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30、佐々木絵美はなだめる

ゆりかと自宅デートをセッティングしたその後。

この日は、月曜日が故にみんながみんな気だるそうな空気が学校全体に広がっていた。

それはクラスメートが閉じ込められている教室も例外はない。

特に詠美は、人1倍怠い雰囲気を纏っていた。


「あーーーーー。日曜日に戻りたいよーーー!ずっと日曜日でいたい!ずっと休んでいたい…………。ずっとずっとずっと終わらない夏休みのループに閉じ込められたい!」

「怠惰だな……、詠美……」

「ひぃ君は学校好きだからわかんないけど、私はそもそも学校に通うのが嫌いなんだよ。学校に行きたくないし、働きたくもない」

「ダメ人間だなー……」

「将来はひぃ君の専業主婦です」

「君がギフトアカデミーに来たのは進路や将来に有利だからって理由だろうに……」


真面目な絵美と、このダメダメぐうたら人間詠美と親戚な事実が受け入れるのを拒みそうになる。

詠美が俺の専業主婦になりたいのなら、高校卒業したら即夢を叶えてやっても良い。

彼女に後悔がないのであれば、だが……。


(おいおい、ならば主よ。詠美の誕生日プレゼントは日曜日なんてどうだ?)と真面目にふざけた提案されるが、果たしてどうやって日曜日をプレゼントすれば良いのか……。

『日曜日の次の日の月曜日を日曜日にしちゃいましたー!』とか俺個人が言っても、周りの認識は月曜日なのでなんの解決にもならない。

そもそも詠美とは、プレゼントを交換するような深い仲ですらない。


「秀頼君……。詠美ちゃんの言い分なんか気にしないでください」

「絵美!」

「エミたんだぁー!」

「エミたんってなんですか……」


詠美の怠惰が、絵美の席にまで届いたらしくこちらまですっとんできたようだ。

大変困ったと絵美が詠美の様子にもの申したいようである。


「あんまり情けない姿を見せないで詠美ちゃん」

「だってー……。ねぇ?ダルいよね、ひぃ君」

「確かに月曜日ダルいのは確かだが……。それは、俺に振らないでくれ……。あと、別に火曜日以降はあんまりダルいとか思わないし……」


絵美が『詠美に味方するのか?』と嫉妬の目を向けているのに気付いているから。

この辺はなあなあで済ませたい。


「はぁぁぁぁーーー……。ダルすぎダルすぎ、ダルビッシュだよ!」

「秀頼君は行ってください……。わたしが詠美ちゃんをなだめます」

「ま、任せたぞ絵美!さらばっ!」

「あっ!?待ってひぃ君!?エミたんは優しくしてくれないの!」

「詠美ちゃん」

「ひっ!?」


詠美のことは絵美に任せて自分の席に戻ろうと、方向転換する。

そのまま自分の席に戻ろうと歩いていると、「明智せんせーっ!」と俺を呼ぶ山本の声がする。

山本のいる方向へ視線を送ると、タケルと一緒にはしゃぎながら俺の席のまわりに固まっている。

俺の席の隣に座る女子生徒がちょっと不憫になってくる。


「毎日毎日、俺のまわりはうるさくてごめんねアリア……」

「いえいえ!賑やかな場が好きですから!そ、それに……私、秀頼の席の隣で…………ウレシイ」

「最後片言過ぎて聞こえなかったよ。もう1回良いかな?」

「いえ!なんでもないです!気にしないで!あたしを気にするなんて、秀頼は生意気すぎ!」


なんの因果なのか。

この腹黒お姫様なアリア様とはゴールデンウィーク終了後の席替えで隣になったのだ。

クラスの前では表アリアなので、人当たりは良い。

裏の顔については考えないことにしている。

もうちょっとアリアと会話をしてみたいのだが、大体タケルと山本と遊ぶ時間を取られて休憩時間はアリアと絡む時間が少ない。

せいぜい英語の時間で、隣の席の子と英会話をする程度しかやり取りはない。


「山本のテンション高いけど今日はどうしたん?サッカー部でなんかあったか?」

「そういうんじゃねぇんだよ!十文字がまた例の子と会ったんだってよ。セレナちゃん、だっけ?」

「あぁ。セレナだよ」

「へぇ。タケルがセレナ……ちゃん?とまた会ったのか」


あっぶねぇ……、と心で安心する。

彼女を知っている風のテンションでセレナと呼び捨てで呼びそうになり、無理矢理言葉を止めた。

確かにセレナの人となり、声や性格などはあらかた知ってはいるのだが、どれもこれも前世の記憶のおかげだ。

昔から、『悲しみの連鎖を断ち切り』シリーズの知識か、明智秀頼の経験からの記憶かの情報を分けるのが苦手なので、改めて意識してボロを出さないようにしようと落ち着かせる。

とりあえず、タケルがセレナと再び会っているという事実だけを知っている風を装うことを確認する。


「通ってるなー十文字。通い妻ならぬ通い夫ってか!」

「通い夫ってなんだよ……。別にセレナとはそういう関係じゃない」

「おいおい十文字よ。『まだ』が抜けてるぞ。『別にまだセレナとはそういう関係じゃない』が正しい表現だろ?」

「やめろよ、そういう恥ずかしいこと言うのさー!」


タケルが山本に女関係で突っ込まれている図が中々新鮮である。

ずっとテレビ感覚で見ていられるな。


「だってわざわざセレナちゃんが好きなあんこのたい焼き持っていって会ったんだろう?どう思うアリアさん?」

「十文字君の春が来たんだと思います!」

「ではここで明智先生が春にちなんだ曲を歌ってもらいます」

「え?突然?」


山本がアリアに話を振ったと思ったら、なぜか俺にも変な無茶振りがされる。

こういうところ学生ノリだなと山本に心で突っ込み、右手で作った拳をマイクに見立てた。


「それでは俺の十八番、聞いてください。粉雪」

「春じゃねぇし……。おもいっきり冬の歌だし……」

「粉雪に心まで白く染めてもらえよ」

「それだけ聞くと、粉雪意味わかんねぇな……。粉雪は物理的に白くするけど、概念を白くは無理だな」

「概念って言った?」

「概念さん大好きだな秀頼」


山本が嘆くように粉雪の意味に混乱していた。

タケルはセレナの話から逸れたのに気が付いたのか、少し安心している。

あんまりタケルの恋愛に干渉したくはないが、果たしてどうしたら良いのか。

セレナの設定を思いだしながら、タケルに助言を与えようとしたが、口が動かなかった。


「あ、山本君に十文字君もそろそろチャイム鳴っちゃうよ。席戻ったら」


アリアの提案で、タケルが「やべっ!?」と驚きながら山本と一緒に散っていく。

「明智君も山本君も十文字君が大好きなんだね!」とアリアにお褒めの言葉をもらい、頷いたと同時にチャイムが鳴り響く。

後ろの席を見ると詠美はまだぐでーんとしていてつらそうな顔をしていた。

月曜日の授業はまだ始まってすらいなかった……。

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