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4、宮村永遠は実況する

今日は、考えごとをしながら図書室で勉強をしていた。

タケルとセレナ、詠美と茂。

無自覚な原作進行の流れを感じながらも、なにもできない自分が歯がゆくてノートを開いてもそのまま開きっぱなしのままになっていた。

久し振りにタケルにとってのヒロインは誰になるのか?

そこについて悩んでしまっていた。


「ここ最近の秀頼さんは眉間にシワが寄ってますよ」

「…………ぅえ?」

「ほら。ピーとシワを伸ばしましょ」

「く、くすぐったいよエイエンちゃん……」

「そうですか?もうちょっとくすぐったくします」

「や、やめてーー!?」


ほんのり温かい永遠ちゃんの絹のような指で顔を触られるのは、恥ずかしさと肌を触られるくすぐったさが混ざり合い、嫌でも意識が覚醒していく。

最終的には眉間は関係ない頬の部分まで指が伸びてしまっていた。


「ふぉふぉは、かんふぇいないのでは?(ここは、関係ないのでは?)」

「ふふふ。秀頼さんの顔を弄ってみたかっただけですから」


満面の笑みを浮かべて頬を引っ張っていた永遠ちゃん。

永遠ちゃんのぬくもりがダイレクトに顔に届くし、俺のぬくもりも永遠ちゃんにダイレクトに伝わっているというのがこんなに心をさわさわさせるものなのだな。


「秀頼さんの体温は高めですね。意外と頬が伸びる。ちょっと伸ばした頬をぐりぐりしたくなります。それにちょっと間抜けになると可愛さが上がる。眉間のシワが消えるとあら不思議、いたいけな少年のようで新しい秀頼さんが見えてきました」

「めっちゃ詳細に実況するじゃん……」

「キスしたくなるほど男前になります」

「え、エイエンちゃん……」

「あ、いつもキスしたくなるほどイケメンでした」

「エイエンちゃん……。君って子は……、なんでいつも麗しいんだ」

「えへへ……。いつも私をそんな風に見てたんだー」


最近、永遠ちゃんもサディストになってきた気がする。

おかしい、どうして俺の周りにはSしかいないのか。

いや、むしろ桜祭が産み出したヒロインはサディストが多いということかな?

原作を進めている時は永遠ちゃんをサディストと思ったことないないのに不思議だね……。


「それで、じーっとノートを見ていてなにか悩みでもありますか?」

「悩みというか、考えごと?熟考していたとか。そんな感じ」

「その悩みについて教えてはくれますか?」

「う、うん。実はタケルのことなんだけど」

「十文字さんのことですか?」


詠美と茂のことは原作をやり込んでいたからこそ知っているわけなので、知らないていのスタンスにしておく。

当然、そうなるとタケルのことについて永遠ちゃんに打ち明けることになる。

理沙からの相談で絵美と円とサーヤが知っていることだし、タケルとの会話で山本も知る事実だ。

タケルとセレナのことは永遠ちゃんに秘密にしなくても大丈夫という判断だ。

それからシャープペンの動きを止めて、かいつまんだ説明を彼女にすることになる。

それを真面目に頷きながら聞き役に徹していた。


「なるほど……。十文字さんに気になる女性が……」

「理沙から相談受けて、それをあいつに突っついてみたらドンピシャだったというわけだ」

「秀頼さんの行動力凄いですね」

「まぁ、理沙の悩み解決コーナーでもあったわけよね」

「純粋に秀頼さんの知的好奇心もあると思いますけど。人の『知りたい』という欲求はどんな欲にも勝るものですから我慢なんか出来ないんですよ」

「人の『知りたい』という欲求はどんな欲にも勝るもの、か……」


確かにその欲求には抗えないかもしれない。

特に俺なんかは人との対話が趣味なところもあり、特別な話を聞かされた時には友情が深まっていくような感覚に目覚めていく。


「永遠ちゃんにも『知りたい』欲求がある?」

「当然ありますよ。『秀頼さんは私のこと本当に好きなのかなー?』『秀頼さんは将来結婚してくれるかなー?』『秀頼さんは私と子作りしてくれるかなー?』。知りたいことだらけです」

「俺がエイエンが好きな気持ちに偽りは一切ないからね。なんたって俺は宮村永遠神を崇めているんだからね」

「宮村永遠神は……、恥ずかしいけど嬉しいですね」

「俺の中ではイエス・キリストと宮村永遠が同格だから」

「キリストと同格!?!?!?きょ、恐縮ですね……」


俺が前世で高校、大学を卒業したらエターナル教という新しい宗教を興す進路を候補に入れる程度には宮村永遠に入れ込んでいた。


「話が逸れたけど、タケルが気になる女性が誰なのかとか、本当に幸せな結末になれるのかとか色々と考えてしまうのよね」

「友達想いですね、あなたは。だから私も、絵美も、円もみんなが惹かれていくのでしょうね」

「そ、そうなのかな?当たり前をしているだけだよ」

「その当たり前が難しいんです。スポーツ選手だって当たり前なことしかしてないんです。当たり前を極めて、積み重ねることでプロになれるんです。だから『当たり前をしているだけ』と謙遜するのではなく、『当たり前をしている』と誇ってください」

「う、うん。ありがとうエイエンちゃん。本当に嬉しいよ」

「秀頼さんが嬉しいと私は幸せです!」


当たり前を極めて、積み重ねるか……。

彼女の言葉は本当に重い。

だから、こんなに刺さる言葉になるのだろう。


「ヤバい……。さっきの言葉でイエス・キリストを宮村永遠が抜いたわ。教祖様」

「それは違います。ま、まあ抜いたのは嬉しいですけど」

「あぁ、抜いたよ」


宮村永遠を信仰すれば、すべての争いも終わる。

そんな自信が漲ってきてしまう。

まぁ、エターナル教の教徒は俺しかいないわけであるが……。


「エイエンちゃんはキリストを抜くほど凄い!」

「抜けるなんて嬉しいです」

「こほんっ!あのすいません」

「「…………え?」」


永遠ちゃんを褒めちぎっていると、図書室を管理している女の生徒が話かけてきた。

俺と彼女は驚愕しながら彼に返事をだした。


「と、と、図書室ではなるべく静かにお願いします。あ、あと……抜ける、抜く、抜いたなどの発言はちょっと恥ずかしいので……」

「うわっ!?」

「ちがっ!?そんな深い意味はないんですよ!?」

「あ、あの……。話を聞いていてイチャイチャばかりしてるし、抜く連呼で恥ずかしいですぅ……。ぅぅぅ……。こっちもドキドキしちゃいます……」

「本当にごめんなさい!」

「ボリューム小さくします!」


赤い顔で目を隠した図書委員ちゃんに平謝りしながら時間は過ぎていくのであった。

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