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43、五月雨茜は泣き崩れる

「…………っ」


五月雨茜は苦虫を潰したような顔をして、追い詰められていた。

何をやっても上手くいかないプレッシャーにどんどんどんどん押し潰されていく。


「五月雨君……。あんまりこういうことを言いたくはないけど……、無能だよね君」

「も、申し訳ありません……」

「君がギフト学園に入学し、ギフト狩りとして何か果たせたのかい?失敗に失敗に失敗……。出来が悪すぎて使えないね……」

「は、はい……」


ギフト狩りのリーダーである瀧口雅也は、呆れたとばかりに「はぁ……」とため息を吐き、眉間にシワを寄せる。

「どうしたら良いのかねぇ……」と呟くと、茜の朱と蒼の目がビクッと揺れる。

恐怖心に支配された顔になる。


「さ、五月雨の教育は俺がまだまだ未熟だからです。瀧口先生……」

「関。庇うことはしなくてもいいよ。今はそういうタイミングじゃない」

「……はい。ごめんなさい」


茜のフォローのためにと割り込む関だが、瀧口に意図をすぐに察せられてしまい引っ込める。

なあなあで流そうとしていた関は失敗してしまい、下を向き、ことの流れに身を任せることにした。


「上松君という優秀な人がいなくなったのが痛いな……。五月雨君が取り逃がした人物を上松君が捕まえるなんて冗談みたいな報告もあるしね……。岬君も付いていながらギフト狩り戦力の弱体化が嘆かわしいねー……」


この場に不在な一緒に作戦失敗した岬麻衣への皮肉もある。

そんなこと、彼女は知りようがないが……。

因みに麻衣は「へっくしゅーん」と、学校の帰り道の中の途中で噂をされたことによりくしゃみをしていたのであった。

「誰かあたしの話題にしてる?」と呟きながら呑気に歩いていた。


「五月雨君……。もし不要だと僕が判断した時には君はギフト狩りから追放させてもらうよ」

「っ……。は、はい……。すみません……」

「もしかしたら僕は君を口封じという手段すら取るかもしれない」

「…………!?」


茜は息を飲む。

自分はもしかしたらギフト狩りによって処分されるという罰に震えだす。

瀧口の中ではただの脅しではあるのだが、茜にはそんな意図は伝わることもなくその恐怖に足がすくみだす。


「せ、先生!?そ、それはいくらなんでも重すぎるかと!?」

「僕だって実行に移す気はない。安心したまえ」


関の言葉にはそう返しているが、成果が上がらないといつそのトリガーが引かれるかもわからない。

自分の脅威に茜も死にもの狂いで結果を残さないといけなくなる。


「そうだね、じゃあ上松君をギフト狩りに呼び戻してみるミッションでもあげようか五月雨君」

「わかりました……」

「これが最後の命令……」

「っ……。あ……」

「……というわけにはならないけど、失望させないで欲しいな……」


流し目で睨まれ、茜の背筋がピンと伸びる。

「ま、任せてください!絶対に上松先輩を呼び戻してみせます!」と意気込む。

「頑張って」と期待されていない声を放ち、瀧口は教室から出て行く。


「わ、悪いな……五月雨……。俺も一緒に上松をギフト狩りに戻る説得するから一緒に達成するぞ!」

「は、はい……」


関はそうやってわざと明るく声をかけるが、(もう上松がギフト狩りに戻る気はないだろうな……)と察していた。

1年以上そういう説得をし続けたが、もう手応えという手応えが一切ないのだから。

五月雨茜にそれが出来るかと問われれば『ノー』というのが関の判断である。


「自分、がんばるっすよ!」


五月雨も、関に心配させないためにわざとらしい笑顔を浮かべた。





─────





とにかく行動あるのみ。

突き動かされるように関と別れて行動に移す。

もはや、茜はギフトが憎いのか、単に恐怖心に刈られた行動なのか見境が無くなっていた。

そして、その行動原理も見失い、焦りの感情を産み出していた。


「とにかく自分が……。とにかく自分が自分で頑張らないと……!」


彼女は女子寮に帰宅すると、真っ先に上松ゆりかの部屋の扉を叩いていた。

「上松先輩!いませんかー!」と、冷静を装いながら大声を上げた。

すると20秒くらいしてガタガタと人が歩く音が扉から漏れる。

「どうしたー?五月雨?」と黒髪を伸ばしたジャージ姿のゆりかが顔を覗かせた。

完全オフの女性の姿である。

彼女の姿を見て、「がんばらないと……」と決心するように茜は呟いた。


「ん?」

「う、上松先輩!」

「もしかしてギフト狩りに戻れという話か」

「え……?」


見透かされたような発言に茜は色の違う両方の眼を見開く。

その茜の反応を見ただけでゆりかはすべてを察して、「ふぅ……」と息を吐く。


「悪いな五月雨……。我はもうギフト狩りとは無縁にしておいてくれ……」

「ま、待ってください上松先輩!」

「どうした?」

「どうしても戻って来れませんか?」

「どうしてもだ……。関や瀧口先生が戻したがっているのは我も承知済み。だが、残念ながらもう我は生き方を変えたのだ。すまない五月雨」

「は、はい……」


端から取り合う気がない態度を察して、引いてしまう五月雨。

それから再び「悪いな五月雨……」とゆりかが謝り、「何か違う用事だったら相手になるから」と告げて扉がピシャッと閉じられた。


「…………自分ももうギフト狩りから足を洗いたい……」


なんの憂いもなく、赤坂乙葉や細川星子、津軽和らのクラスメートと友達になりたい。

後ろめたさもなく絵美先輩や上松先輩や明智先輩などの部活の輪に入りたい。

様々な葛藤が脳内で生まれてきて、五月雨も自分の部屋へと歩いていく。


「はぁ……。生きていても面白くない……。もう死にたいよ……。お父さん、お母さん……」


ギフトで殺害された両親を思いだしながら、1人の部屋で泣き崩れた……。

その泣き声は、誰にも届かない……。

彼女の心が壊れていることに、誰も気付かない……。

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