25、赤坂乙葉は向かっている
佐木詠美の突然の来訪が終わり、寝落ちから回復した俺は明智宅から外へと出ていく。
強い日差しに目を細めながら、キャップとか帽子みたいなのを買おうかなーという欲求が高ぶってきた。
そもそもは室内を剣道をしていた人間だ。
さらに言うならばギャルゲー大好きなインドアな人間。
そもそもそんなに外が好きではないのだ。
無人島みたいな自然溢れる場所より、スタヴァがあちらこちらにある都会の方が盛り上がるタイプである。
無人島じゃ電波通ってないし、ユーチューブとかでスターチャイルドの動画も観れないどころか、インスタすら閲覧できないので彼女の活動すらわからない。
そこまでいくと、もはや拷問である。
「クソッ……。なんで、こんなに俺の肌は黒くなんだよ……。クズでゲスな悪役そのまんまじゃねーかよ」
陽当たりに弱いのか、肌が弱いのか、『悲しみの連鎖を断ち切り』の強制力なのか、桜祭の呪いか……。
インドア極まった生活をしているのに、どうしても原作秀頼のチャラ男のようだ浅黒い肌に年々変わっていった。
絵美や永遠ちゃんたちからは『頼りがいのあるワイルド感あって最高!』という評価をいただいているが、自分の目付きが悪いのもありただの大人向けマンガのNTRする側のチンピラにしか見えなくなっていた。
サングラスなんかかけると、ヤクザである。
そんなわけで、極力はサングラスなしで夏も出歩くことが多いのだ。
そもそも不本意ながらも血が繋がっている叔父を見ていると、明智家の男は悪役エリートな家系にしか思えなくなる。
周りに近寄る人間もタケルや山本みたいな善人も多いが、やたら不良そうな生徒からも絡まれたりすることも多い。
その不良らが俺を慕い、他校の不良グループから不良リーダーと勘違いされてしまい、一緒にゲーセンで楽しませていただいたりと高校入ってから気づけば知らない縁が山ほど膨れあがっていた。
月1くらいで、名前も知らない奴から名前も知らない人から紹介されたとかメッセージを送ってくる人とかもいたりと段々俺のスマホはフリー素材扱いされつつあった。
「えっと……。この辺にいるとは思うんだけど……」
待ち合わせしていた人物を探るように辺りを見回す。
しかし、まだ姿がない。
時間を見るとまだ集合時間まで5分前。
微妙な5分という残り時間になにもしようがなく、前髪を整えるように弄りだす。
それから5分待てど、待ち合わせの人は来ず。
事故に巻き込まれたのかと不安になりながら、スマホを取り出す。
「とにかくラインだけはしておくか……」
『待ち合わせ場所、付いたよー( ´∀`)』とメッセージを送る。
ポンという音の合図と共に、送信が完了する。
そのまま黙って10秒程度メッセージ画面を見ていると既読マークを付けられる。
「あ、やべぇ」
既読マークが付いた瞬間にラインタブを閉じる。
あまり他人に既読になるまで画面を見ていたと思われたくない派である。
すぐにポキポキというメッセージ音と共に、ラインの通知が現れた。
『今向かってまーす!待ってぇー(/´△`\)』
もしかしたら遅れるかもなと思い、スタンプを送る。
それから『俺も髪型整えてるからゆっくりでいいよ』『事故に巻き込まれないように焦らないでね』と追加でメッセージを送っておく。
とりあえず彼女の無事に安堵して、スマホを仕舞う。
メッセージ通りに髪型を整えようとするが、手鏡もなく結局手持ちぶさたになっていた。
それから3分ほど遅刻したところに待ち合わせ人が早歩きしながらの到着であった。
「はぁはぁ……。すいません、秀頼先輩!遅刻しましたっ!」
「あぁ。気にすんな。ほら、お茶でも飲んで喉を潤しておいで」
「あ、ありがとうございます!」
彼女はコンパクトなペットボトルに入ったウーロン茶を受け取った。
真面目な彼女だから息切れしてるかもと思い、自動販売機で飲み物を購入しておいた。
どうやらとても喉が渇いていたらしく、ゴクゴクと小さい口の中にウーロン茶がみるみる流れていった。
「助かりましたぁー秀頼先輩」
「気にしてないよ乙葉。それに、服可愛いね」
「あ、わかりますか秀頼先輩!私、最近こういう服にハマっているんですよね!」
「黒一色で乙葉に似合ってるよ。ゴシック・アンド・ロリータ。通称・ゴスロリといわれる服装だね」
「そうです!ゴスロリの服がお気に入りなんです!このヒラヒラが特にオススメなんです!」
黒いフリル付きスカートをはためかせながら楽しそうにおしゃれを語っている。
いつかに見た私服では、普通の格好だったのでつい最近ゴスロリの格好にハマったようだ。
背も低く、顔も絵美のように幼くてとても似合っている。
絵美と乙葉でゴスロリの格好でご褒美みたいな名目で、メイドになってもらいたいくらいに最高の組み合わせだ。
「…………!」
そういえば原作でも乙葉がゴスロリ格好になるイベントCGが存在していた気がする。
あれは確か……、乙葉の好感度がかなり高いとタケルと一緒にゴスロリ格好でゲーセンに行ったり、ウインドウショッピングをするデートイベントがあったんだったか。
終始デレデレな気持ち悪いタケルが見られるちょっぴり大人なシーンである。
「どうかしました?」
「いや、なんでも……。というか今は『乙葉流読心術』は使ってないんだね」
「わざわざ修行したのに、ギフト使いっぱなしなんて最悪じゃないですか。先生がホームルームで大事な話をしている時の思考が『今日は学校終わったら妻の胸触りまくって癒されてぇ。胸にうずくまりてぇ……。週末セ●●スしよ。早く2人目作るのお父さん頑張っちゃお』とかセクハラ思考聞かされていたんですよ!?教師のプライベートとか気持ち悪いじゃないですか!」
「気持ち悪いな……」
乙葉の気持ちになって考えると、意図せずに教師の猥談プライベート妄想を聞かされているだけで嫌なのに、口にしていないからセクハラと訴えることもできない。
詰んでいる。
「はぁ……。人の心が漏れないって最高」
「はぁ」
普通のことに喜んでいる乙葉の気持ちが痛いほどに伝わってくる。
「あと、ギフトの修行してくれてありがとうございますね先輩」
「あ、あぁ」
可愛らしいゴスロリ後輩に笑顔を向けられて、気恥ずかしい。
彼女たちともまた違う、付き合ってない女後輩という関係のドキドキ感は新鮮である。
「今日はどこに行く?ウインドウショッピングでもする?スタァーヴァックスゥでも行く?」
「あ!それなら行きたいとこあります!案内してください秀頼先輩!」
「え?」
乙葉の上目遣いにノーとも言わず、彼女の希望を聞くことになった。