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56、津軽和の信頼

「んじゃ、ちょっと席外すわ」

「うむ」


咲夜にそう言って秀頼は立ち上がる。

DQN3人組が西軍を狙いはじめて1時間後、トイレの方向に消え去っていく秀頼を確認してにやぁと頬を緩ませた。


「ねぇねぇ、彼女たち。俺たちと遊ばない?」

「は?」

「俺たちさ、男3人で来てるけどマジで暇なのよ。ヒマヒマ星人なのよ」

「ヒマヒマ星人とは?」

「暇と退屈が融合してしまった悲しき人間なのよ。なぁなぁ、遊ぼうよー」


リーダー格である金髪なチンピラ男がゆりかに話しかけに来る。

「はぁ」と相づちを打ちながら、変に真面目なゆりかは「そっか、暇なのか……」と気の毒そうに考え込む。


「ちょ、ちょ、ちょ、ちょっと!?アレ、ナンパってやつでは!?ナンパですよナンパ!?」

「ナッパ?」

「ナンパです!学園長先生に助けを」

「あぁ!悠久なら寝てる」

「zzzzzzzzzzzzzzz」

「肝心な時にっ!」

「まあまあ、朝から運転して疲れたんだよ。帰りも運転するんだから寝かせとけって」


ゆりかとは違うベクトルで本気で真面目な理沙は、唯一の大人である学園長に助けを求めるが、テーブルに突っ伏して寝ている悠久を起こすのも忍びなくヨルの言う通り寝かせることにする。


(どうしましょう?兄さんに連絡を──!?しまった!?この場に兄さんはいない!?)


いつも自分の側にいるタケルへ助けを呼ぼうとしたが、今回は家に置いてきたことを思い出す。

因みに兄であるタケルさんは、この日新しい出会いがあった日であるが、ここでは割愛。

秀頼が戻るのを待つしかないのかと歯痒く感じた時に、DQN3人組の1人が理沙に近付いた。


「かのーじょっ!君も遊ぼうぜー」

「は?あのちょっと!?」

「あっちの黒髪の子が遊んであげるってさ」

「ゆりかさーーーーん!?」

「いや、ヒマヒマ星人で可哀想だから遊んであげようと」


身体を狙われているなどいざ知らず、ゆりかは「仕方ないから遊んであげよう」と答えたのだ。

当然、男らはお近づきになるのが目的であるが、単純にゆりかはサッカーやフリスビーで遊ぶ程度にしか考えてなかった。


「俺は君と遊びたいな」

「私、遊ぶよりギャンブルの方が好きだなー」

「ならギャンブルしようぜ」

「へぇ。頼んだらやらせてくれそうな女子ランキングのクイーンにギャンブルを申し込みますか」


椅子に座りふんぞりかえっていた和は、『どうせゆりか先輩なら襲われても返り討ちにするでしょ』と静観していたが、自分に火の粉が振りかかるなら対処するつもりだった。


「なるほど、なるほど……」


さっきから西軍メンバーをいやらしい視線で視姦していたのを確認していた和だったが、秀頼が消えた瞬間に消える露骨さに笑ってしまいそうになる。

そして、狙いはゆりか、理沙、和に狙いを絞ったようだ。


「あわわわわ!?あけっ、明智さんを呼ばないと!?」

「大丈夫です。秀頼君は頼まなくても飛んできますよ。多分、その辺にいますよ」


慌てる遥香だが、絵美はなっっちゃんの缶ジュースを様になるように飲みながら彼女を落ち着かせる。

それくらい、絵美は、秀頼に対する絶対的な信頼感があった。

何があっても、秀頼に対する信頼は落ちることがないだろう。

秀頼ならいざとなったら格好良く助けてくれる。

だから呼ぶまでもなくすぐ来ると確信していた。


「ならギャンブルをしようか。3人でサイコロを投げ合って合計の目が大きいチームが勝ちってルールだ。サイコロは俺らが持参しているから安心しな」

「おぉ!運動ではないのが癪だが、我は良いぞ」

「そして勝ったチームは敗者チームに命令を下す。因みに俺らは連絡先交換したいな。で、できるならその先とか……」

「なら、私をときめかせたらデート、果てはお持ち帰りもさせてあげる」

「!?」


頼んだらやらせてくれそうな女子ランキングクイーン・津軽和。

彼女をギャンブルというテーブルに立たせて健全で済ませるのは我慢ならなかった。

『頼んだらやらせてくれそうだけどやらせない』をモットーにしている和にとって、エサをぶら下げてこれくらいは男のやる気を上げなくては楽しくないと年上男を手玉に取るつもりだった。


