24、深森美月はウブ
美鈴がノートパソコンに繋がれたマウスをカチカチカチカチとクリックしながら物語を進行させていく。
それを横から美月と、遥香が口を出して各々感想を言い合っていく。
「このキャラクター……、露骨だぞ!露骨に主人公を落としにきてるぞ!ぶりっ子の域を通り越しているじゃないか!」
「なんで双子そろって幼馴染ヒロインにダメ出ししてるんですか!?ほら、ここ!10年以上ヒロインちゃんが主人公君を好きって語られてます!彼らの思い出には10年ぶんの重みが詰まっているんですっ!」
「はじまって10分足らずなのに10年ぶんの重みを説かれてもわたくしは納得できないぞ!」
姉の美月の的外れな発言を総スルーしながら、マウスをクリックしまくる機械役に徹してしまっていた。
必然的に遥香が解説を交えている。
美鈴は目をスンっとさせていて、とても淡々とした態度である。
「あ、次のヒロインが現れましたわ!」
「現れたって……。完全に表現がゲームのモンスターに対するそれになってますよ……」
「いきなりの登場で、当たりが強くないかこの子?めっちゃ主人公に冷たいな……」
『好きなことは寝ること。嫌いなことは森田君から話しかけられることですよ』と、そのヒロインが自己紹介をしている。
主人公のラッキースケベの被害者になった少女が、にらみ付かせながらそんな応対をしている。
「この子にめちゃくちゃ嫌われているな」
「この好きな気持ちを隠しているの良いですね!」
「嫌いを装った大好き、美鈴も大好きだわ」
「待て!?付き合えるのか、この子と!?」
「パッケージにいますし……」
「タイトル画面にいたし……」
「完全に敵キャラだと思ってた……。パッケージでヒロインがわかるとかネタバレじゃないか!」
「パッケージに非難しても……」
遥香が美月のマジレスに苦笑していた。
つくづくゲームとは縁のない美月は驚きの連続で圧倒されっぱなしであった。
「むしろ普段、美月さんはなにしてプライベートを過ごしているんですか?」
「ホラー映画見たり、料理したり、ダイエット動画見たり、服買ったり、秀頼様とのイチャイチャを想像しながらエロい動画見てますわ!」
「やめろ美鈴!?恥ずかしいじゃないか!?」
「最後ん?最後何言いました?」
「食いつくな遥香!?」
プライベートではゲームをせずに動画やテレビを見ていることが多い美月であった。
ゲームやアニメなどには、ほとんど縁がないのである。
「好きなアニメはなんですか美月さん?」
「ドラが付くえもんだ」
「そういう人なんですよ」
「面白いですからねドラが付くえもん。ボクは映画しか見ないですが……」
遥香や美鈴が熱中するアニメともまた感性が違う。
だから2人が『これ、ヒロインだな』って察することができても、美月は『すごく嫌われているな……』と真に受けてしまうのだ。
「……………………」
『改めて、美月さんはギャルゲーの主人公みたい……』と遥香も彼女の天然無知っぷりに無言に驚かされていた。
「ぐぐぐぐぐ……。でも、秀頼様が彼女らに興奮してギャルゲーを読み進めていたとしたら美鈴は悔しいですよ!」
「それは同意見だな」
「ボクもですよ。この胸に目が釘付けだったのかと思うと、張り合いたくなりますっ!」
3人が絵であるギャルゲーのヒロインたちに殺気を放つ。
あまりにも強い殺気にノートパソコンに意思があるとしたら逃げていたかもしれないほどに、黒くて濃い殺気なのであった。
そのままカチカチカチカチとクリックを続けていく美鈴。
「物語を開始して30分経つ前から主人公がモテモテになってきたな。こっちのイケメンはまったくモテないみたいだが……」
「このイケメンは親友枠ですねー」
「へー」
遥香の解説に美月は「知らなかった」と呟きながら頷いていた。
「このゲームの主人公が秀頼みたいで、このヒロインの役割がわたくしたちみたいになってないか?この親友枠はタケル?になるのか?」
「あー、なるほど」
「おー。珍しくお姉様がまともな呟きをしましたね」
「珍しくとはなんだ!珍しくとは!」
美月が美鈴の弄りにキバを向けるが、美鈴は完全ノーリアクションであった。
「でも、全然違いますわ。この主人公は突っ込みが得意なだけで魅力とか個性が一切ありませんもの!でも秀頼様は魅力も抜群、誰にでも優しくて甘くて厳しい個性と素晴らしさには叶いませんわね!」
「確かにな。こいつは主人公ってだけでモテている感は否めないな」
「明智さんはどちらかというと、こっちの親友枠の彼みたいな雰囲気ありません?」
「あー、わかる」
「わかりみが深い」
遥香の指摘に同意を示す双子。
偶然にも、明智秀頼のルーツについて当てているようなものである。
「美鈴、遥香!ちょっと待て!?この親友枠のこいつ、いきなりヒロインにキスしているさじゃないか!?なんだこれは!?」
「NTRってやつですよ」
「NTR……?」
「ネトラレです」
「ネトッッッ!?」
美月が赤面しながら、ノートパソコンの画面から目を離した。
『ウブでかわいいなぁー美月さん……』と遥香は美月の反応を面白がっていた。
「でも、これ見るとやっぱり秀頼様はこんなクズチャラ男とは違いますわ!」
「そうですね。取り消しましょう」
3人の初ギャルゲー大会は大盛り上がりしていた。
終わる頃には3人共『違うギャルゲーもしてみたいね』という女子トークまで開催されたほどである。
こうして、ギャルゲーの沼にまた3人落ちていったのであった……。