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60、津軽円は情に訴える

いつものようにただイチャイチャしに来た絵美と、原作会議をする円というダブルブッキングが起きていた。

当然ながら原作キャラクターである佐々木絵美に原作会議をしている姿を晒すわけにもいかないので、延期だなと彼女とアイコンタクトでジェスチャーをする。

原作の動きがある程度収まりつつあるので、『原作会議の必要性があるの?』と度々円から疑問視されているのだが、念には念をということで定期的に行っている。

そんなわけで、絵美がこちらに来た用事があったらしいのを思いだし、彼女に理由を問い正してみる。


「それで、絵美?なんか相談でもあるの?」

「うん。実は昨日、バーベキューがあったじゃん」

「あったあった」

「バーベキューなんかしたわねーってくらいに前の出来事のようね……」

「年を取るとそうなるよな。時間は過ぎるとあっという間だ」

「まだ高校生で何言ってんですか……。秀頼君も円も年寄りみたいなこと言わないでよ……」


心は既に30歳オーバー。

絵美は知らないだろうけどとっくに廃れてしまっているのである。


「そのバーベキュー後に理沙ちゃんから連絡がありました」

「連絡?」

「兄の十文字君の様子がおかしいとのことですよ。帰ったらなんかぼーっとしているとか、遠い目になっているとか。ちょっと赤くなっているとか。だから、秀頼君は何か知りませんか?」

「タケルと昨日連絡してないし、知らないな……」

「あら?明智君でも十文字君の知らないことあるんだ」

「山ほどあるわ。理沙すら知らないことが、俺にわかるわけないだろ」


円から素朴な疑問とばかりに当たり前なことを呟かれ、心でずっこける。

仲は良いかもしれないが、リアルタイムなタケルの心境なんかわかるはずない。

「ちょっとがっかりーっ!」と円が勝手なことを言い出す始末である。


「落ち着いて!でも、そっか。秀頼君もわからないか」

「タケル本人に聞いたわけじゃないからわからない。ただ、男目線になると大体わかっちまうんだなー、これが」

「あら?明智君が珍しく自信満々ね」

「それはなんですか秀頼君!?」

「女だろ」

「女!」

「女!」


絵美と円が急にテンションを上げたらしく『女!』とハモらせた。

女の子はこういう話になると、どうでも良い人でも食い付く習性があるよと前世で吉田が自信満々に語っていたが、マジであるようだ。


「えー!十文字君に女ですかーっ!」

「明智君が好きだと思ってたのに成長しちゃってー!あの男っ!」

「何故俺が好きかという話には触れないからな」


円は特に腐った男話が好きなので、無理に触れることもないだろう。


「それで、それで!十文字君に女とはどういうことですか?」

「あぁ。奴はおそらく女のヌード写真集に出会ったのかもしれない」

「え?女ってそういうことなの?」

「俺にも覚えがあるよ。はじめて本でヌードのページを捲った日、視界に映る女が全員こんな身体をしていると想像するとまともに顔が見れなくなったもんだ」


タケルもまだ恥ずかしいのか、沢村ヤマの水着止まりであった。

そうか、ついにあいつも大人の階段を登ったようだ……。


「円は机まわり、わたしはベッドの下を探します」

「りょっ!」

「無いから家捜しやめて!」


前世の体験談を語っただけなのに絵美と円が結託して物を漁りはじめて必死で引き止める。

すると、ベッドの下の小物をずらした絵美がやべぇぶつを手に取ってしまう。


「ん?沢村ヤマ……?」

「それ違う奴!マスターの!マスターのだから!」

「不純ね……」


いつかにおばさんから見付かってしまい大騒ぎになった元凶の沢村ヤマの写真集を絵美の手から引ったくり近くにあったカバンに入れておく。


「大きい胸だったね」

「スイカ並みじゃない」


ちょっぴり見えたらしい沢村ヤマの画像の感想をコソコソ言いあっている2人が恨めしい……。


「でもっ!もしかしたら、タケルにも春が来たのかもしれない!」

「秀頼君、誤魔化すの必死ですね……。わたしは悲しいですよ……」

「貧乳な私たち2人では不満なんだね……。私は悲しいですよ……」

「うっ……!?情に訴えられると良心が痛いよ……」

「いつか秀頼君の性欲処理について真面目に話し合わなくてはならないですね」

「いっそ、彼女全員で明智君専用写真集を作ってあげようか」

「これ以上、情けない気持ちにさせないでくれ……。どこの世界に恋人の写真集を作らせる彼氏がいるんだ……」


でも、佐々木絵美のメイド写真集とか津軽円の水着ヌード写真集とかあったら平気で数万単位で課金する未来が見える。

……ちょっと欲しいかも。


「『ちょっと欲しい』って顔してる」

「明智君はわかりやすいわね……」

「してねーよっ!してないからっ!」


ドS2人がタッグを組むと本当に容赦ないから困る。

前髪を整えながら落ち着かせた。


「それよりも、タケルが心配だな」

「エロ本の興味だと推理した男が十文字君を心配してるわけないじゃない」

「心配だなーっ!心配し過ぎて夜にしか寝れねぇよ!」

「さっき起きて2度寝してたし、朝から寝てるじゃないですか……」

「今からですぅぅぅぅ!」

「だいぶ必死だね」


ぶっちゃけタケルについてはなんの心配もしてないが、ワンチャンヒロインに会って心を奪われたなんて事態もあるかもしれない。

誰だ?

残りのヒロインから推測すると……。


詠美か?

五月雨か?

スタヴァの姉ちゃんの妹の千秋か?

歩夢か?

アリアか?

愛沙……、は存在が抹消したのだったか……。

俺と面識がないヒロインも残り2人と少なくなってきたものである。


誰だ!?

誰だ!?

わかんねぇ!

ワンチャン、ヒロインじゃない子のルートに行ったとか?


「でも、あるかもな。タケルに女の影」

「っ!?」

「っ!?」


そう言うと絵美と円は興味津々な顔をして俺に注目する。


「むしろ、女の影がない方が異常じゃないか?」

「確かに。そこそこ顔は良いし、性格は良いからね」

「円の中の十文字君の評価、はじめて聞いたかも。これは早速、理沙ちゃんに返事を送らないとね」


絵美はスマホで理沙に連絡をするためにラインのアプリを開いていた。

こうして、タケルに気になる女現れたんじゃないか説が浮上したのである。

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