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39、サーヤは暇してない

アリアとアイリのファン・レースト姉妹とのやり取りから数時間後──。

学校の授業を全部こなしてから放課後になり、真っ先に『暗黒真珠佐山』に駆け抜けて行った。

赤の他人に自分の身のうち話を披露したいとなると、やはり占い師は自分の悩みを解決してくれるのではないかという期待をしてしまう。

気合いを入れて、怪しい内装の店へと踏み入れた。


「いらっしゃいませー。あら、愚民じゃない」


いつもレジ前に暇そうにして座っているサーヤが目に入る。

相変わらず髪型に力を入れているのか、桃色の髪をドリルにして、オカルト色を強めるようなフードを被って椅子に座りふんぞりかえっていた。

暇そうに入口を注視していたようで、来客を待っていたのか、真っ先に目が合った。

そういうたまに見られる庶民的なところは可愛い。


「サーヤ!サーヤだっ!」

「クスッ。今日は、愚民の語彙力も下がったみたいじゃない。悩みのある人間は視野が狭くなる。それは時に焦りになる」

「なんか、いつにも増して難しいこと言ってるな……」

「そして、死ぬ」

「なんでだよ!?悩みのある人間が視野が狭い、焦る、死ぬって順番はしょり過ぎだよ!?」


意味ありげなオカルト口調から一転、突然サーヤの語彙力も小学生並みに転落する。

相変わらずのサーヤペースは、いつ店に来ても慣れないものである。

これでも初対面時に比べれば絡みやすくはなったが、絡みにくいという事実は変わらない。

サーヤから店を紹介されるほどに仲良くなったマスターのコミュ力は多分相当だと思う。


「え?妾に突っ込みしに来たの愚民?」

「占われに来たんだよ!」

「占われってなんですか?面白い単語。ぶふっ!」

「変なツボに入ってるし……」


俺も多分『占われに来た』なんて単語を出したのもはじめてである。

確かに言いにくい。

『サーヤに占って欲しい』と素直にストレートな言い回しの方が伝わりやすかったかもしれない。


「あー。面白かったわ愚民」

「そりゃどうも……」

「今日はいかにも占って欲しいって顔に書いているわね」

「『暗黒真珠佐山』に足を踏み入れたってことはそういうことだよ」

「あら、可愛い男。愚民をテディーベアーにするギフトを持っていたら使いたいぐらいに可愛いわね」


浅井千姫にも出来てしまえそうなギフト能力だなとちょっとクスッときた。

そんなギフト能力があれば、完全に千姫のギフトの下位互換になりそうではある。


「では、こちらに移動してください」


サーヤがレジから占うテーブルへと案内する。

徒歩10秒にあるすぐそこの移動である。

ほどよくむっちりして肉付きのある太ももは相変わらず健在である。

今日は長い靴下を履いているのも、また目が行ってしまう。


「愚民……。なにを妾の足に目を向ける?」

「ヴェッ、マリモッ!」

「は?」

「……………………」


『いえ、なにも!』と言うつもりだったが、テンパったせいで滑舌も悪くなり変な言語が出てしまった。

ブレザーの胸元を揺らしながら誤魔化す。


「まぁ、いいわ。そんなに妾の足に目を送るなんて……。はっ!?あんたまさか!?」

「っ!?」

「ふ、踏まれたい趣味でもお持ち?」

「ないです」

「そ、そう。あ、あなたにそんな趣味がなくて安心した……」

「キャラクター崩壊してるじゃん……」


妾とか愚民とかが咄嗟に出ない辺り、素の佐山ゆり子の面が浮き彫りになっていた。

やっぱりサーヤはキャラを作っていたと確信した。


「ん、んんっ!……あ、あー。よし!…………ほら、座りなさい愚民」

「は、はい……」


サーヤチューニングが終わったのか、マイステージであるテーブル卓に案内を終えると俺に椅子へ座らせるように促す。

俺が椅子に座ったのを確認すると、サーヤもその向かいになるように腰かける。

相変わらず太めな脚の動きが妙にお客さんを笑顔にさせるのであった。


