番外編、明智秀頼は希望のない女と出会う
【原作SIDE】
「ひぃぃ……。俺が悪かった……。ゆ、許してくれ……、頼む……」
「はぁ?頼む?人に許しを乞うにしてはずいぶん上からだなお前。お前から喧嘩を吹っ掛けておいて負けたら許してくれってか。舐めてんだろお前?」
「ひっ……!?」
人気のいないところに連れられたかと思えば、俺を殴ろうとしたところを、簡単に返り討ちにしたのであった。
大学生らしいが、中坊の俺に地面に頭を付けさせられてどんな気分だこの負け組男は?
弱すぎてギフトを使う必要すらない。
「彼女を俺が寝取ったってか?おいおい、バカ言うなっての。ホテル誘って股開いたのは女からだよ。お前とのセッ●●は物足りねぇって4回戦いったよ」
「う、嘘だ……。悠香がそんなこと言うわけ……」
「お前、1回戦5分持たないだろ?『早すぎてクソ』とか言いながら悠香からゲラゲラ嗤ってベッドでバカにしてたっての」
「そ、そんな……」
「幼馴染で許嫁なんだってなお前。そんな不必要な鳥籠、俺が壊してやったよ」
むしろ鳥籠を自分から壊して欲しい。
女からの依頼を俺が達成しただけだ。
人のしがらみを壊すきっかけを俺は与えているに過ぎない。
「弱くて、ブサイクで、早●って俺が女ならお前みたいな奴選ばないもん。ただそんなダメ男でも、女をキープする方法を教えてやるか?調教するんだよ。『お前は俺より下』、『俺が嫌々付き合ってあげてる』『飽きたら捨てられる』って脳に刷り込みさせるんだ。そうすることで絶対裏切らない女が完成する。お前も悠香相手にやってみろよ」
「っ……!?」
「あ、わりぃ。俺、悠香を調教してたんだったわ。クハッ、クハハハハ。残念だけど、あいつはもう俺を裏切らないよ。調教の首輪でガッチリ固定してあるからな」
「…………うぅ。う……」
「ふふふっ。お前、涙と一緒にションベン漏らしてんじゃん。きったねぇなお前……。はははは、あばよ」
これくらい辱しめて脅しておけば逆らうこともないだろう。
まったく……、弱いクセにイキって逆らってくるとか本当に救いようがねぇよ。
ツカツカと人通りの多い道を歩き、自宅に向かう。
スカッとした気分になり、ハイなテンションのままどっかの女をナンパするか、女を呼び出すか、自宅に帰って絵美によろしくするのか。
魅惑的な選択肢に頭を悩ませながら行く宛てもなく歩いていた。
「ん?」
そこへ、1人の目立つ女を見付けた。
ピンクという目を惹く髪の色をして、どっかの鳥籠女みたいに目にハイライトがないように濁って生き物の住めない沼みたいに絶望とした目をした女だ。
彼女が、ブレザーを着てぼーっと周りを観察していた。
あのブレザーは東青高校か。
なら1、2個は年上ということになる。
「へぇ……。良い肉体しているし、顔も悪くない。ホテルか部屋に連れ込んでやりてぇな。今日の予定は決まりだな」
口の中に唾液が出てきて飲み込む。
たまには新しい子と出会って新鮮さがないとな。
自然を装いながら彼女に話しかけに行く。
「やぁ、彼女。どうしたの?せっかくの良い日なのに、目が沈んでるよ」
「……あら。下心が丸見えよ。妾とやりたいだけなら帰ってください」
「…………」
むっとして、心で舌打ちする。
たまにこういう聡い女もいるんだよなー。
ただ、せっかくの上玉な女をそれで逃げるナンパ師は二流以下だ。
一流のナンパ師の条件は、どんな女でも逃げないってもんだ。
切り返し方を修正していく。
「おいおい、そりゃあないって彼女。なんか悩みあるんでしょ?なんでも聞くし、なんなら解決してやるよ」
「あんたみたいな軽そうな男に、妾の悩みなんかわかるわけないじゃない。というか口に出すわけないし」
「へぇ。なら、悩みを聞き出してやろうか?」
「良いわよ。絶対に口を割らないから。もし、悩みを聞き出せたならもしかしたら一晩くらいなら相手してあげても良いわよ。多分、妾は処女だし」
「へぇ」
多分、ね。
試しているのか、記憶がないのか。
もしかしたら男に襲われた過去でもあるのか。
彼女の言葉の一言一句に裏がないか考える。
──ただ、まぁ口を割らせるくらい簡単なんだけどね。
「そっか。なら君にお願いするよ。【君の悩みはなんだい?】」
「……記憶喪失で、妾には何もない。学校に行っても、どこか脱け殻のようで辛い……。やりたいこともない……。もう死にたい……」
「記憶喪失ね……」
なるほど。
だから『多分処女』か。
彼女自身わからないわけだな。
ただ、彼女独特な一人称や言葉がペラペラなことから記憶だけが抜け落ちているということか。
なら、無理矢理『命令支配』でその記憶をこじ開けてしまえば良いんじゃないか?
脳が停止している部分に、ギフトが染み渡るはずだ。
「【あんたの名前は?】」
「佐山ゆり子……。あれ?なんでさっきから隠したいことが口に……!?」
「なら、ゆり子。俺と取引だ」
「え?とり、ひき……?」
死んだ目をした彼女が、こちらの顔をはじめて向いた。
「俺がお前の記憶を取り戻す奇跡を起こす。だから、ゆり子は俺の夜の相手になれ」
「そ、そんなの無理に決まってる……」
「無理だったそん時はベッドで一緒になっている俺の首をかっ斬れば良い。俺は神に愛された男だ」
「…………。わ、わかった。妾が夜の相手する」
「よーし、いい子だ」
首の後ろへ手を回し、Dカップ(推定)ある胸を鷲掴みする。
彼女はピクッと硬くなったものの、「優しくしてやる」と口元に囁く。
「俺は明智秀頼だ。ゆり子、家とホテル。どっち?」
「……秀頼の家」
「よし、なら帰るぞゆり子。大丈夫さ、これは取引。お前の知りたい真実、知りたくなかった真実。ぜーんぶ思い出してやるからよ。だから愛し合おうじゃないか」
「もし、妾が悪女だったら?」
「ははは!悪女結構!俺は悪人だ。悪人と悪女なんか相性バッチリさ!」
「ふ、ふふっ。期待しないで待ってますわ」
くすくすと口元を抑えて微笑むゆり子。
その仕草から、彼女は育ちの良いお嬢様かもしれないと察する。
「お?笑ったな?お前、今、かなり楽しそうな表情してるぞ」
「え!?」
「俺はお前を今から徹底的に愛してやる。記憶が無くて孤独なお前を誰よりも愛す。だから、ゆり子も俺を愛せ」
「ひ、ひでよりっ……」
「頬のキスくらい笑って受け止めろ。時間はたっぷりあるさ」
既に、彼女目は希望に満ちたように瞳が輝きを発しようとしているところだった。