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50、佐々木絵美は胸を借りる

「ゴールデンウィーク、なんかしたいですね!」


彼女たち全員が、マスターが店長を務めるサンクチュアリ。

その中で俺はエスプレッソを飲みながら絵美と雑談をしていた時であった。

理沙がやや大きい声を出してみんなの注目を集めていた。


「なんかしたいとは?」

「なんでも良いですよ!来年は受験とか就職とか忙しいかもしれません。だからこそこのメンバーで何か思い出が作りたいです」


理沙の提案に『なるほどなぁ』と納得させられる。

受験か就職かぁ……。

考えてなかったから、脳に直接蛇口から噴き出す冷水を滝行のように喰らった気分になる。

変に鬱になる。


「…………」


ただ、まぁ……。

理沙がみんなを親友と見ていてくれて良い子だなぁと嬉しい感動を覚える。


「このメンバーにマスター入るか?」

「だから入らないっての……。ゴールデンウィークは稼ぎ時で定休日の水曜日もバリバリ営業するっての」

「そうか……。ウチは残念だ」

「相変わらずファザコンだなお前……」


中学時代のプールとは違い、今回は本当に伏さんかを表明するマスター。

父親の表明を本気でしょげた咲夜が、バイト店員のヨルからファザコンと指摘されていた。

そんな気は薄々していたが、やはり咲夜はファザコンのようだ。


「そんなわけで何か案を募りたいです。絵美さん、何か無いですか!?」

「わたし?そうだねー……。秀頼君とラブホに行きたいです」

「ラブっ!?」

「却下です」

「(/´△`.\)」


絵美が泣きそうな目になり崩れ落ちる。

相変わらずのピンク頭であるが、それくらい俺が求められていると無下に出来ないし、むしろ愛おしい。

絵美に胸を貸しながら泣きたい時に泣かせておいた。

その間に頭をそっとさわさわと撫でると、ちょっとずつ動くツインテールが可愛らしかった。


「じゃあ、咲夜さんの意見は!?」

「ウチはインドアに家に籠っていたい。だからウチの部屋」

「全員も入れません。却下です」

「((((;゜Д゜)))」


狼狽えた咲夜が「ウチの部屋15人程度なら入れるよな……?」と震えた声でマスターに尋ねるが「キャパ8人くらいじゃない?」と答えられて崩れ落ちた。

空になったコーヒーカップを握りながら、チーンという効果音が鳴りそうなほどに白くなっていた。


「では、碧さんの意見は!?」

「わ、わ、わ、わ、私ごときが皆さんと一緒することなど……。烏滸がましいです!」

「案はないということですね」

「私も連れて行ってくれるんですかぁ……。感激です……!」


1人女泣きをして、よくわからないことに感動をして打ち震えている島咲さん。

純粋なボッチな咲夜とは違い、友達欲しい系ボッチな彼女はこの状況を喜んでいるようだ。

絵美の頭を撫でながら、島咲さんも楽しめることがしたいなぁとゴールデンウィークに思いを馳せる。


「楓さんの意見はありますか?」

「私は大学2年生だから、来年も遊べるよ」

「では、来年に話を聞きます」

「今年の意見も聞いて!?秀頼くーん、理沙ちゃんつめたーい!」

「真面目なんですよ彼女。しっかりしていて頼りたくなりますよね!」

「私の方が年上なんだから私にも頼って!」

「頼りますよ。あなたがいると心強いです」


そうやって楓さんへの信頼を口にすると、目をパチパチとまばたきをする。

短い黒髪の前髪を弄りだすと、甘い声を絞り出す。


「秀頼くぅん、お姉さんとラブホ行きましょ!?」

「ら、ら、ら、ラブホっ!?」

「本音が出てます!だからダメですってばっ!」


理沙からの制止に赤い顔をしながら困惑気味な楓さん。

「私も彼氏と一線越えたいのに……」とボソッと呟いて、チビチビと緑茶を飲んでいた。


「…………わたしと同じ意見なのに、わたしより楓さんの方が動揺が大きかった……」

「絵美から言われるのは覚悟しているからだよ。もうちょっと大きくなったら望むことなんでもするからな」

「好き!好き!好き!好き!すきぃぃぃぃぃぃぃぃ!」

「俺も好きだよ絵美」

「ズルいですわ秀頼様!美鈴も好きって言ってください!」

「美鈴も好きだよ。君の積極性でいつも俺の胸は満たされるよ」

「秀頼、わたくしにも」

「だーっ!本筋から外れないでくださいっ!私だって言われたいんですから!」


理沙の大きい手の叩く音で、美月は口を尖らせていた。

美鈴は嬉しそうに手をグッとして喜んでいるようだ。


「永遠さん、ビシッと真面目な意見ください!」

「ならば、みんなで勉強合宿なんかどうですか!?宿題を持ち寄ってワイワイ勉強しましょう!夜はみんなで予習会ですっ!」

