38、仮面の騎士の狙い通り
モヤモヤとして、複雑な1日の朝であった。
隣の席のアリアからも、「今日の秀頼こわぁい!」と弄られまくり、身体を揺らされありと色々なイタズラをしてきたが無反応で対応したら「つまんなーい」と言って引いてしまった。
アリアの弱点は無視・無反応のようだ。
「はぁ…………」
童貞卒業失敗は、今日1日は引きずりそうだ……。
もう、いっそ童貞卒業がいつなのか占ってもらいたいくらいだ。
占い師とかに俺の恋愛運とか聞いちゃって…………、占い師?
「……………………」
そういえば、俺の知り合いに占い師がいたな……。
こういう日こそ、そういうオカルトにすがりたい時だ。
実は妙案じゃないかと、思い至ったのである。
「秀頼があたしを無視するなんて生意気!アイリ、来てっ!」
「はっ!仮面の騎士、ここにっ!」
「あたしとのコンビネーションで秀頼になにがなんでも反応させるわよ!」
「私の得意分野だ」
一方、隣の席のお姫様は援軍として腹違いの姉を召喚していた。
意外とかまってちゃんなのか、俺の無反応なのが気にくわないらしく、アイリーンなんとかさんとの姉妹で俺から反応をもらいたいらしい。
子供かよ、アリア様……。
小さいころの佐々木絵美のような微笑ましい光景である。
なんか大事になるほど、アリア姉妹には無反応を貫こうというやる気が込み上げる。
「…………え?俺の反応が欲しいの?」
「そう!秀頼があたしを無視するなんて生意気!」
「……今、反応してるくない?」
「ノーカン!ノーカン!さっきの悩み秀頼に戻りなさい!」
「悩み秀頼ってなんだよ」
「今からあたしとアイリが秀頼をおもちゃにするんだから!」
「わかった、わかった!悩み秀頼に戻るよ……」
「わかってるじゃない!さぁ、あなたは悩み秀頼よ」
相変わらずアリアはなんか子供っぽいヒロインである。
タケルに攻略される気はあるのかないのかさっぱりわからないが、毎回毎回予想を裏切るような行動ばかりで振り回される。
アリアの恋人になる野郎がいるとすれば、そいつは大変だなという気分になる。
御愁傷様。
一生アリアのおもちゃにされ続けるんだろうな……と、その男性に変な同情が生まれそうである。
それがギャルゲー主人公であるタケルなのか、俺が顔も名前も知らない立派な金持ち男か、金持ちなだけでよくわからない変な男なのかは知らないけどね。
アリア様に促されるがまま、悩み秀頼になる。
「はぁ……。悩む。悩み秀頼だぜ……」
「秀頼のクセに悩んでいるわアイリ。生意気ねあいつ」
「車に轢かれて臓器はみ出れば良いのに」
「なんか凄い暴言飛び出なかったかな仮面さん?」
車に轢かれて臓器はみ出て死んだ前世がある俺に対し、畜生な暴言である。
臓器がはみ出たかどうかは、死んだので知らないけれど……。
「…………」
「アイリはしゃべってないってジェスチャーしてるわ」
「…………!」
コクコクと無機質な仮面がアリアの命令に従うように何回も頷いていた。
「あなた、ついさっきまでベラベラしゃべってましたよね!?」
「アイリはあたしの命令がない限り口を開かない寡黙な騎士よ!」
「そーだ!そーだ!」
「もう普通に喋ってるじゃねーかよ」
因みに、このクラスの教室では本当に寡黙であり、俺以外にはほとんど口を開かない謎の置物クラスメートになっているのがアイリーンなんとかさんもとい、仮面の騎士である。
俺とだけ会話をするシーンを目撃したクラスメートはぎょっとした表情を浮かべている時がある。
なぜ俺にだけこんなに仮面の騎士さんの口数が多いのか、未だに謎である。
アリアと仲良しな絵美の前ですら、ただ黙ってカカシになっているらしいのだ。
「秀頼があたしたちに突っ込むなんて生意気!」
「だってアリアも仮面さんは突っ込みどころ満載なんだもん」
「明智。何回も言うが私のことはアイリと呼べ。アリアばっかり名前でずるいじゃないか!」
「はいはい。わかってますよ……」
会話をしていて面白い2人ではある。
「学校でもプライベートでも私たちの正体を知っていながら舐めた口をきくのは明智だけだよ」
「別に舐めてはないけど……」
「でもあたしは秀頼のそーいう生意気なとこ好きよ。人生破滅させて虐めてやりたいもの」
「なんでこのお姫様は物騒なんだよ!」
「あたしなりの愛情表現。ぽっ!」
「ムカつくなこいつ……」
『ぽっ!』の惚れたような声と表情が可愛かったのだが、それ以上にイラつきが勝った瞬間であった。
アイリと決闘して以降、何かとこの姉妹から虐めを受けることもしばしばあった。
「アリアが隣の席になってから疲れが溜まる一方だよ……」
「狙い通りねアイリ!」
「狙い通りだアリア!」
「誰か隣の席変わってくれぇぇ!タケルくーん!アリアさんと交換してくれませんかねー!?」
「ダメです。個人的な都合で席替えしちゃダメだよ」
「チクショー!正論じゃねーか!」
童貞卒業失敗でセンチメンタルになっていたのに、アリアとアイリの姉妹のせいで、いつも通りのテンションに引き戻された。
元気は確かに出るのだが、疲れるという副作用が働いていた……。
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「やっぱり秀頼の隣は面白いわね、アイリ」
「アリアが学校の時間でも楽しいなら良かった。わざわざ明智の隣の席を譲ってもらった甲斐があるよ」
「早く学校卒業して、秀頼を家族に迎い入れたいなー!家族になりたい!」
アリアとアイリはこそこそと席替えに隠された秘密について語り合っていた。
「なー、こそこそしてるの感じ悪いんだけどー?」
「秀頼があたしたち姉妹の秘密の会話に探り入れるなんて生意気!」
嬉しそうなニコニコ顔で、アリアは楽しそうに秀頼へ顔を向けていた。