23、三島遥香は呼び出される
明智秀頼が佐木詠美との思い出を浮かべながら、眠りに落ちていた同時刻。
彼と付き合っている彼女の1人である三島遥香はとある場所に訪れていた。
「はぁー……。いつ見ても相変わらず大きくて立派なマンションだなぁ……」
すでに10回程度は訪れた場所なのにも関わらず、未だにこの迫力は見慣れない。
崩れ落ちないか心配してしまうくらいの高さ。
万華鏡のようにキレイに塗装された壁。
怪しい人は通さないセキュリティの万全。
凄く大きいスケールに赤面しながら、目的の人物の部屋のインターホンを押す。
20秒ほどの静寂に耐えると、インターホンから「はい」と応対する女性の声がする。
「お?おぉ!遥香!遥香じゃないか!」
「こんにちは、美月さん!」
「珍しいな突然の来訪なんて」
「……………………え?」
「今開ける。…………よし、このまま部屋に来て」
ガチャっとロックが解除されて、そのまま促されるままに彼女らの部屋に着くと、双子の妹と暮らしている深森美月が出迎えてくれた。
「お邪魔しまーす」と言いながら、扉を閉めた遥香。
彼女が靴を脱いでいると、美月が部屋の扉に施錠する。
『カチャ』という鍵が閉まる音が無機質に広がっていく。
「さぁ、上がってくれ遥香。しかし、珍しいな。今日はいったいなにか用事か?突然やって来たからサプライズかなにかだと驚いてしまうよ」
「そ、そうなんですか?美鈴さんから誘われたから、てっきり美月さんもボクが来るのを知っているとばかり……」
「美鈴が……?」
知らない話題だとばかりに首をかしげる美月。
「では、直接に美鈴さんに聞いてみましょう」と、遥香が美月に提案する。
「みすずーっ!」と、美月が妹を呼ぶと「はーい!」という元気な声がした。
「来客だぞ美鈴」
「あ、遥香いらっしゃーい」
「おはようございます。美鈴さん」
「おはよー」
挨拶を済ませると、美月が「遥香が来ること、知らなかったぞ」と一言漏らすが、「そうでしたっけ?言ってませんでした?」と美鈴はしゃべった気になった反応を示す。
「あ!昨日言いましたよ!『14日の土曜日シリーズ』を見終わってお姉様が興奮している時に言ったじゃないですか!」
「え?ウソだぁー」
「本当ですよ。終わった直後の出来事を思い出してください」
◆
『おぉぉぉぉ!続編!続編見よう美鈴』」
『明日、家に遥香が来ますわ』
『近々、ニューヨークに行くやつをレンタルしてくるからな美鈴!』
『会話が噛み合わないですわ……』
◆
「こんなやり取りあったじゃないですか」
「タイミングが悪すぎないか!?なんで映画を見終わった直後なんだ!?ジョンソンの殺戮ショー終わった興奮で聞かせる内容じゃないだろ!?夕飯の時とかいくらでも時間あったじゃないか!」
「映画の終盤に遥香から連絡来たから」
「まあまあ……。落ち着いてくださいよ美月さんも美鈴さんも。ボクは気にしませんから!」
口喧嘩になりそうだった2人をなだめるように、遥香が仲裁に入る。
『ボクは喧嘩の仲裁に来たんだっけ?』と自分の目的を遥香は見失いそうになっていた。
「まぁ、良いですわ。遥香とお姉様、始めますわよ」
「始めるって何をだ?また『14日の土曜日』を視聴するか?」
「嫌ですよ!ひょっとこの仮面を被ったジョンソンが襲ってくるじゃないですか!ボクは怖いの苦手なんですから!」
「2日連続『14日の土曜日』を見る暇は美鈴にはありませんわ。実は……、これですわ!」
「これ?」
美鈴がスッとテーブルの上に板のようなものを置く。
それに釣られるように美月と遥香は視線が一点に集まる。
これがなんなのかを察した遥香を目をピクッと見開いた。
「美鈴さん……。これは……、ギャルゲーですね」
「ギャルゲー……?ゲームのことなのか?」
「ボクは弟の和馬がギャルゲーをしているらしいので見たことあります。美少女が4人並び、裏には恋愛アドベンチャーの文字。間違いないですよ」
パッケージの裏もきちんと確認する遥香。
表にしながらそれをテーブルに置きなおすと美月が「『ワールドエンドスクール』……」とタイトルを口にする。
「でもどうして美鈴さんがギャルゲーを?プレイするんですか?」
「いや、これは絵美に借りましたわ」
「なんで絵美がギャルゲーを持っていて、美鈴に貸したのかわからないんだが……?」
「絵美が秀頼様から借りたのをそのまま美鈴が借りたというのが真相ですね」
「何をリレーをしているんだお前たちは……」
「きちんと秀頼様から許可はもらっています。ただ1人でギャルゲーをするのが恥ずかしかったので、3人でやろうという集まりですわ!」
美鈴は説明してなかったが、美月は単にゲームに疎いので、ゲームに詳しそうな遥香を巻き込んだという経緯がある。
現に遥香はやはりというべきか、ギャルゲーの知識はあるようであった。
美鈴のノートパソコンを準備し、ディスクを入れてインストールをする。
「これは、起動の度にディスクが必要なのか?」
「PCゲームは基本1回インストールをすれば、ディスク不要なのですわお姉様」
「全部のゲームハードでやってもらいたい仕様ですね」
呑気に解説をしながら10分。
ゲームのインストールをはじめ、ゲームのタイトル画面に行く。
「じゃあ、早速はじめるか美鈴!」
「ダメですわ。最初はオプションから弄ります。メッセージ速度は最速の1個手前、BGMやボイスの音量調整、タイトル画でのプレイヤー操作のアシストをするボイスのキャラクター変更。することはいっぱいありますわ!」
「やたら詳しいな美鈴……」
「美鈴さんはノアさんや円さんの影響で乙女ゲームにはまっているんですよ」
「そういうことですわ」
設定を終えて、ゲームを開始すると幼馴染のキャラクターが主人公を起こす場面から始まりを告げる。
「む……?美鈴は幼馴染キャラクターって好きじゃないんですよね。露骨に攻略して欲しい感が透けて見えます」
「ヒロイン全員そうでは?」
「そもそもどうしてこの子はいきなり主人公を起こしているんだ?防犯対策がされていないではないか!無用心だっ!」
「…………お約束がわからないんですね」
「…………はぁ」
「な、なんでかわいそうなものを見る目になるんだ!?」
美月の突っ込みに『遥香も呼んでおいて良かった……』と、話がわからない姉にため息を吐いていたのであった。