31、アリアは笑いを噛み殺す
月曜日の授業。
滞りなく朝イチで数学から始まり、世界史にギフト基礎と続いていった。
眠りを堪えながらクラス中を見渡すと、3割くらいの生徒は居眠りと月曜日のダルさの誘惑に負けた者たちの姿があった。
俺も、授業中なのに頭が支えきれずに船をこぎそうになってしまう。
まぁ、たまには居眠りくらい良いか……。
みんなやってるしな……。
前世の言葉を借りるなら『赤信号、みんなでわたれば怖くない』だ……。
なんだったら『命令支配』でクラスメートと教師全員を居眠り状態にできるのだが、さすがにそんなしょうもないギフトのつかいかたはできるはずもない……。
仕方ない。
ノートは絵美か、他クラスの永遠ちゃんとか円に見せてもら……え……。
考えるのも限界だ……。
おやす…………み。
『おい、明智!授業中だ。居眠りしかかってるぞ』
「え?」
ギフト基礎の担当をしている瀧口からの名指し注意にハッとなる。
隣のアリアから「秀頼、大丈夫?」と聞かれ、とりあえず頷いてだけおく。
「眠たいのはわかるが、あと15分我慢してくれ。特に学校と授業大好き明智に寝られるとこっちもなんかへこむ」
「は、はい……」
瀧口……。
なんでお前、俺を名指しした?
お前はまさかギフト狩りについて俺が探りを入れていると気付いているのか……?
「くっくっく……。秀頼怒られてやんの」
「…………」
因みに隣に座るアリアさんは笑いを噛み殺しながらにやついている。
絶妙に俺にだけ聞こえる声のボリュームなのが嫌らしい。
「目が覚めたか?」
「さめましたー……」
「まだ3割程度の覚醒って感じか。明智に限らず山本とか寝てる人を隣の人は起こしてやれー」
お前は、いつもどんな心境で俺たちに授業をしている……?
瀧口に起こされたという事実に、恐怖を覚え、かなり早いペースで眠気が散っていく。
油断していた。
あれはあいつなりの、俺への牽制だったのかもしれない。
「とりあえず1分待つ。その間にみんな目を覚ませー。窓際の席の人、窓開けて換気しようか。廊下側の生徒も廊下と教室の出入口を開けてくれ」
瀧口がメガネをクイクイと位置の調節をしながら注意を呼び掛けて、換気の指示をする。
少しざわざわしながらも山本やヨル、詠美などの居眠り軍団が駆逐されていた。
「それじゃあ授業を再開する。ギフトの発展により科学も発達していき……」
瀧口が淡々と授業を続けていく。
彼がギフト狩りっていう正体を知らない普通の生徒でいたかったかもなと思いながら、ノートにシャープペンを走らせた。
─────
「全部の授業終わったぁ……。月曜日の授業編、完!」
「わーっ!がんばりましたね、秀頼!」
「がんばったなー、アリア……。てか何そのテンション?」
明日の授業からは本調子でこなせる。
とりあえず魔の月曜日はクリアしたのだ。
「と、ところで秀頼!い、い、い、一緒にスタヴァでも行かない!?」
「ご、ごめんアリア。これから用事あるんだ……」
ゆりかのご自宅お持ち帰りデートがまだ残っている。
しかし、放課後になった以上、元気100倍アンパンな男のように顔を変えられたことによるハイモードに突入した。
人はそれをゾーンと呼ぶ。
「ふーん。あたしの誘いを断るなんて秀頼の癖に生意気!秀吉に改名してから出直しなさい!」
「そんなキレんでも……。いつか埋め合わせするよ。スタヴァでも良いし、ミャクドナルドでもカラオケでもどこでも付き合うよ」
「そ。期待しないで待つ」
アリアのスンとした返事に反応したかのように、そこに突然仮面の騎士が現れた。
「アリア様、本日は会議の日なので寄り道厳禁です。帰りましょう」
「わかってるわよ。ジョークさんよ、ジョークさん」
「いや、会議をサボるつもりだったんかい!」
珍しいアリアのボケが炸裂し、突っ込んでしまった。
たまにアリアって絵美や円みたいに乙女な視線を俺に向けている気がするのだが、いったいどうなんだろう?
1番真意が読み取れない。
いやいや、これは自惚れだな。
「ただ、秀頼から『埋め合わせをする』という言質は取ったわ。行く気になれない会議というハズレの日ではあるけど、秀頼から恩を売ることができたのは僥倖ね」
「さすがアリア様だ!」
「クソッ!トラップに引っ掛かったじゃねぇか!」
「照れ隠ししてるぅー!秀頼かわいい!」
「もううざいよ、アリア様」
ちょっとだけ照れながら、会議に行くアリアと仮面へ手を振って見送った。
『会議が1週間ぶっ続けで終わらなくて、今週は学校に来ないと良いのに……』、とラインを後で送っておくとしよう。
「さて、じゃあ行くか」
ゆりかのクラスに行き、ゆりかを迎えることがはじめてなので緊張しながら1組のクラスに向かう。
去年に引き続き、5組に在籍しているので微妙に1組までの遠い廊下を歩くことになる。
見知らぬ生徒たちが歩く廊下にソワソワしながら1組の教室を見付けると、ちょうどそこから出てきた知人と目が合った。
「あ!明智君!久しぶりっー!」
「セナちゃん!こんにちは」
「うぇーん!明智君と一緒のクラスじゃなくなって寂しいよぉ!」
タヌキ顔の可愛らしい雰囲気をまとう熊本セナちゃんとの再会である。
会うのは、約2ヶ月ぶりくらいになりそうだ。
「元気してた?」
「元気じゃないよぉ……。明智君と同じクラスじゃないとやる気が出ないのぉ……」
「なら、悠久に『来年は同じクラスにして!』って直談判するしかないね!」
「悠久……?って学園長先生だよね?そんな恐れ多いこと無理ぃ……。美人だけどなんか冷たそうだし……」
「冷たいというか、ドライだね」
余裕で明智秀頼の情報を仮面の騎士に売るし。
それからしょうもない雑談に3分程度の時間を費やし、話が途切れた。
「そろそろ部活だよー……。またね、明智君」
「バイバイ、セナちゃん!またゆっくり話そうね!」
そんなわけで、アリアの次はセナちゃんをも見送った。
色々な女子に話しかけられる日だと振り返りながら、ゆりかのいる教室の前に立った。




