番外編、悪人と悪女
「はじめてで痛かったけど、人に愛されるってこういう気持ちになるのね……」
「ゆり子が求めるならまたいくらでも……」
「秀頼……」
深夜2時。
ベッドの隣に座る女と口付けを交わす。
「んっ……」と彼女から甘い声が漏れる。
久し振りに身体の相性がとても合う子だ。
絵美とは身体の相性は最高なのに、いつも無理矢理させるのとは違う。
今晩だけは純粋に愛し合いながらというピュアな気持ちで俺は彼女に求め、求められた。
「太ももが太くて揉むの最高」
「や、やめて秀頼……。あと、太いはさすがに妾でも恥ずかしい……」
「ゆり子だって、筋肉フェチだからと俺の筋肉揉み揉みしたじゃねぇか。……あ!膝舐めても良い?」
「舐めてる!舐めてるぅぅぅぅ!」
久し振りにピロートークをしても冷めた気分にもならなかった。
抱く前にした彼女の孤独。
なにか、俺と重なって放っておけなかった。
今まで生きてきた記憶を失った世界で、彼女は寂しかったようだ。
生きてきた記憶がない、か……。
俺の汚点。
黒歴史。
クズな叔父のことを忘れたいと願ったことは1000じゃ足りない。
だけど、俺は記憶を任意で消せるスイッチはあっても押せないだろう。
あの男の復讐心を忘却させる方がよっぽどの屈辱だからだ。
そう思うのだから、ゆり子だって記憶がある方が良いに決まっている。
太くてエロい膝を堪能しながらイチャ付いていた。
彼女が満足できるまで、俺が愛した傷痕を残す。
愛されたことのない俺だからこそ、愛したい。
だから、俺はどんな女にも1番愛されたという思い出を残す。
それは、ゆり子も例外じゃない。
「も、もう!揉むなら膝じゃなくてもっと上が良い……」
「乙女の証明が消えた途端から求めるねぇ!」
「あ、あ……。んっ……」
「んっ。大丈夫。まだまだ時間はある。ゆっくりしようじゃないか」
「妾……。怖い……」
「怖い?」
震えているゆり子の手を取る。
彼女の身体は色々な傷がある。
記憶を失ったことと、何か関係があるに違いない。
俺の虐待された傷痕とも違う。
切り傷?小さい火傷?
そんな微小な傷が美しいゆり子の肉体に罪を与えるような形で付けられている。
俺もプールとかには入れる程度には大分薄まってきたとはいえ、ちょっと痣や傷が多い。
タケルなんかは『普段から鍛えているから生傷が絶えないんだな』とか呑気に考えているらしいがね。
「記憶が戻った瞬間、妾が秀頼に抱いた気持ちが消えてしまうんじゃないかって……」
「大丈夫だよ……。お前が俺への気持ちを忘れたとしてもまたすぐに抱いて気持ちを思い出させてやる」
「本当に……。そなたは頼もしい。だから名前に頼の字が入っているのかもな」
「さぁね?俺なんか名前付けた親すら知らねぇから。まぁ、愛されてないしテキトーに付けたんじゃね?知らんけど。武士の名前を付けるもんかね」
「秀頼のことは知らないけど、名前の由来になっているであろう豊臣秀頼は親から愛され過ぎた子らしいわよ。そんな武将と同じ名前を付けたのだもの、あなたは両親に愛されていたに違いないわ」
「へぇ……」
そんなこと言ってもらえたのははじめてだ。
虐待変態叔父に、無能おばさん。
殺した親変わりに負い目は一切ないが、ゆり子のそんな言葉を聞くと……。
早々に死んじまった親はまともだったのかなって縋りたくなってくる。
「そんなこと、はじめて言われた……」
豊臣秀頼なんか、教科書に2回くらいしか名前に挙がらなくてそんなに目立たないし。
歴史の主役を務める家康からラスボスのように扱われて自害した負け犬みたいな印象しかなくて……。
