9、佐木詠美は3分待つ
「くっ……!まさかのまさかでこのタイミングでひぃ君が目を冷ますなんて予想できるわけないじゃん……」
「浅慮で浅はかで、フットワークが軽い詠美自身を恨むんだな」
「きゃぁー!?ひぃ君のエッチー!見ないでぇぇー!鬼畜の変態野郎めーっ!去勢しろっ!」
「そんなお風呂に入っていた時に出くわしたし●かちゃんみたいな反応されても……」
「し●かちゃんは『鬼畜の変態野郎めーっ!去勢しろっ!』とか言って風呂場から追い出したりしないでしょ……」
詠美もこの状況になれたらしく、突っ込む余裕すら披露してきたのであった。
案外受けいれることや聞き分けは出来る人のようだ。
「3分間だけとはいえ……良い眺めだぜ詠美」
「そんなツヤツヤな顔で言われても……」
ブラ、下着P、ストッキングという野球拳惨敗の姿でしか見ることが出来ないハレンチな姿だ。
知人や他人にこの場面を切り抜かれたら死ぬしかないような気がする。
「残り2分。あらあら、1分が経過しているじゃないか」
「普段の3分ならあっという間なはずなのに、この時間が長い……」
「時間の重みってやつだな。この3分を噛みしめて生きるんだな。今、アフリカでは1分で60秒が経過しているんだぞ」
「今なら『3分の重み』って曲の作詞をできるかもしれない。スターチャイルドに歌って欲しいな」
「そんな曲をスターチャイルドに歌わせるなよ」
スターチャイルドファンクラブとして、そんな事態になったら阻止せざるを得ない。
星子に頼み込んだら2つ返事で本当に歌ってくれそうなのが怖いのだ。
「にしても、中々育っているじゃないか」
「ぅえっ!?ええっ!?な、なにが……?」
「身体に決まっているじゃないか」
「身体に決まっているんだ」
詠美がそわそわしながら、自分の視線を胸に送っては俺に顔を合わせる。
なんか急にしおらしくなったが、どんな心境の変化なんだ?
「俺はビックリしたなぁ……。それにめちゃくちゃ元気だし」
「めちゃくちゃ元気!?元気!」
「見ていてこっちも元気になったよ」
「ひぃ君も元気ぃぃぃぃぃ!」
詠美がかぁぁと赤い顔をしながらテンパりだす。
少しもじもじしているが、急に変わる彼女の態度はなんなのだろうか?
「あぁ。それに肉付きもしっかりしていたな」
「肉付きもしっかりしてるぅぅ!?」
「性格も最高に良し」
「性格まで褒められたぁ!」
「それにこう、……見ていて安心したよ」
「見ていて安心!……ひ、ひぃくぅん……」
「さっきからどうしたんだよお前……?」
「(まさかひぃ君が私をそんな目で見ていたなんて……。昔から、私のことずっと好きだったんじゃないかなーとか考えてたんだけど……。こんなに語ってくるなんて……。ぅぅぅ、濡れないか心配……)」
「なに、ぶつぶつと早口言ってんだよ」
ゴニョゴニョゴニョゴニョゴニョゴニョと何か聞き取れないか耳をすますが、『濡れない』という単語しか聞き取れなかった。
なにが『濡れない』んですかね……?
筋肉触っているサーヤみたいなことを言っているのかと思うと、なんか嫌だな……。
「聞いても良いかな?」
「あ、あぁ。なにを……?」
「ひ、ひぃ君にとって……、それはどんな扱いなのかな……?」
「あぁ。俺を慕ってくれる……」
「慕ってくれる……?」
なんで復唱するのか。
恥ずかしいじゃないか。
とは思いつつ、自分の素直な評価を口にしていく。
「初の……」
「初の……?」
「男の後輩ってところかな」
「あらぁー!そんなぁー!?私のことそんな目で………………ん?男?後輩?は?なんの話?」
「いや、お前の弟君。茂の話」
「ってシゲルかーいっ!紛らわしいんじゃ、ひぃ君は!」
「え?」
「私が恥ずかしい格好しているのにシゲルの話題にしていたのが最高に頭痛いっ!中々育ってるってシゲルの話かよ!」
「だって2、3歳くらいの彼しか見たことなかったから……」
そんな子が来年高校生になるとか言われると、子供の成長の早さに驚く。
心は既に30過ぎなので、子供の成長には追い付けないね。
多分、転生してから俺はそんなに進化してないから尚更他人の成長には目を見張るものがある。
「はぁ……。なんなんだよもう……」
「そういえばなんで詠美が部屋にいるんだよ?ビックリしたじゃねぇか!」
「今さらそこに触れる君の方にビックリするからね!あ、3分経ってんじゃん!着替えるから部屋出てって!」
「自由かよお前……。というか、その姿を晒しておいて恥ずかしいはもうないだろよ……。恥ずかしい姿から普段の姿になるなら見られても問題なくね?」
「さすがひぃ君。女の着替えを見たいがためにそれっぽい理論を並べるじゃないですか」
「あー、もうわかったよ!出るよ、出ます!いつまでもスウェットなのも変だから俺も着替えてくる」
ジーパンと私服を雑にクローゼットから取り出し部屋を出た。
「ラッキースケベは禁止だよー」なんて声が聞こえたが、ナチュラルに無視しておいた。
(詠美のラッキースケベ!?)と中の人が多大な興味を示したがこちらも触れないことにする。
「…………はぁ」
着替えをするために空いていた叔父の部屋に入り、ため息を吐く。
いきなりの詠美の訪問になんの用なのか、察しが付かないままスウェットを脱いだのであった。