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27、明智秀頼は敬う

「ささっ。とりあえず好きにカウンターに座って」


やたらゴスロリ少女・赤坂乙葉には優しいマスターにロリコン疑惑が浮かぶものの、絵美にはそんなことはないのでロリコン疑惑は一瞬で消えた。

ただ単にゴスロリ格好が好きなだけか……。


「うわぁ!すごい!本物のマスターさんだ!タケルお兄ちゃんから噂はよく聞いています!」

「不安な人選だ……」

「なんでも少年の心の持ち主とか」

「やっぱりバカにされてるな」


タケルからの評価に『的を得たマスターの評価だ』と感心していた。

確かに良い意味でも悪い意味でも『少年の心の持ち主』に間違いはない。


「すげぇじゃんマスター!まるでアイドル扱いじゃん!」

「煽るな煽るな。嬉しくないよ」

「秀頼先輩と友達みたいな関係性なんですね」

「なんで娘の同級生から友達扱いされるんだよ。もっと年上を敬って欲しいよ」

「ならマスターの要求通りに、俺が敬ってやるよ」

「すでに上からなんだけど」

「会社に務めたことをイメージしたシチュエーションよ」


原作の世界を抜けることができたら、俺は進学するか会社で働くことになるだろう。

その時に一般常識とかを身に付けておかねばと前々から意識はしていたのだった。


「秀頼君が会社員?はー、絶対無理だと思うなー」

「あ?どういう意味だよ?」

「いや……。君の周りが普通に働かせてくれないんじゃないかな……」

「あー……。おばさんが公務員目指せとか言い出すかもなー。変に成績が良いからおばさんが最近俺の進路に期待してるんだよね……」

「そういうことじゃないんだけど……」

「?」


いったいマスターはなにを言っているのだろう?

おばさんの性格的にそういうことは言わなそうとかそういう話だろうか。


「とりあえずマスターを敬ってみるよ」

「秀頼先輩、ファイトです!」

「本当に君に出来る?」

「では、よーいスタートです!」


乙葉の手を叩く音がサンクチュアリ内に響く。

俺は意識を切り替えるように、マスターの認識を改める。

とりあえずマスターをマスターと認識するのが悪い。

ここは、マスターを悠久の部下である教頭先生だと思い込むことにする。

悠久と同じ扱いをすると敬えないので、絶妙な人選だと我ながらに自賛してしまえそうだ。


「じゃあ、注文はどうする?」

「オレンジジュースでお願いします」

「エスプレッソでお願いします」

「ただの私の真似じゃないですか!」

「乙葉ちゃんの真似とはいえ、敬語とか使えるんだ……。もしかして今までで1番丁寧な注文だったかも……」

「いちいち茶々入れないでくれませんかね……」


マスターが目を丸くしながら、本当に驚いたと感心していた。


「今日は咲夜さんとヨルさんは不在ですか?」

「ブッ……」


俺の敬語に吹き出しそうになり口元を抑えるマスターが「失礼……」と謝りながら2回ほど咳こむ。

本当に失礼だな……とムッと眉を潜めながらも、ぐっと堪えた。

教頭先生から失礼な態度を取られたと認識しながら、突っ込まないように手のひらを拳の形に握る。


「ああ、うん。咲夜は円ちゃん姉妹と遊びに行ったよ。ヨルさんは単にシフト休み」

「珍しいですね」

「ヨル先輩の働く姿は見てみたかったですね。残念」

「次の機会がありますよ」

「なんで私にも敬語?」

「敬語とため口の切り替えが大変だからでございます」


タケルやヒロインたちの前で猫被った演技をしている原作の明智秀頼もこんな違和感を抱えながら生活をしていたのだろうかと考えると『あいつすげぇな!』って称賛してしまう自分がいた。

マスターは戸惑いながら半笑いをしながらオレンジジュースを提供しだした。


「うわぁ!ありがとうございます!」


オレンジジュースを前にしてキラキラしだす乙葉。

なっっちゃんを前にした五月雨のようでかわいらしい。

ストレートに好意を晒してくれる子は素直で大好きである。

マスターも嬉しそうにしながら、俺の前にもエスプレッソを並べた。


「うわぁ!ありがとうございます!」

「やっぱり私の真似じゃないですか!」

「男に言われても嬉しくねーな」

「コーヒーの香りが身体をリラックスさせます」

「取って付けたような感想だな……」

「見てください!ミルクがうずしおを巻いてますよ!」

「秀頼先輩……。敬っているというか、それは食レポになっているのではないでしょうか?」

「では、一口いただきますね」

「カメラないのに、カメラ意識してますよ」

「君、昨日もエスプレッソ飲みに来てたよね」


何か1つの言葉を発する度にうるさいギャラリーである。

心では毒づきながら、敬いの態度は崩さなかった。


「身体もあたたまりますけど、心もあたたまりますね!」

「ありきたりな感想ですね」

「はじめて飲んだ気がしないくらい、スッと舌に溶けていきますよ」

「100回以上飲んでんだろ」


乙葉もマスターも何か文句を言わないと気が済まないみたいだ。

隣に座る乙葉も俺に続いてオレンジジュースを口に含む。


「わっ!100パーセントのオレンジジュースですか!?酸っぱくて心がゴージャスになります!」

「わかるねー。このジュース高いやつ仕入れてんのよ」

「このエスプレッソ、苦味と甘味がちょうど良くて心がゴージャスになります」

「あれ?さっき『心があたたまりますね!』って言ってたよね?なんで急にゴージャスになるのさ」

「もはやいじめの領域に入ってない?」


マスターに至っては揚げ足取りまではじめた。

俺に敬語なんか無理だ、と諦めて音を上げようとした時だ。

カランコロンという来客を告げるベルが鳴り響く。


「遊びに来たぜマスター!お?秀頼もいんじゃん!」

「こんにちは達裄さん」

「暇だからコーヒー飲みきた」


常連客で俺と同じ頻度でサンクチュアリに入り浸っている遠野達裄が来客し、俺の隣の席に座る。

左に乙葉、右に達裄さんと知り合いにサンドイッチされた形になったのであった。

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