12、佐木茂のギフト
「コホン……。じゃ、じゃあ真面目に相談しますよ……」
「なんか嫌そうだなー……」
身体をもじもじしながら、前髪をかきあげる詠美。
もうちょっとだけ焦らしたいみたいな気持ちが手に取るようにわかる。
「ひぃ君相手に改まるのが恥ずかしくて……。テ」
「テヘッ、はいいから!」
「うわっ、先読みひぃ君だ……。いや、佐木読みひぃ君か」
「知らない。そんなダジャレ産み出してないから」
しかも、ちょっと上手いと感心してしまったのは秘密である。
そういえば詠美の名字は佐木だったな。
「じゃあ真面目な話ね……」
「うん」
「シゲルが……。シゲルが最近誰かにつけられているんだって」
「!?…………それってつまり!?」
「一応、尾行ってなるのかな……」
佐木茂に尾行……。
参ったな、既に奴らが狙いを定めているということか。
まったく、この世界は本当に桜祭の筋書き通りに進み過ぎるんだよ。
「…………そっか。尾行か」
「…………うん。尾行だ」
「言い方真似すんなよ」
口元に指を置きながら詠美を観察する。
それが本当であればなにか手を打たなきゃならないが、ただ俺1人でどうにかなる問題なのかはわからない。
こういう時こそリアルファイト最強の達裄さんとか、存在そのものがチートな概念さん、ギフトでぬいぐるみとかに変身させられるインチキなギフト使い浅井千姫、自称最強の麻衣様、経験豊富なナイフ使いヨル・ヒルなど俺に頼るより彼ら・彼女らの方が荒事に強い気はする……。
俺は彼女大好き・スタチャ大好き・沢村ヤマ大好きな通りすがりのギャルゲーマー(前世持ち)である。
犯罪行為には滅法弱い。
「…………尾行されてるなら警察に行けば良いんじゃない?」
「そうなんだけどさー……。証拠もなにもないんだよねー。茂の被害妄想かもしれないし。──それに、ひぃ君が犯人の可能性もあったし」
「はぁ!?俺が犯人!?なんでだよ!?」
ヤバい……。
ギャルゲーのヘイトを溜めるクズでゲスな親友役に転生しただけなのに、またあらぬ疑いが俺にかかっている……。
弁明せねば……、詠美に疑われている状況を覆さなければ……。
「滅相もない。俺には無理でございます……。このように手も」
「でも……。ひぃ君はなんとなく違うって直感してるの」
「え……?直感してるの?」
「状況的に怪しかったからね。一応の容疑者ってこと」
「一応ね。……とりあえず話を聞いても?」
「うん」
詠美は足を崩し、「疲れたからごめんね」と言ってあぐらのような体勢になる。
正座をしていて足が痺れたようだ……。
「いてぇ……。っと。シゲルとひぃ君が出会った日。あの子、誰かにつけられた気がしたんだって。それでパニックになり、発作が起きて咳が止まらなくなってたらしいの」
「っ!?……あぁ、そういうことね」
「だから客観的に見ればそのシゲルを看病していたひぃ君も怪しいよね。……けど、君は違うかなぁ」
「そう思ってくれたなら嬉しいよ」
「裸に近い私を襲ってたら警察に突き出すつもりだったけど……」
「あれ、試してたのかよ!」
もし、詠美を襲っていたとしてもイコール茂をストーカーしている犯人になるわけではないのだが……。
それにお前があんなに誘惑しておいて、手を出したら通報ってなんていう悪魔の所業なのだ……。
「冗談、冗談」
「どうだかね」
「ま、まぁ……、受け入れはしたかも……」
「お願いだからからかうのやめて……」
「からかわれてる自覚あるんだね。もしかして君、マゾ?」
「真顔で聞くことじゃない。サディストですぅー!」
「あっそ」
「興味なさそー……」
急にそっぽを向かれると機嫌が悪くなったんじゃないかと不安になる。
「そうか……。とりあえず聞いておきたいのは茂が尾行されている理由について心当たりは?」
「あるわけないよぉー!ウチは普通の庶民よ?私よりよっぽど去年同じクラスメートだったミツキの方がお嬢様だし美人だし狙われる理由があると思う」
「詠美は美人より可愛い顔だよ。美月に対抗心持っちゃダメでしょ」
それよりクラスメートにはサディスト優等生小悪魔アリア・ファン・レーストというガチのお偉いさんもいるわけで……。
まぁ、彼女らを優先して茂を選ぶ理由は……、アレしかないよなぁ……。
「えっ!?かわいっ!…………ひぃ君ったら。…………って、待って!?なんでひぃ君が美月を知ってるの!?接点なくない!?」
「え?そこ?」
今さら美月と俺の接点に尋ねられることになるとは思わなかった。
そりゃあ、美月も美鈴も接点ありますよ。
付き合ってるしね。
「あ!そっか!部活一緒なんだっけ!そういえば美月も文芸部だったね」
「ま、まあな」
文芸部自体、そんなに行かないから俺がその1メンバーという自覚はかなり薄いのだが……。
「って!私が可愛い顔とか関係ないのっ!狙われてるのは茂なんだからっ!」
「わ、わりぃ……。でも、茂も可愛いらしい顔立ちしてるよな」
「うわっ、ひぃ君そんな趣味が……。リサと似ている兄貴のジューモンジとも深い付き合いがあるし怪しいと思ってたけど」
「違う!男はマジで興味ないから!ノンケ!ノンケ!」
「へぇ、ノンケなんだぁー」
「ノンケが悪いみたいな弄りは酷いよ……」
「だいじょーぶ!私もノンケ、ノンケ!仲間、仲間」
詠美が笑いながら頷いている。
わかってくれるならなによりである。
「シゲルが狙われている理由かー。本当にわかんないよ……」
「ギフト……」
「え?なに、ひぃ君?」
「茂が持っているギフトはなんだ?」
狙っている連中は既に知っている。
──ギフト狩り集団。
ギフト狩りが茂を狙っているのはゲームで語られている通り。
ただ、詠美の弟は完全なるモブ。
ギフト能力すら明かされることがなく、死亡するのでゲームプレイヤーすら考察することしかできなかった問題なのだ。
理沙のギフトといい、そういうところは丸投げするのが桜祭の悪い癖である。
プレイヤーがわかる情報は茂のギフトは『危険』ということを瀧口が明かした程度である。
そうやってギフトだけで比べるとアリアのギフトは結構しょっぱい能力であり、危険度も遥かに低いものである。
「し、シゲルのギフトなんだけど……。一応学校……というか国にも提出しているんだけど……」
遠慮がちに口を開く詠美。
そのあんまりにも『危険』なギフトの中身が詠美により伝えられた。
「…………マジ?」
「うん」
「…………」
そのあんまりなギフトの内容を聞いて頭が痛くなってきた。
そりゃあないよ……。
よくもまぁそんな『危険』なギフトを国に提出したものである。
わかる人はギフトの詳細を国に提出しろという決まりだが、基本的に俺や乙葉みたいな『危険』なギフト持ちの子はわかっていても提出しない人が多い。
それを詠美の家族は茂のギフトを国に提出してしまっているという事実に震えている。
あかん。
あかんですよ。
ハッキリ言えば……、ギフトランク的に『命令支配』なんかよりよっぽど高いし、もっともっとヤバいギフト能力であった……。
むしろ、ヨルに近い理不尽なギフトである。
俺の周りは、危険なギフト所持者しかいないのかよ……。
どっかの邪神の責任者を再び窓から投げ捨てたくなった……。