3、佐木茂
「あ、僕の紹介まだでしたね。佐木茂です。運動とかは苦手なのでボランティア部部長をしています」
「そうなんだ」
詠美の弟君は嬉しそうに自己紹介をしていた。
いつも悪ノリで好き勝手をしているイメージの詠美の弟がこんな礼儀正しい子なのはおかしい……。
こんな親しみやすくニコニコしている男はみんなから愛され上手だろうと尊敬する。
「先輩の名前もお伺いしてもよろしいですか?」
「……明智秀頼」
「明智秀頼……?」
「どうした?」
「いえ……。なんでもないです。ただ、姉ちゃんの思い出話に登場する『ひぃ君』って──」
「うわぁぁぁ!?やめて、シゲル!そういうの素直に言うの禁止っ!」
「ははは……」
詠美がこんなにテンパる姿を見るのははじめてかもしれない。
いつもは周囲を困らせるくらいのマイペース人間だからなぁー……。
「そっかぁ、明智先輩って言うのかぁ!色々良くしてくれて感謝しかありません!明智先輩のファンになってしまいます!」
「おいおい、俺のファンになったらスタチャファンと被るじゃないか」
「両立しますっ!」
「え?天使……?」
「シゲルは誰よりも紳士に育てたんだからあんまり変なこと吹き込まないでよ」
誰よりも紳士に育てたという詠美の発言は説得力がありすぎた。
マジで知り合いの男の中で1番の紳士だ。
「茂君、ギャルゲーの主人公みたい……。特にいちゃラブ系の……」
「ちょっとひぃ君!?」
「あと、女の子に虐められる系の……」
「それは、いつものひぃ君じゃん!」
とにかく、それくらい茂君はギャルゲー主人公並みのスペックはあると思う!
『悲しみの連鎖を断ち切り』とかいうギャルゲーでは立ち絵のないモブ男だったのが悔やまれる。
エンディングのキャスト欄などでは『詠美の弟』とクレジットされていた記憶がある。
基本的にあのギャルゲーは、立ち絵ありの野郎は少ないのだ。
秀頼、関、瀧口という、立ち絵のある男=全員悪人!という、古典的にタケル以外の男はざまぁ要因である。
桜祭の主人公絶対主義が反映されすぎたゲームである。
「ギャルゲーってなんですかね姉ちゃん?ゲームのことですか?」
「しっ!茂にはまだ早いの!茂はまだマルオブラザーズとかスマブラとかテトリスしかゲームを知らない子なのっ!」
「逆に大丈夫か茂君!?俺、5歳ではギャルゲーやってたぞ!?」
「ひぃ君が早すぎるんだよ」
「でも、僕……。明智先輩が勧めてくれたゲームならやってみたいな」
「なんならゲームごと俺があげるよ」
「ダメダメ!知らない人から物をもらってはいけないって学校で習ったでしょ!」
「あれ?俺、ナチュラルに知らない人扱いされてる?」
スタチャにはスタヴァに誘われず、詠美には知らない人扱いされて。
今日はさんざんである。
なんて日だっ。
(おい、こら。詠美には優しくしろや)と詠美推しな仲の人からも責められる始末である。
「ちょっと過保護すぎじゃないか詠美?」
「だってこんなに可愛いんだよ茂」
「僕は可愛くないもん!ね、明智先輩?僕、可愛くないですよね?」
「…………可愛いな。詠美の言い分を認めよう」
「なんでですか!?」
なんか、忠犬みたいで。
たまに頭から犬耳が生えていそうな子である。
「僕は格好良くなりたいです!」
「諦めなさい」
「詠美の言い分を認めよう」
「なんでですか!?男で可愛いなんて侮辱だ!」
「シゲルのこういうところが可愛いのよね」
「詠美の言い分を認めよう」
「明智先輩ぃぃ!僕の言い分も認めてくださいよ!」
特に詠美も、親戚の絵美も身長が低い小柄なタイプだ。
それの例にも漏れず、茂君も身長160切るくらいなので相当なショタ顔である。
詠美がブラコンなのもよくわかる。
ほっとけない感じが星子と重なっていく。
「じゃあ、茂君の味方もしてあげよう。茂君の格好良い男の条件は?」
「タバコやシャ●吸って運転している感じ!」
「未成年が憧れて良い格好良さじゃねぇ!」
タバコはともかく、シャ●はあかん……。
格好良いがズレまくっている。
完全に優等生が不良に憧れるを地で行ってしまっている。
純粋にダサイぞ、その男像は!?
