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7、黒幕概念は世界を滅ぼそうとする

「くはぁぁぁぁ!?まぜそばぁぁぁぁ!?スープがないラーメンとか邪道なんだが?」

「出た……。出たぁ!いる、そういうやつ」


俺が概念さんを連れていったのは、駅周辺にあるビルのテナントにひっそりと経営しているまぜそば専門店であった。

中学時代、マスターの友達が店主をしているというこの店にマスターと咲夜の3人でお邪魔した店であった。

これがまぁ、すっごい大当たり。

前世でもラーメン・まぜそば好きの俺を唸らせる煮干しの効いたまぜそばは感動を覚えたものである。


「クハッ!神はラーメンを注文したのにまぜそば屋に連れてくるとか邪神かお前?」

「だから邪神はお前だっての」


鋭いブーメランを投げてくる概念さん──もといエニアには参るね。


「クハッ!クハッ!クハッ!これが笑わずにいられるか!クハッ!クハッ!クハッ!」

「あ、笑ってるんだそれ」

「よかろう。だが、わかっているだろうな?」

「わかっている……とは?」

「もし、ウチを満足させられぬまぜそばであった場合じゃが……」

「満足させられぬまぜそばであった場合……?」


威圧した目で睨まれ、自然と口に唾液が溜まりごくりと呑み込む。

よほど彼女には不愉快なのがビンビンに伝わってくる。


「この世界を滅ぼす。クハッ、クハハハッ!それでも神たる我にまぜそばを食べさせると?」

「良いよ!この美味しさが伝わらない神が世界を統べるなら滅んでもいいよ!」

「後悔するなよ……!」


『絶対に認めてやるもんか』と鼻息を荒くして、店内に入店していった。

大丈夫か、あいつ?

というかこの世界を滅ぼしたら今以上に退屈なエニアの神生活が再開するだけでなんのメリットにもならないのだが……。

そのことがわかっての発言なのか、気になるばかりである。






─────






「最高に美味しいではないかぁ!な、なんじゃあこれはぁ!?」

「まぜそばだよ」

「ま、ま、ま、まさかラーメンにこんな形があったとは……。み、認めざるを得ない」

「それはようございました」


概念さんは、堪能するようにまぜそばの味を楽しんでいた。

人騒がせな神である。


「ほどよく効いた煮干し、しゃきしゃきなもやし、半熟とろとろ卵、くどくなく柔らかいチャーシュー……。こ、こんな形のまぜそばなんてリサーチしていなかった……。くっ、ウチは何やってたんだっ!」

「そんな悔しそうな顔しなくても……」

「このブラックペッパーを削りながら振り掛けるのもワクワクしてええなぁ」

「大満足じゃん」

「大満足じゃ!」


この店に来た客みんなが愛してやまないまぜそばは、概念さんの舌にも響いたようだ。


「こっちまで笑顔になる食べっぷりじゃなーい」

「あ、店長さん」

「明智君の連れて来る客はみんな良い反応するじゃなーい。こっちも作りがいがあるじゃなーい!」

「そ、そうですか」


マスターの知り合いのまぜそば屋の店長さんは概念さんの食べっぷりに大満足らしい。

近所の店を経営している店長仲間として、マスターとも付き合いが長いらしい。

ふくよかなお腹の店長は人が食べる姿が大好きで、特に女性はもっと喜ぶらしい。

……単に女好きでは?と思わなくもない。


「クハッ!主が店主か。まぜそばに偏見を持っておった。だが、ここに謝罪を申す」

「あら?良い女子高生じゃなーい!」

「まぜそばという新しく形。認めるぞ」

「あら、偉そうじゃなーい!」


言葉こそ上からであるが、どうにかこうにかまぜそばを認めてはくれたようだ。

世界を滅ぼすだの、まぜそばは邪道だの言っていた奴の手のひら返しはキレイなものである。

こうなっては良い形ではあるな。


「他のオススメも聞いてみても?」

「今、明智君と君がたべているのがオーソドックスなまぜそばじゃなーい!ほかには台湾まぜそばも人気あるじゃなーい!」

「台湾まぜそばとな?」

「卵の黄身を混ぜて食べると最高じゃなーい!」

「そんなまぜそばもあるのか。クハハハッ!是非、台湾まぜそばを食しにまた来る」

「あははははは!約束じゃなーい!」

「クハハハハッ!約束じゃな!」


何気に店長さんと意気投合している概念さんである。

まぜそば屋の店長さんと概念さんでこんなに話が膨らむと想像できる人は果たしていたのかどうか。

この人……ではなく、この神は誰とでも仲良くなっている気はする。

さすがは邪神でも神ではあるのであろう。

コミュ力つっよ!

咲夜にも見習って欲しいものであった。


「クハッ!大満足!大満足じゃ!クハハハハッ!」


まぜそばを完食した概念さんは「また来る」と必死に伝えた。

「絶対に店を潰すな店主!」と念入りに訴えていたようだった。

概念さんの奢りとはいえ、俺は何を見せられているのだろうか。

そのまま2人で店を出て行く。

「また来るじゃなーい!」という店長さんの言葉は、また行きたいと思わせるくらいに気持ち良い一言であった。


「ふむ。また美味しい店を紹介してくれよ明智秀頼」

「まぁ。そんな機会がまたあればな……」

「クハッ!クハッ!ラーメンもいいし、ハンバーグもステーキも良い!考えておく」


それからシュッと概念さんの姿が空気と同化して消えていった。

馬にされて、一緒にまぜそばを食べる。

今日1日はいったいなんだったのか。


神の気まぐれで振り回された1日であった。

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