「本日はどのような占い内容にするのかしら?本日のオススメは『来世の動物』『ギャンブル運』『人気のお店に行列なしで入れるかどうか』の3つになっています」

「オススメ抜きで」

「なっ!?」


最近はじめたのか、レストラン風の注文方法であったが正直どれも占って欲しいと惹かれるものは皆無であった。


「まさか愚民……。勉学や恋愛とか将来とかそういうベタな占いを所望で……?」

「そうだよ。別にベタで良いじゃないか」

「友達のスタヴァ店員から『レストランみたいに本日のオススメ占いなんてあったら流行りそうじゃない?』と安易に勧められて試したものの、全然ダメじゃない!あいつ……」

「友達を恨むものじゃないよ。レストランとか居酒屋だから目を惹くのであって占い師とは相性悪いって!」


サーヤの友達のスタヴァ店員が誰かは知らないが、なんとなくスタヴァの姉ちゃんである千夏さんを思い浮かべるのでその軽口にムッとする。

まぁ、サーヤとスタヴァの姉ちゃんじゃあ性格が違い過ぎるから仲良くしている図が一切想像出来ないから違うだろうけどね……。


「それで占って欲しいこととは……?」

「いざ言えって催促されると恥ずかしいんだよな……」

「本気で何しに来たの愚民?」

「いや、言う。ただ、自分のタイミングで言わせて!」

「好きな人のいる小学生みたい……」


あー、やべ……。

つい勢いで来たでなんて言おう……。

マスターや達裄さんの年上男性ならオブラートに包まずに言えることでも、サーヤとなると中々伝えにくい。

仮にも女性だし、どういった切り口で相談を持ちかけよう。


「……………………」

「ねぇ、まだ愚民?早く言いなさい?妾だって暇ではないのよ?」

「…………入店した時、すげぇ暇そうだった気がするけど……」

「はい、目の錯覚ーっ!乱反射ですぅぅぅ!」

「お願いだから、もうちょっと男子の葛藤に対して空気読んでくれないかな……?乱反射ですぅぅぅ!と自信満々な発言に対してどんな気分で聞いてなきゃいけないのよ!?」

「妾は、占いの本を100冊読んだが、ついぞ空気は読まなかったのよ……」

「ぜんぜんうまくねぇよ」


ただ、そうやって茶化すのがサーヤ流なのか。

普段のリラックスした感じに心境が変化していく。

よし、言おうと心でガッツポーズをする。


「サーヤ!占って欲しい!」

「はいはい。なんでもかんでも占うのがサーヤの仕事ですわよ」

「俺の童貞卒業はいつになるのか占って欲しい!」

「ふっ。一生童貞でいなさい」

「鼻で笑った?」


「おっと失礼」と言いながら、口元を右手で覆い隠すサーヤ。

目を瞑りながら「…………」と無言になり、10秒間動きが止まった。


「え?童貞卒業?」

「うん。そういうこと」

「…………よく妾に相談しに来たわね」

「サーヤが急かすのが悪いんじゃん!」

「まるで妾が悪いとでも噛みつこうとばかりの返答ね……。え?童貞卒業?」

「だからそうだっての」


何回聞き返すのか。

サーヤが意味を理解するとぽっと赤くなる。


「ど、ど、ど、ど、童貞!?そんな質問する客、愚民がはじめて……」

「サーヤのナンバーワンになれて嬉しいよ」

「わ、妾も処●だから。そういうのわかんない」

「それは、きいてない」


たどたどしいジャパン語のサーヤ。

普段の淡々とした性格はどこへ消えたのか……。


「わ、妾は……、愚民は顔も性格も良いからいつでも出来ると思うなぁ!」と、恥ずかしがりながらアドバイスをしてきた。


「アドバイスを求めるなら匿名の掲示板に書き込むよ。そうじゃなくて、サーヤから占って欲しいんだよ」

「そっかー。占って欲しいのかー。妾もビックリだよ」


童貞卒業に照れたのか、珍しいサーヤが見れたものだと身体全体がりんごのように赤くなっているサーヤを見ながら、占いの期待が膨らんでいった。

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