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28、遠野達裄のスカウト

「俺、ブレンドコーヒー」と達裄さんは慣れたように注文していた。

「はいはい」とマスターの対応も気安いものであった。


「にしても、そっちは秀頼の連れ?」

「はい」

「あ!赤坂乙葉です!よろしくお願いいたします!」

「タケル君と理沙ちゃんのいとこなんだって。こっちは遠野達裄君だよ」


喫茶店の客同士で自己紹介するという、よくよく考えるとおかしいことであるがサンクチュアリではよくある光景である。

別に知り合い同士でなくても、カウンターに座っていたサラリーマンやOLなどにも仲良くなったりすることが多い。

『秀頼君だけだよ、そんな人……』とマスターから突っ込まれてしまったこともあった。


「へぇ。あの十文字兄妹のいとこ……。確かに中性的な顔してるね」

「遠野達裄さん!サンクチュアリに遊びに来るイケメンな兄ちゃんってタケルお兄ちゃんが言ってました!」

「僕のことは面白い人で、達裄がイケメンな兄ちゃんってタケル君の認識に異議を申したてたいところなんだけど……」


マスターが心外って態度だが、確かに童顔で若そうなイケメンだけど面白いが勝るよな……。

それを言えば達裄さんも面白いに違いはない。


「わっ!?乙葉ちゃんは可愛い服を着ているね。ゴシック・ロリータ。通称・ゴスロリと呼ばれる格好じゃん!」

「なんで出会う人みんながわざわざゴシック・ロリータから入るんですかね……」

「良いなぁ……。娘が出来たら是非ゴスロリの格好をさせたいものだね」

「3人共、感性は同じですね。これが類は友を呼ぶということなんですね」


俺は娘にゴスロリの格好をして欲しいなんて1度も発言していないのに、類は友を呼ぶに含まれてしまっていた……。

なんでおっさん共と同じ扱いなんだ。

娘にはメイドの格好に決まっているじゃないか!


「それで何か盛り上がってたみたいじゃん。どったん?」

「それについては俺から説明をしますよ達裄さん」

「…………ん?」


俺の説明に違和感を覚えたのか、ピクッと目が見開いた。


「すでに気付いただろうけど敬う練習してるんだって。それで敬語とか、人を立てるような口調になってるんだって」

「なんで今更?」

「会社に務めた時のシミュレーションをしているらしいです」

「そういうわけですよ」

「いや、しなくて良いでしょ。そんなの」

「ど、どういう意味ですか?」


達裄さんがマスターからコーヒーを受け取りながら、ピシャリと言い切る。

なんで敬う必要がないのか、達裄さんの返事を待った。


「だって、将来俺んとこ来るんだろ?いいよ、雇う雇う」

「え……?」

「タケルも一緒に雇うよ。今の俺はフリーランスで色々厄介事してるから、この際会社にしちゃっても良いしね。有能な人材を無能な中小企業に雇わせるくらいなら俺が秀頼をもらってやるよ」

「やだ……。素敵……」


達裄さんがイケメン過ぎて濡れそうになった。


「達裄君は秀頼君に甘いなぁ……」

「普段は厳しいから良いんだよ」

「秀頼先輩が言うセリフではないですよそれ……」

「別に強制はしないけどな。色々な将来を天秤にかけて傾いたところ目指して突っ走れよ」

「秀頼先輩……。この人、神様かなんかですか?」

「いや。通りすがりのイケメンだよ。憧れんなよ、俺が憧れてんだから」


久しぶりに達裄さんの正のパワーを受け取ると元気になる。

美味しいエスプレッソを飲みながら上機嫌になる。


「とりあえず敬うのはやめな。気持ち悪いから」

「うん。やめる……。やっぱり知り合いには無理だわ。教頭先生くらいの他人感がないと気乗りしない」

「学園長先生は……?」

「秀頼は学園長の悠久のこと舐めてるからな。無理でしょ」

「学園長先生を舐める出来事があるのがよくわかりませんよ」


乙葉の呟きが本当に疑問に溢れていた。

彼女の残念さについては1日話せる程度なので、別の機会にしよう。


「それよりも、乙葉から呼び出したんだから。用事があるんでしょ」

「そうでしたね。というか秀頼先輩の出来事ですよ!マスターも達裄先輩も聞いてくださいよ」

「俺、先輩なの?」

「秀頼先輩!複数人と付き合っているんですよ!」

「知ってる」

「知ってる」

「えぇ!?わかっていたんですか!?よくないですよ!そんなの!?」


乙葉の呼び出しはそういう内容だったようだった……。

そこに触れてしまうかぁ……という気まずさがある。

特に、恋人である娘の父親が目の前にいるし……。


「複数人と付き合うはないけど、複数人に思いを寄せられているって状況にはなったからさ。正解なんてわかんないよね」

「達裄先輩ってめちゃくちゃモテるんですね……」

「本人たちが良いなら良いんじゃないかね。周りがとやかく言うことじゃないさ」

「達裄さん……」


人生の先輩で、信頼している大人の言葉は胸に深く刻まれていく。

「確かにねぇー」とマスターも達裄さんの意見に同意見なようだ。


「それに、女に酷いことするやつじゃねーよ秀頼は。誰よりも考えて、悩んでさ。真っ直ぐに進む奴なんだよ」

「むしろ女に酷いことされるもんね」

「あんたは一言余計だよ!」

「酷いことをするやつじゃない、か……」

「秀頼と一緒にいる子。みんな幸せそうだしね。幸せなら見守ってやろうや」

「ありがとうございます」


こんな真面目に達裄さんからメッセージを受け取ると、気が引き締まっていく。

何が正解かなんてわからないけど、彼の言葉を聞いて責任感がぐっと重くなっていくのを感じていった。


「咲夜とかみんな泣かしたら当然出禁だから」

「うっせーよ!するかってんだよ!」

「なら、あとは君次第だよ」


マスターもなんやかんや甘くて、厳しい人だなぁ……。

嬉しくて頬が緩くなっていた。


「なんか、秀頼先輩の恋とか考えて……。私がバカみたいじゃないですか……」

「乙葉も、理沙やみんなを心配してくれてありがとうな」

「っっっ!?……わ、わかりました!もう、なにも言いませんよ……」


赤くした乙葉はオレンジジュースをぐっと飲み干していく。

優しくて素敵な子だ。

赤坂乙葉という子の優しさを裏切らないように、明日もまたみんなを笑顔にしていかないとな。

この場にいる全員に誓った。

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