「ま、待ってください!ドローならどうしますか!?」

「じゃあ向こうの勝ちで」

「えぇ!?良いんですか!?」

「良いんです。それに私たちが負けたら──」

「負けたら?」

「理沙先輩……。負けた時のことなんか考えないでください」

「えぇ!?和さん!?」

「とにかく勝てば良いんだとよ理沙」


突然切っ先を変えられた理沙は狼狽えたが、仲裁するゆりかが彼女を抑える。


「どうせ、トイレ行く素振りなんかしてどっかで見ているんでしょ?私たち、ピンチなんですけどどうしたら良いですか?」


和が誰もいないが男らが張ったテントの影に小声でわざとらしく投げ掛けた時だった。

彼女にだけわかるように手助けをされ、和はほくそ笑んでいた。


「じゃあ、スタートしましょう。ハンデはこちらが背負っているので先行を譲りますよ」

「わかった」


1人がサイコロを投げると『6』の目が出る。

仲間内で「やるなー、横島!」と3人で盛り上がる。


「最初から不利だな。だが、強運の我に任せておけ」


原作で真っ先に明智秀頼を襲い、速攻で殺害されるゆりかが気合いを入れて1番手を名乗り出る。


「だが、サイコロがない。貸してくれ」

「おぉ、仕方ないな」

「バカですかゆりか先輩」

「うげっ!?な、なにをする和」


ゆりかを靴越しに足を踏みつけて制止する和。

涙目になり、仲間から不意打ちをする和を凶弾するも、飄々としていた。


「この状況で『1』しか出ないサイコロとか渡されたら敗北確定ですよ。それになんでわざわざ手に持っているサイコロじゃなくて違うサイコロを手渡そうとしていたのかがおかしい」

「うっ……」

「ほら、ちょうど私もサイコロがあるので使ってください」

「ありがとう和!おぉ!かっちょいいサイコロだ」


ゆりかがお礼を言いながら青いスケルトンクリスタルなサイコロに目を輝かせる。

「やはりスケルトンはロマン溢れるな!」と歓喜に震えた声を上げる。


「って、ちょっと待て!?それ10面ダイスじゃねぇか!?」

「これなら我は負ける気がしない」

「そりゃあ負ける気しねぇだろ!?しかも0の面が10になってるサイコロなんか反則じゃねぇか!」

「仕方ありません。返してくださいゆりか先輩。こっちの普通のダイスを使いましょう」

「おぉ、普通の白いサイコロだ!かっちょよくない……」


青いスケルトンクリスタル10面ダイスを使いたかったとばかりにゆりかは和のサイコロを羨ましそうに見ていた。

「まあまあ」と理沙がなだめると、ゆりかが仕方なくサイコロを投げた。


「『6』!ふふっ。流石に我は強運だな」

「流石ですね!ゆりかさん!」


ゆりかと理沙がハイタッチをすると、男たちが「くっ!」と悔しそうな声をする。

その状況を観戦していた永遠が苦い顔をしていた。


「2回連続で6を2回出す確率は36分の1。これ、イカサマダイスVSイカサマダイスですね。というか和ちゃんがイカサマダイスを持っているわけが……。持っていそうなのは手品が得意な……」