「シゲルには似合わないなー、それ」
「はう……。僕は格好良くなれないのか……」
「格好良いのベクトルがな……」
「じゃあ、ひぃ君の格好良いの理想像は?」
「人造人間ハカイ●ーとか、イナズ●ン、メガレ●ジャーとかデンジ●ンとか」
「え?ハカイ……?イナズマ……?」
「要するに特撮ヒーローだよ」
「確かに特撮は格好良いですね!」
「待って!?やだ!弟が特撮ヒーローに憧れるのはやだ!」
「難しいお年頃だな詠美」
詠美がブルブルと首を振っている。
特撮のロマンをどうやら理解できないようだ。
「あ!なら、明智先輩に憧れるのはありですよね!?」
「え?俺に?」
「はい!」
「そんなこと言われると照れるじゃないか」
「学校でのひぃ君知ってるとなー。……なんか幼い時より幼くなってない?」
「なってないよ!?」
幼い時より幼いって何!?
まぁ、確かに詠美と会っていたころはすさんでいた時期と重なっていたかもしれないが。
あの時は俺であり、俺じゃなかったんだと説明しようにも難しい。
「明智先輩の怖そうな目付きしてるのが格好良い!」
「これ、あれだな。悪いのに憧れる年頃だ。ハカイ●ーとかダークヒーローで最高だぞ」
「特撮はもう良いっての」
妙に茂君に懐かれてしまったな……。
弟も、男後輩もロクにいないので、慕ってくれるのは悪い気がしない。
「姉ちゃんと同じクラスということはギフトアカデミーか!来年、僕もギフトアカデミーに入学するんですよ!よろしくお願いしますね明智先輩!」
「おお!入学前からコネ作りか!流石茂君、詠美の妹だ!」
「ひぃ君、言い方が悪い!コネとか言うな!」
「明智先輩になら、茂って呼び捨てにしてもらいたいです」
「わ、わかった。……本格的に茂が俺の男後輩ポジション狙いにきてるな」
「シゲルには悪気一切ないんだからそういうこと言わないの!ほら、めちゃくちゃ輝いてる目を向けてるし。何があったら20分程度でこんなに慕われるのさ」
「スタチャトークだな」
「スタチャトークですね」
茂と息のあった断言であった。
「それよりさ、この自然公園ってあそこの広場ってなんて呼ばれてるなか詠美か茂はわかるか?」
「あそこは確か……」
「幽霊が出るって噂だから誰も近寄らないよ。ひぃ君も近寄らないのが無難よ」
「ふーん」
こちらの調査であったが、やはりセレナとタケルの逢い引きしていた場所はあそこだったか。
果たすべきことも果たした。
「じゃあ、俺帰るよ」
「あぁぁぁ!明智先輩!また僕といっぱい話してください!」
「わかった。またな茂」
「また明日ね、ひぃ君」
「そうだな。また明日」
「姉ちゃんばっかり同じクラスでずるっ……」
茂が妙に俺に懐いてしまい、中々邪険にも出来なくなってしまった。
本編の出来事を知ると、あまり茂と会わない方が良いのだけれど……。
知り合った以上は彼らも巻き込んでしまったようなものだろうか……。
平和の象徴・佐木詠美か……。
詠美と茂のことに悩ませながら帰路を目指すのであった……。