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33、明智秀頼の自制

「ゆりかは可愛いなぁ……」

「な、なんかいつもの師匠とちょっとテンションが違うぞ……」

「秀頼、だろ?ゆりか」

「いつもの秀頼と違う……」


帰り道。

昇降口で靴を内履きからローファーに履き替えてゆりかと並んで明智宅を目指していた。

ゆりかの独占欲を知った俺は、彼女にデレデレ状態になっていた。

こんなに自分も独占欲が強いなんて知らなかった。

それが明智秀頼という人間の性なのか、単に豊臣光秀時代からこういう深層心理があったのかはわからないが……。


「お前はあれだ!秀頼であって秀頼じゃない!闇秀頼だっ!」

「ふふっ。面白いなーゆりか」


(残念ながら偽物は俺だがな)と中の人はご満悦であった。

表に出られないぶん、よく俺の心の中で自己主張が激しいのであった。


「な!?笑うな!?お前のその笑いは我をポンコツだと思っている時のやつだろ!?」

「違うよゆりか。可愛い自慢の彼女って嬉しくなってこみ上げて来るんだよ」

「も、ものは言い様だ!」


可愛い自慢の彼女って嬉しくてこみ上げて来る時が、ゆりかがポンコツを晒している時なのは一切否定しない。


「確かに、今日はテンションが違うかもな」

「ようやく認めたかししょ…………秀頼。な、ならばそろそろ師匠呼びに戻しても」

「月曜日のテンションって低くなるもんな。授業中、久しぶりに眠たくなったよ」

「そういう可愛いテンションの変化では断じてないぞ。今日は少し、サディストが入ってる」

「常にマゾヒストみたいなニュアンスやめろ」


サディストが入っているの自覚は一切ないが、ゆりかと話しているとちょっとずつテンションが高くなっているかもしれない。

(お前はテンション高いとSになるよ。隠れSだよ)と中の人から小言を言われた。


「と、とりあえず手を繋いでくれないか秀頼……?」

「わ、わかった……」


ドストレートに来た誘いに、右手を差し出すとゆりかが左手を繋いできた。

彼女の体温はやや温かく、ほんのりとしたぬくもりが手を握っているという自覚を強く持たせていた。


「………………っ」

「…………」

「………………て、照れるなこういうの」

「……師匠が恥ずかしいなら我も恥ずかしいぞ」

「師匠になってる」

「い、いちいち突っ込むな秀頼……」


手を繋いだ瞬間、お互いがお互いを意識しまくりギクシャクしていた。

ただ、お互い手を離すことはしなかった。


「…………」


無言になりながら、ゆりかに触れるのははじめてですらないのにいつも以上に意識していた。

普段のゆりかは『師匠』と色気もそっけもない呼び方をしているせいか、『秀頼』と呼ばれるとぐぐっと異性を自覚していた。

たまにサディストになるのも、これはこれで良いかもしれない。

それから十数分歩いていき、ようやく明智宅が見えてきた。

おばさんは今日は出掛けているので、施錠された扉に鍵を開けて解放し、ゆりかを部屋へと誘導していく。


「お、お邪魔しまーす」とおそらく2回目の訪問になったゆりかが廊下を歩いていた。

「こっちこっち」と促していき、部屋へと招き入れた。


「好きなところに座って良いよ」とゆりかに行動の自由を許すと「ありがとう秀頼」と頷き、ベッドに座り込んだ。


「っ!?」

「秀頼……?」

「ああ、いや。なんでもない。ちょっと待ってて。飲み物でもなんか持ってくるから」


なんでゆりかは堂々とベッドに座れるんだよ!

普段がポンコツな天然過ぎて誘っているのかと、悶々とした気分になる。

いつか大人の階段に登る日が来るのかと準備していたが、まさかそれが今日の可能性もあるのか?

恥ずかしながら薬局で買った()()を使う日が来たのか!?

興奮しながら台所の冷たくなった椅子に座って悩んでいた。

冷蔵庫にあるウーロン茶をコップに注ぎ入れて持っていく予定であったが、考える時間が欲しくてヤカンに水を入れてガスコンロの火を着けた。

インスタントコーヒーを作るために、マグカップを用意してお湯が沸くのを待った。

カチカチカチという時計だけがむなしく台所に響いていた。





─────





「お待たせー」

「おお!来たなししょ…………秀頼」

「そんなに俺の名前慣れない?」

「師匠の名前を呼ぶのがおこがましくて……」

「要らない気遣いだよ」


小さいお盆を持ちながら、コーヒーにチョコレートとビスケットのお菓子を何個か入れてきた。

部屋のドアを閉めながらゆりかに返事をする。

その際にチラッと見ると、彼女はまだベッドの上にいた。

というか……。


「秀頼の毛布はフカフカだなぁ!我たちの住む女子寮の安物毛布とは段違いだ。あったまって眠たくなるな!」

「…………」


ブレザーを着たまま、ベッドの中で横になりながら楽しそうにしていた。

『おいおい、ゆりかさんよ。そりゃないんじゃないかい』と口走りそうになるのをぐっと飲み込む。

台所で冷たい椅子に座り、頭を冷やせたのが幸いだった。

そうでなければ自分を止められなかったかもされない。

なんとかまだ自制出来ている。


「お、おーいゆりか!温かい内にコーヒー飲もうぜ!」

「おお!ありがたいです秀頼!」


毛布を剥がして、ベッドから抜け出す黒髪の忍者。

きちんと絵美や永遠ちゃんや美月あたりにきちんとした性の勉強を受けさせてやってはくれないだろうか……。


「では、いただきます秀頼」と、気にした様子もなく、黄色のマグカップを手にして「ふーっ、ふーっ」とコーヒーを冷まさせていた。

ご自宅お持ち帰りデートは肝が冷えそうになる。

俺もコーヒーを冷まさせながら、チロッとゆりかを盗み見る。


「美味しいですね、秀頼」


綻んでいたゆりかの目とガッツリと合う。

まつ毛が長くて色っぽい……。

やっぱりゆりかもかなりの美人に入るのを意識してしまっていた。

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