「真面目のベクトルが全然違います……」

「ウチ、永遠と勉強しょっちゅうしてる……」

「大学生の勉強、君たちわからないでしょ」

「センスがないわ」

「相変わらずの勉強好きだが、それは無いだろ永遠」

「は?」

「勉強したい奴いる!?いねえよなぁ!?」

「却下意見多いので却下です」

「そ、そんなにみんなして否定することないじゃないですか……๐·°(৹˃ᗝ˂৹)°·๐」


三島、咲夜、楓さん、円、美月、ゆりか、ヨル、理沙と次々の非難により勉強大好きな元・鳥籠の少女は涙目になった。


「秀頼さぁぁぁん!みんなが虐めまーす!」

「あ、わたしが胸借りてるので背中に行ってください」

「絵美も虐めますぅぅぅ!」

「こらこら喧嘩しない。10人以上と付き合っている俺が2人にすら胸を貸せないわけないだろ。エイエンちゃんも胸に飛んできて」

「大好き秀頼さぁぁん!」

「俺と2人きりで勉強しよっ!」

「夜のベッドで勉強しましょおぉぉぉぉ!」


右手で永遠ちゃん、左手で絵美を胸で泣いている2人の頭を撫でていた。

夜のベッドで勉強したとして、消しゴムのカスをベッドに捨てたくないなぁと思ったので、近くにゴミ箱を設置しておきたいところである。


「星子さん!星子さんは!?」

「そもそもスケジュールが空くかな……。1日くらいならなんとか出来るかも……」

「忙しかったね!大丈夫、考慮しますよ!?」

「置いて行かないでくださいね……」

「私が星子さんも、スターチャイルドも置いて行くわけないですから!」


完全に星子の事情を忘れていた理沙が星子のフォローに入っていた。

星子がずっと黙っていた理由が、置いて行かれる可能性も考慮していたらしいのが伝わってきた。


「美月さんの意見はー…………、心霊スポットになりそうなので却下ですね」

「まだ何も言ってないが!?」

「和さん、何かありますか?」

「バーベキュー」

「あんたが真面目なこと言うのかい」

「ボクもバーベキュー考えてました」


円の至極当然な意見で突っ込まれたが、三島も賛同していた。

この流れで美鈴が「バーベキュー、したことありません!やってみたいです!」と後押しする。

「バーベキューなら1日で終わるよね!?最高じゃないですか!」と星子も賛同を示す。


「では、ゴールデンウィークはどこかでバーベキューにしましょう!」


こうして、理沙も納得してゴールデンウィークの彼女たちとの予定も埋まったのであった。

楽しそうな予定が組まれて、俄然やる気も上がるのであった。


「移動手段はどうしましょうか?」

「一応、私は免許あるからレンタカーなら運転出来るよ」

「レンタカーよりも電車で行った方が安いですね。そんなに人乗らないですし……」


レンタカーの相場を理沙がスマホで検索し、そのスマホを覗き見たゆりかとヨルが「たかっ!?」と口を揃えてハモる。

学生だし、金無いのは仕方ないよな……。


「でも電車だとバーベキューの機材持ち運べなくない?」

「円さんの言う通りですねー……。どうしましょう?」

「あ、美鈴思い付きましたわ!悠久先生にバーベキューの機材の持ち運びを車で依頼したらどうでしょうか!?」

「良いじゃん!悠久なら確かそういう機材揃えてるしな!なんなら悠久なら食材も揃えられるしな。どうせ暇だろあいつ」


保護者である悠久を利用しまくるヨルの手腕は流石である。

こうして次々とバーベキューの話し合いが進んで行く。


「あと、いつまで絵美さんと永遠さんは秀頼さんの胸を借りてるんですか!とっくに泣き止んでいるでしょ!?」

「あー!わたしと秀頼君を離さないでぇー!」

「秀頼さぁーん、夜のお勉強してぇー!」


理沙に無理矢理剥がされる2人を助けようとすると、彼女から細い目で脅され手が出せなくなった。

「話し合いに混ざりますよ」と言われ、絵美と永遠ちゃんは理沙と円に引っ張られていった。


「秀頼君。君は色々大変だなぁ」

「いえ。好きでやっていることなんで」

「そうなんだ。……本当に全員を幸せにする勢いで凄いね。女性関連のことは本気で感心するよ」

「褒めてる?」

「褒めてる」


マスターからはよくわからない褒め言葉を受け取った。

さて、俺もみんなとバーベキューの予定を話し合うために輪へと交ざっていった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 夜のベッドで勉強したとして、消しゴムのカスを ベッドに捨てたくないなぁと思ったので、 近くにゴミ箱を設置しておきたいところである。 違う違うそうじゃ♪そうじゃなぁ〜い♪ 変なところ…
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