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34、上松ゆりかの宣言

コーヒーを口に含むゆりかを見てヤキモキしまう。

絵美や理沙、エニアなどの普段から家に入り浸っている子は日常なので、そんなに意識することもないが、ゆりかのような明智宅で見かけるのがレアな子はいるだけでドキドキが止まらない。


「ズズズズ…………」

「………………」

「ズズズズ…………」

「………………」

「…………秀頼の視線がじろじろ感じてこそばゆいぞ。恥ずかしい……」

「ご、ご、ごめん!」


コーヒーを啜るゆりかに指摘されて、慌てて謝罪する。

悪いことをしていたわけではないのに、何故か悪いことをしてしまった罪悪感に苛まれてしまう。

俺もコーヒーをすすりながら、考える時間を確保する。

マスターのコーヒーに慣れているぶん、インスタントコーヒーはやっぱり味気ないものである。


「………………」


うー……、恋愛経験値が少なくて誰か助けて欲しい……。

心の中で神様──つまるところ概念さんにお祈りを捧げていたところであった。


「そ、そういや最近なんかあったか!?そうそれ!?なんかあった!?そういう近況報告しようぜっ!」


意識し過ぎるのがダメだと気付く。

ゆりかに名前を呼ばせた辺りからなんでもかんでも恋愛方面にばっかり行ってしまう。

ここは普段の雑談をして、一回気まずい空気をリセットさせる一手を放つ。


「なんかはあると思う。毎日変化のある日々を過ごしているのだからな。咲夜なんかは、毎日毎日毎日学校に通っていて飽きたというが何が飽きたのかと我は説教してやりたい気分になったぞ。まったく、たるんでいるんじゃないかと思う。秀頼はどう考える?」

「そ、そういうのは置いておいて……。なんか気になったことの話題が欲しいの!」


ゆりかのポンコツ真面目が発動しそうになったのを必死で食い止める。

ギャル子やヨルがゆりかを弄るのはこういうところなのだと俺もよく理解している。

美月とゆりかのポンコツ真面目っぷりはどちらが上なのか、いつか競いたいものである。

こういうポンコツ理屈を聞いていると確かに恋愛ムードは簡単に消失するが、意味わからな過ぎて頭が痛くなるので却下させてもらった。

「なんか気になった話題か……」とゆりかは半分くらいコーヒーが減ったマグカップをお盆に置いて、顎に指を添えて、右斜め上へ視線が傾いた。


「そういえば最近……」

「そうそう!そういう話題が欲しいのよ!じゃんじゃんそういうトークを振ってちょうだい!乗るのは得意だから!」

「永遠が人が飽きることの精神状態について咲夜に教鞭をふるっていたな」

「だからそういう話はしたくないの!なし!そういう哲学的なのはなし!」

「ならば、最近聞いた『シュレーディンガーの猫』なんか面白いと思う。秀頼もどうだ?」

「『シュレーディンガーの猫』について、俺は別に猫が生きていようが、死んでいようが、増えていようが、ライオンがいようが興味ないのよ!」

「ライオンがいたら絶対ワクワクするだろ……」


そういう話を実際に聞くのであれば又聞きじゃなくて、教室1つを貸し切ったセミナー形式での聞き取りたいものである。

部屋で彼氏と彼女との会話として聞きたい話では一切なかった。


「そういえば最近……」

「そうそう!そういう話題が欲しいのよ!わかってるねー!」

「ヨルからコケが出来る仕組みを聞いたんだが、面白くなかった。秀頼にも面白いかどうか判断して欲しい。コケというのは」

「一切興味沸かないからコケの出来る仕組みとか知らない状態で死にたい」

「ヨルにウキウキでコケの話をされた時がまさにその心境だった。『えー?この話真面目に聞かなくちゃいけない感じ?』みたいな」

「ならそんな話すんなや」


なんか違うんだよなぁと思いながら、チョコレートを摘まむ。

ビターな風味が冷静さを取り戻させる。


「そういえば最近……」

「『そういえば最近』しか話の切り出し方ないの?」

「五月雨がなんか余裕がない感じがするな」

「そういうのが欲しかったのよ!話題を共通できる人の俺の知らない情報とかそういうの好き」

「秀頼は相変わらず人間が大好きだな」

「達裄さんの影響だなー。あの人、他人に興味ないですってスタンスでメチャクチャ人間大好きなツンデレなのよ」

「メイド服を貸してくれた学園長先生の友達という人だな。いつか師匠の師匠に挨拶をしたいものだ」

「待って。達裄さんの話に舵切らないで、五月雨の話に行って。若者兄ちゃんより後輩ちやまんの方が詳しく知りたいから」

「すまんすまん、五月雨の話だったな」

「達裄さんの名前出した俺も悪かったよ」


お互いに謝罪をし合うリスペクト精神である。

俺とゆりかが一緒にコーヒーをすすり、気持ちをリセットさせる。


「それで、五月雨の余裕がないとは……?」

「最近の五月雨は焦っているんだ」

「焦っている、か……」

「ギフト狩りをやっている悩みもあるのかもな。ただちょっとそんな気がするというだけだ」

「そっか……」


五月雨茜か……。

もう乙葉を襲うなんてことはなさそうだが、マークしておくに越したことはないだろうか。


「そんなことより秀頼」

「ん?」

「2人っきりの自宅デートだ。我はイチャイチャしたい」

「ゆりか」

「どうかしたのか?」

「2人っきりなのにイチャイチャの許可なんか要らないんだよ」

「なら遠慮なく…………。ひでよりぃぃ!頭撫で撫でして!」


珍しくゆりかから求められて、近付かれた頭を1回、2回と手を添えて撫でた。


「犬が人間に近付く気持ちがわかるな……。これは中々嬉しいな……」

「そう?」

「うむ。この家から帰るまで我は秀頼の犬になる!」

「………………は?」

「この家から帰るまで我は犬松ゆりかになる」

「そ、そうか……。犬になるのかゆりか……」

「うん!なる!」


ゆりかが犬になる宣言をして、変な意味にしか聞こえなかった俺は歪んでいるのかもしれない。

いや、犬になる宣言ってなんだよ……。

コケの話とかしてちょっと収まっていたドキドキが、再び鼓動を再開させた。

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