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37、宮村永遠のあめ玉

童貞卒業失敗から一夜……。

失敗したことによる情けなさ、失敗したことによる安心、不純な動機を煩っていた自分、彼女をもっと大事にしようという誓い。

色々な気持ちがドッキングしたものが自分の中でくすぶっていて、一睡も出来なかった……。

煩悩に溢れた自分を、1人で抱え込むのも大変だった……。


通学時間になると、絵美が真っ先に「体調悪そうだよ秀頼君!?学校行ける!?」と驚愕していた。


「おう!イケるイケる!このまま学校行ってすぐ自宅まで戻れる自信もあるしな!」

「学校行ってすぐ自宅まで戻ったらただの早退ですよ。やっぱり体調悪いんですか?」

「そ、そういう意味じゃなくて!『それくらいは元気はあるよ!』って意味!」


絵美相手なら童貞卒業出来たのだろうか?と、変な不純な思考をしている自分もまたいた。

幼くて可愛い童顔、胸は小さいけど身体のラインが妙にしっかりしていて、女の子らしいツインテールの髪型で、いつ見てもドキッとさせられる左目下にある泣き黒子。

女を意識するには充分に魅力的な絵美である。

いや、そういう目で見てしまっていること自体が間違っているのかも……、と心が揺れる。


「なんか秀頼君の態度がおかしいですよ」

「いつものことでしょ」

「まぁ、確かに……。おかしいのは毎日ですね」

「いや、否定はして!?『そんなことないよ!』ってフォローして!」

「そんなことないよ!」

「今じゃねぇよ……」


電車に乗るために駅に向かいながら、絵美と普段通りの会話をしていく。

ちょっとは気が紛れていくが、それでも異性としての佐々木絵美に意識しないこともないという状況である。

ダメだ、今は無意識に女を意識してしまう……。


「おはよう、明智君」

「おはよう円」


それからはいつも通り円をはじめとした十文字兄妹や永遠ちゃんたちのお馴染みメンバーと合流して電車に乗り込んでいく。

電車に揺らされている時には、円もまた俺の変化に気付いていたようだ。


「なんか明智君……。ピリピリしてる?」

「朝から微妙に様子が変なんですよ」


円と絵美で俺の態度の不調を語り合う。

「元気がないよね?」「元気もないし、落ち込み気味なんですよね……」と2人して俺を心配してくれている。


「秀頼さん。とりあえず甘いものを口にすると落ち着きます。ささやかなものですが、アメでもどうぞ」


そんな俺を永遠ちゃんも心配してくれた。

カバンをごそごそと漁り、俺の手に小袋に包まれたあめ玉が指に投下された。


「エイエンちゃん……。ありがとう。うわっ、3個ももらって良いの?」

「むしろこれくらいで秀頼さんが回復するなら安いものです!なんなら1袋全部あげますよ!」

「それは遠慮するよ……」


残り数個というわけでもなく、永遠ちゃんが手にしていた袋には、開封したばかりとでも言うようにアメがぎっしり詰められていた。


「絵美たちも要りますかー?」

「ありがとうございます。美味しくいただきます」


この場にいた絵美、円、タケル、理沙、和、星子、咲夜の順番で永遠ちゃんがアメを配っていた。

現代のナイチンゲールの生まれ変わりが宮村永遠なのかもしれない。

なんて考えていた。


「エイエンちゃん。いただきます」

「はい!」

「へぇ。犬のパッケージのアメなんだー」

「このアメは犬と猫とウサギとドラゴンの4種類で味が違うんですよ」

「あー!そういうやつか」


手にした犬以外のアメはポケットに入れたので、なんの動物が書かれていたのか見てなかった。

犬、猫、ウサギ、ドラゴンってまるで達裄さんならもらった耳と尻尾の動物なりきりセットみたいな…………犬?

犬耳、犬の尻尾を装備したゆりかを思い出して、だんだんと込み上げてくるものがある。


「………………っ!?」

「秀頼さん?顔が赤いですよ?」

「だ、大丈夫だよエイエンちゃん!顔が赤いだけだから!」

「……ん?」


永遠ちゃんを安心させて、犬の描かれた袋を破る。

薄い茶色のようなアメが現れた。

コーヒー味か。

美味しそうだと思いながら口にアメ玉を運んでいくと優しい味が広がっていき、美味しい。

かなり好きな味だ。


「美味しいねこのアメ。甘いんだけど、甘過ぎないのが良いね!甘さ控えめ最高だね!」

「糖分控えめの流行トレンドアメですよ!」

「と、トレンド……?」


昨日のトレンドである『ご自宅お持ち帰りデートで犬になる』が真っ先に思い浮かべる。

いやいやいや……、なしなし!

忘れろ自分と吹っ切る。


「ど、どうしたんですか?トレンドに何かトラウマが……?」

「ないよ……。安心してくれエイエンちゃん……」

「さっきから秀頼のリアクションおもろいなー」


咲夜ののんびりとした発言が耳に入り、リアクションをしてしまうのがダメだと悟る。

平常心でいようと、ピンと姿勢を正す。

あめ玉を転がし、もうアメに集中しようと目を閉じる。


「永遠先輩からもらったアメ、チョコレート味ですか?」

「わかる星子ちゃん!犬はチョコレート味なんだよ!」

「ちょ、チョコレート!?」


上松イヌ科に餌付けしたチョコレートのキッドカッドで頭が支配されていく。

『秀頼の唾液もチョコレートの味がするワン』という犬ゆりかの言葉がリプレイされる。


秀頼の唾液もチョコレートの味がするワン。

秀頼の唾液もチョコレートの味がするワン。

秀頼の唾液もチョコレートの味がするワン。

何回も何回も反復されていく。

なんで『ゆりかの唾液、チョコレートの味する』なんて言ってしまったのか……。

1日前の黒歴史が全部跳ね返ってきていた。


「…………………」

「秀頼、本当に体調悪くないか?」

「ダイジョブデース」


タケルからも心配されてしまうくらいに、今朝の俺は元気がないようだった……。

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