なんでそんな負け犬男の名前を俺に付けたんだと嫌いな名前だった。
「秀頼……」
「ゆり子……。俺……、愛されていたのかな……?」
「うん……。そうだよ」
「そっか……」
不思議とゆり子の言葉がすっと胸に入っていった。
「秀頼……。好き……」
「そっか。俺も好きだよ……」
「うん……」
久し振りに、本気で熱が出るくらいに相性が最高の女と出会った。
悔しいなぁ。
このまま彼女の記憶を取り戻さないまま、ゆり子と新しい日常を作っていきたいと邪な思考に取り憑かれそうだ。
でも、それじゃあゆり子は前に進めない……。
「…………そろそろ、記憶を取り戻すか?」
「うん。お願い」
「失敗したらわりぃ……」
「むしろ、妾は失敗して欲しい」
「俺も望むなら失敗して欲しいけど……。抱いた料金は支払わないと」
記憶喪失という名の鳥籠は解放させないと。
「ゆり子。【失った記憶を取り戻せ】」
「うっ……。うっ!?ううううぅっ!?」
「安心しろ。ずっと隣にいる……。おやすみ……」
「…………」
記憶を取り戻す旅に出たのか、すっと眠りに付いた。
寒い格好をさせている手前、風邪を引かないように余分に毛布を被せた。
それから俺も態勢を横にして、ゆり子の手を握りながら目を詰むって眠りに落ちていった。
──────
「ん……」
「おはようゆり子」
「ひでより……?」
「うん」
午前9時過ぎ。
お互い学校をサボった形になった朝、少し間抜けな顔をしたゆり子の焦点が合っていない。
「おはよう……」
「全部思い出せたか?」
「うん。…………妾は悪女だったようだ」
「へぇ?」
「恋に狂ったが故に人を襲う。…………そんな悪女だ」
「別に良いじゃなぇか」
「え……?」
恋に狂ったが故に人を襲う。
俺も彼女に出会う直前に、セの付くフレンドである悠香が奪われたとお漏らし男に襲われた。
おかしい感情じゃない。
誰も彼もが恋をしている時点で狂っているのに、奪われて狂うなってのが無理な話だ。
あの男には弱い癖にイキり散らしたことや、態度については責めまくったが、俺を襲ったことに関しては一切責めなかった。
俺だって、大事な絵美が奪われそうになった時は山本とかいう男ら3人をボコボコにしてやったわけだからな。
「妾は……、秀頼が好きだ。……好き。……浩太という違う男が好きだったようだが、既に妾ではどうでも良くなっていたようだ」
「そうか。……ただ残念ながら俺は悪人だ。ゆり子以外にも何人も女を侍らせている」
「その慣れた女を扱うテクニックでわかっている。ナンパしてきた手腕も見事だった。悪人と悪女カップル。お似合いじゃないか」
「平気で犯罪だって、殺しだってするがな」
「犯罪もしたし、女を殺そうともした妾。同じ穴のムジナだな」
「ふっ……」
悪人と悪女のカップル。
最高の響きじゃないか。
「それと、ゆり子ではなく妾はサーヤの方がしっくり来る。サーヤと呼んで欲しい」
「サーヤ」
「秀頼」
お互いに名前を呼び合いながら微笑んだ。
身体の相性も良ければ、性格の相性も最高のようだった。
「秀頼……。もっともっともっと……。妾を女にしておくれ」
「サーヤのお望み通り──」
ガバッと布団を引き剥がしながら、サーヤの口元へキスをする。
舌を絡ませ合いながら、お互いの唾液がネチャネチャと混ざり合っていく。
サーヤの悪い魂と、俺の悪い魂が融合されていくようであった……。
原作世界にて、秀頼は悪人としての面ばかりが注目されていました。
しかし、秀頼の女らは彼を悪人と知りつつも非難している人は皆無でした。
サーヤは秀頼が死亡すると自殺する運命にあります。
中々ディープな関係でした。