「え?」

「いや、なんでも。ただ、これだと西軍チームは負けますね……」

「ハンデがあるもんね」


永遠は西軍チームがこの状況で勝つ方法は既に頭に浮かんでいる。

ただ、それを理沙か和に伝えても良いだろうか、そもそも彼女らにそれが出来るだろうか?という疑問がある。

楓と一緒にサイコロ勝負がどう動くのか、もうしばらく観戦に徹した。


「じゃあ、次行くぜ」


DQNの1人がそう言ってサイコロを振ると、試合は硬直状態になる。

『6』、『6』、『6』と5連続で不正している証拠が山ほど出てくる。


「あれ?これ、我ら負けじゃないか?」

「引き分けたら負けなんだから……、負けじゃないですか!」

「…………」


ゆりかと理沙がようやく追い詰められたことに気付く。

当然理沙が出した数も『6』。

和が出す数字もまた『6』なのがほぼ決まっていた。


「確かになー」

「俺らの勝ちじゃん」

「やりぃ!どうだ?ときめいた?デートする?お持ち帰りされる?」

「いやいや。結果ってのはやってみなきゃわからんですよ」


和がサイコロを振るために落とした時だった。

何者かが乱入してシュッとサイコロを取っていった。


「あ、秀頼先輩」

「なんだよ、てめぇ!?さっきまでいた男じゃねーか!」

「だから和が秀頼って呼んだじゃん」

「いや、知らねぇよ。てか割り込むんじゃねーよ」


男たちが来た瞬間から悪意を持って彼女らをニヤニヤ見ていたのは気付いていた。

だから秀頼がトイレに行く振りをして隠れた時に露骨に近付いた時には「やはりか……」と呟いてため息を吐いていた。


「俺の彼女にナンパしてんじゃねぇよ。平和を壊そうとしやがって」

「ちょいちょい、待てや待てや。ならお前の彼女だけには手を出さない。誰と付き合っているんや」

「あそこで寝てる女以外全員」

「全員!?」

「お前、それ浮気やないか!?」

「他の子と付き合っているのを隠しているなら浮気だが、公言してるなら浮気じゃないだろ」

「ファッ!?」


堂々とした秀頼の開き直りの浮気理論に、DQN3人組は目が点になるほど言葉を失う。


「サイコロゲーム。和の変わりに俺が振ってやる。俺が負けたら全員お持ち帰りの権利をやるよ」

「良いぜ。なら振れよ」

「お前が勝てるわけねーじゃん」

「ほいっ」


秀頼がサイコロを地面に落とした時だった。

試合を観戦している全員が秀頼のサイコロに釘付けになった。

その結果に男のリーダーは「なっ……」とたじろぐ。


「サイコロが割れて……『7』だと!?」


秀頼が落としたサイコロが半分に割れて必ず『6』の目になるイカサマダイスと、その裏にある『1』の目が隣にちょこんと置かれていた。


「わりぃな。和が振ったサイコロをキャッチした時に『バキッ』って壊しといたんだ。合計18対19。俺たちチームの勝ちだ。じゃあ、大人しくキャンプして迷惑かけないようにしてください」

「がっ……」

「馬鹿な……」

「サイコロを壊すなんて……」


秀頼の言葉を受けて崩れ落ちる3人。

「敗因はイカサマダイスを使っただけで満足したからだ」と忠告を受けた。


「一応、ときめきましたよ秀頼先輩!まさかサイコロを割るなんて勝利条件があったなんて知らなかったっすよ!」

「一応ってなんだよ!?一応ってよ」

「まあまあ。私含め、みんな秀頼先輩が勝つってわかってましたから」

「本当かよ……」


秀頼が和の言い分を聞きながら、理沙の安心した顔が見れて一安心する。

永遠からも「やっぱり秀頼さんなら勝利条件がわかってましたね!」と拍手を送られる。


「ありがとうっすね、先輩」

「思ってねー癖によ」

「それは心外っすよ」


和はいつも通り飄々としながら秀頼の軽口に答えた。

口ではこんな態度を取っているが、彼女の本音は全く違うものであった。


(秀頼先輩なら助けてくれるってわかってましたよ)


『良いんです。それに私たちが負けたら──、秀頼先輩がどんな風に助けてときめかせてくれるか楽しみじゃないですか』

ゲーム開始前、こんなことを理沙に言おうとしていた和は、彼をこんな風に信頼していたのだから。


「秀頼先輩、好きっすよ」

「お、おう……」


真っ向からの和の好意に、秀頼は照れくさそうに頬をかいていた。

秀頼もそんな小悪魔な和が大好きであった。

バーベキュー編、完結。


次回、タケルの秀頼も理沙のいない日常で出会うのは……?

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