11、佐木詠美のタイムスケジュール
惜しいことながら、詠美がスカートを穿き、服を着込むことにより目の保養タイムは終わりを告げた。
非常に悲しいし、非常に残念だ。
誠に遺憾である。
「くっ……!?」
「そんな悔しそうな顔しなくても……」
後ろ髪を引っ張られる思いだが、そろそろ真面目な話に戻らないとズルズルズルズル腋と脚への後悔が積もるだけになる。
逃げたら1つ、進めば2つ手に入るならば、やはりここは突き進むしかないだろうか……。
「んで、こんな早くから何しに来たんだよ。てか、まだ9時半……。詠美がこの部屋に来て30分待ったと仮定するとどんだけ朝早いんだよ。それでココから詠美の自宅までを考えると……。何時起きしてるの!?」
「あははーっ!ウチの家系は休日は朝が早くてパタパタしちゃう人多くてさ!」
「そう、か……」
「一応チャリでここまで来てるから時間はそんなにかかってないよ!」
絵美もガチで早いし、なんと説得力のある言葉だと感心する。
あと静かに寝ている俺の安眠も妨げて、俺をオモチャにしてからかうなどの類似点が多々見受けられる。
休日ガッツリ寝てから、夜は遅くまで起きている俺とは違い、なんとも規則正しい生活を送る彼女らである。
似ている絵美と詠美ではあるが、髪型をツインテールにして化粧にこだわりを持つ絵美に対して、詠美は髪型も弄らないセミロングにほぼスッピンとの差違はあるようだ。
オシャレとかにあまり気を遣わないイメージが詠美からは感じられる。
「朝早くから俺ん家に来ておばさんにビックリされなかったか?」
「ビックリされたよー!『あら!?昔お隣だった佐木さんのお宅の詠美ちゃん!?大きくなったわねー』ってめちゃくちゃ驚かれたよ!」
「早く来たことじゃなくて、久し振りに顔見せたことに対する驚きかよ!」
「『あら?よく見ると絵美ちゃんと雰囲気似てるわね!』って容姿にも驚かれちゃった!」
「だから早く来たことに対する驚きじゃないんだね……」
「『え!?ウチの秀頼と今同じクラスなの!?おばさん、知らなかったわ……。秀頼はプライベートな話を一切してくれない子だから……。あらら、詠美ちゃんと高校になって同じ学校で、同じクラスメートなんて奇跡みたいね!』って言ってたよ。少しくらい家族とプライベートな会話をしたら?そんなんじゃひぃ君、『明日結婚するから』とか雑な報告しそうだね」
「プライベートな事情には踏み込むなよ!良いだろ、それは別に!?しかも、なんで早い来訪時間に突っ込みゼロなんだよ!普通、ちょっとはなんかあんだろ!?」
「別に……」
「言い方が沢尻じゃん……」
おばさんは、もはや絵美の来訪時間に慣れてしまっているのかもしれない。
それを抜きにしても早寝早起きな規則正しい生活を送る人だから、8時前後では世間的に早いとは思ってない節がある。
さすがに5時くらいだと何か言われるかもしれないが、それくらい時間の認識がズレている可能性がある。
おばさんもおばさんでちょっと天然が入っている人だからな……。
「とにかく、そんなことを経て遊びに来たよ」
「そんなことの中、内容が充実しすぎてないか……」
朝早く起きて詠美がチャリに乗って明智宅に来る。
突っ込み不在のおばさんと詠美の対応。
詠美が部屋に来たら俺が寝てる。
服を脱ぐ。
俺が起きる。
ドッキリ2段構え。
ココ。
詠美の朝のスケジュールがぎゅうぎゅう詰めである。
「まったく……。私が『ひぃ君の家に行く』ってシゲルに言ったら『僕も明智先輩の家に行きたい!』って始まって朝から姉弟で口喧嘩よ」
「いや、既にぎっちぎっちな今朝の詠美のタイムスケジュールに姉弟の喧嘩が挟まるのかよ!」
「喧嘩じゃない!口喧嘩!」
「どっちでも良い!要らないこだわりだなぁ!」
とにかく密度がキツキツな詠美のタイムスケジュールなのは伝わった。
忙しかったんだなぁ。
「それで、わざわざ家に訪ねてきた理由は?なんかあった?」
「え?普通に暇だったから」
「なんで暇なだけでクラスメートの男子の家に来れるんだよ……」
「付き合ってるみたいだね私たち!じゃあ、付き合おっか!」
「そうはならない。ならないから!」
もう気軽に付き合おっかで付き合えるほど、彼女問題は俺だけの問題ではないのだ。
楓さんや、島咲さんの加入ですら結構ゴタゴタしていたので、流石にそれは難しいだろう。
残念ながら、詠美と付き合うことはない。
「あんな限りなく裸に近い姿を見られてしまって……。よよよよよ……、お嫁に行けませんよ……」
「お嫁に行けないなら婿入れさせたらええやん」
「なんてリアリスト……」
「鬼!」と言いながら非難された。
美月や三島、絵美とかと仲良くしているが、かなり振り回す子なのは俺にも変わらないらしい。
「コホン。というわけで今日は真面目な相談しに来たよ」
「暇だから来たって言ってたじゃねーか!」
「あれはほら…………、エイミちゃんの照れ隠し!テヘッ!」
「可愛いけど『テヘッ!』で許される年じゃないんだよ……」
「あ、でも可愛いんだ。メモメモ……」
「真面目な相談あるんだろ?」
詠美のテンションに持っていかれてしまったが、ようやく詠美の顔もスッとなり真面目な表情になる。
俺は詠美に向きあうようにして彼女と目を合わせたのであった。