃうるさ過ぎるからもうちょっと落ち着ける場所に行こう」
お互いに飲んでいた飲み物の缶をゴミ箱に捨てて茂を連れ出す。
彼は今なにを考えて、俺にギフトを打ち明けて、俺に未来の出来事を語ってきかせたのか。
そもそもクズでゲスな面を知っていて、俺に頼る理由がわからない。
あー……、もうわかんねーや……。
「落ち着ける場所ってどこ行くか決まってますか?」
「どこってのは決めてないかな……。とりあえずカフェ的なところ?」
「それなら僕、行ってみたい場所があるんです!」
「行ってみたい場所?」
足を踏み入れたことのない場所へのリクエストってことだろうか?
もしかしたら茂は、佐木家では過保護に育てられているのかもしれない。
幼い時からサンドバッグのように拳でボコスカ殴られる人生を送っていないのだけは確かである。
さすがに俺の幼少期は特別酷いものなのは理解している。
「はい!スターヴァックスってわかりますか!?通称・スタヴァって呼ばれている店です!中学生が先輩に連れられてスタヴァ行くって背徳感凄くないですか!?」
「そ、そうか?もしかしてそれが……?」
「はい!チョイワルです!僕の中学はそもそも登下校中の寄り道禁止なんです。その禁止を破ってスタヴァに行くなんて……。不良そのものじゃないですか!」
詠美……。
過保護に育て過ぎて弟君、変な拗らせ方してるんだが……。
見ているぶんには面白いし、愉快である。
俺の周りではむしろかなりまともな部類な人ではある。
「寄り道禁止、ゲーセン禁止、カラオケ禁止。……僕もついに校則3柱をクリアしちゃいました!」
「校則3柱ってなんだよ……」
「へへへ……。僕にはもう時間がないんですよ」
「時間……?」
「だって僕、どうやっても今年中に死ぬ運命らしいんですよねー。ギフト狩り?とかいう連中に殺害されるんだって」
「っ!?」
「だったら最後くらい好きに生きたいじゃないですか!」
「…………」
あー、なるほど。
茂はもう生きるのを諦めて好きに生きているわけか……。
彼の最後については、原作でサラッと流された程度。
『ギフト狩り集団・五月雨茜に殺害される』んだったか……。
詠美ルートの流れをだんだん思い出してきた。
三島遥香の逮捕事件と同じ。
個別ルートに入らなくても、赤坂乙葉同様に、佐木茂殺害事件はどこかで起きる。
五月雨茜をどうしたって、彼女はトカゲの尻尾切りとばかりに仲間からは見捨てられる。
…………なんなんこれ?
ほんっとうにギフト狩り集団ってクソ過ぎる……。
瀧口雅也先生……。
あいつは本当に鬼畜かよ……。
「…………」
五月雨茜か……。
ゆりかから最近焦っている旨を昨日聞いてしまったわけだが、ちょっと要マークする必要があるかもしれない。
「バーカ!最後とか言うなっての。もっと生きることに貪欲になれっての」
「明智先輩……。だって……、だって明智先輩も僕とほぼ同じ年代で寿命が尽きるんですよ!?明智先輩は未来を見てないからわからないんだ……」
「わかるよ……。ある程度俺だって未来を知ってる」
「え?」
「俺が憎しみの象徴となって、ギフト派とギフト狩り派が別れて争いが絶えない未来が待ち構えているくらい……。もう知っているんだ」
むしろ、未来ばかり見て明智秀頼の人生を歩んできたんだ。
下手に『タイムスリップ』して見てきた世界より、よほど未来の状況を理解している。
「ムカつかねぇ?そんな神の意思に従って自分が犠牲になるような未来」
「あ、明智先輩……」
「少なくとも俺は納得できないね。女とイチャイチャしてぇし、キスしてぇし、童貞卒業してぇし、子供欲しいし。……あぁ、まだまだ俺の夢叶えてねぇじゃん。茂だって童貞卒業したいだろ?」
「か、勝手に僕を童貞扱いしないでください!ね、クラスメートの子と一緒に卒業してるかもしれないじゃないですか!」
純粋無垢な茂が赤くなりながら、どもりだす。
さすがに童貞の意味は知っているのには安心した。
「やっぱり童貞じゃん。童貞が許されるのは小学生までだよねー」
「ええぇぇ!?そうだったんですかぁー!?……あれ?明智先輩も童貞なのでは?」
「ど、ど、ど、ど、童貞ちゃうわ!」
「さっき自分でカミングアウトしたじゃないですか……」
「…………」
「…………」
お互い無言になり、気まずい空気になる。
それと同時にある思いが込み上げてくる。
「童貞のまま死ぬって嫌じゃないか?」
「た、確かに嫌ですね……」
「知り合いの師匠が言うには、女を抱いていると現実なんかどうでも良くなる麻薬みたいなものが脳内に分泌するらしい」
「し、知り合いの師匠ってのはよくわかりませんが……。合法麻薬、チョイワルじゃないですか!やってみてぇ……」
「そうそう!ノリが良いじゃねぇか茂!お前、抱きたい女いるか?」
「高望みするなら……、スターチャイルドですね」
「絶対ダメ!スタチャは絶対ダメ!」
「えー!酷くないですかそれぇ!?」
「そういうの普通は学校の高嶺の花みたいな子選ぶだろぉ!?」
いきなりスタチャと抱きたいとか言われて『うん!』とか頷けるわけがなかった。
スタチャと星子にはそういうのとは無縁の無垢で愛くるしい存在でいて欲しい。
どっかの男の白い液体で汚されるとかイメージもしたくなかった。
「なるほど!そうなんですね!なら僕は美香ちゃん狙いです!」
「おぉ!美香ちゃん、良いじゃないか!小柄でなぁ!」
「いや、身長はわりと高いですよ。僕くらいあります」
「あぁ、そう……」
茂の身長で160センチちょうどくらいなので、確かに女子だとそこそこ高い人である。
「へぇ、あの美香ちゃんを茂がねぇ」
「や、やめてくださいよ明智先輩!い、弄らないで!あと、美香ちゃんの顔知らないでしょ!?」
「こじるりみたいな子でしょ」
「指原似ですよ。全然違うじゃないですか……」
俺のイメージの美香ちゃんと、実物の美香ちゃんのイメージはまったくの別人のようであった。
「んで、茂は指原のどこが良いんだよ!?顔か?胸か?匂いか?」
「指原じゃなくて美香ちゃんです。木村美香ちゃんですよ。そうですね……、強いて言うなら脚と腋ですかね」
「なん……だと……?」
「明智先輩?」
「わかる。俺も女の子の脚と腋が大好き」
「本当ですか!?僕たち相性最高じゃないですか!」
こんな身近に俺の同士がいたことに感動する。
いつも、誰からも理解されなかった脚と腋の趣味にまさか両方の好みが一致する後輩が現れるなんて。
「ふっ……。もしかして指原ってちょっと脚太めだろ?」
「美香ちゃんですよ。でも流石です明智先輩。ちょっと肉付きが良くて太い脚で挟まれたいです」
「最高じゃねぇか!こじるり!」
「美香ちゃんですよ」
ついさっきまで会っていたサーヤのような脚の女性……。
むしろ紹介して欲しいくらいである。
そんな話題で盛り上がっていると、スタヴァが見えてきたのである。
確か今日はスタヴァの姉ちゃんのシフト日だったことを思い出しながらレジ前に行くと、案の定スタヴァの姉ちゃんが「いらっしゃいませ、明智さん!」と眩しい笑顔で声をかけてくれた。