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48、赤坂乙葉は気付いていた

「キタミツ商事は、契約打ち切った方が利益上がるっすよ!?あそこ、赤字商品ばっか押し付けてきて常連ですーってツラしてやがる。現場からも『やりたくない』とか『くたばれ』って意見多いっすよー」

「切れるわけないだろ!?メチャクチャ大手なんだからさー」

「大手だからで思考停止して取引するのだせぇすよ柴田さん」


横断歩道の信号待ちをしていると、スーツを着たパンチパーマな若者が饒舌にベラベラと喋りまくっていた。

隣には小太りな白髪頭のおじさんが額の汗を拭いながら若者の言葉に詰まっていた。

正直、俺にはどっちが正しいかとか、間違っているとかは知らないし興味もない。


「通行人とか辺りにいるけどどう?」

「この人数なら全員ぶんの思考を遮断できました。意識しないとギフトを使ってしまいそうですけど、ギフトの流しかたは身に付きました」

「へぇ……、5人程度なら余裕か」

「最低限、部活に出席して全員ぶんの思考を読み取れないくらいにはコントロールしたいですね……」


信号機が青くなると営業サラリーマン2人組は早歩きで横断歩道を渡り出す。

普通に歩いている俺たちはすぐに追い抜かれた。

走れば余裕で俺が抜かせる程度のスピードではある。


「因みにさっきのサラリーマンの柴田さんも、話題になってた取引先が嫌いだって」

「読んでるじゃん!?」

「つい本心知りたくなっちゃって」

「普通の人はそんなこと出来ないんだから、極力ギフトは使わずにね?」

「はーい」

「本当にわかってるの乙葉ちゃん?」

「…………」


今回みたいに本心が知りたいからとかの理由でギフトを使っていそうだなと察して、心の中でため息を吐く。

本人も罰が悪そうな表情で苦い表情を浮かべている。

まぁ、信じるしかないか……。

三島の『エナジードレイン』みたいに、他人を無差別に襲うギフトじゃないだけ無理に釘を刺す必要もないか……。

(甘いんじゃねぇか?甘ちゃんだ!あんこ野郎!)と中の人がいちいち吠えてきたが、(うるせぇ!)と念を送ると、(なんで俺にだけ甘くないんだよ!?)と憤慨している。


「ところで、いつまで乙葉ちゃんなんですか?」

「え?」

「文芸部の1年生で私だけちゃん付けなのはちょっと不本意です」


星子、和、五月雨、アヤ氏。

確かに乙葉ちゃんだけちゃん付けである。


「な、なら……赤坂」

「なんで今更名字になるんですか!?仲が悪くなったみたいに思われるでしょ!?」


力説すると、ビシッと指をさす乙葉ちゃん。


「乙葉です。乙葉で良いですよ」

「わ、わかった……。乙葉、な。乙葉。……乙葉か……」

「なんの3段階活用ですか!?」

「3段階活用なってるかこれ……?」


ぷりぷりと小さい身体で大きい声を張りながら不本意とばかりに怒っている。

可愛らしい肉体にミニ悪魔が潜んでいそうだ……。


「その変わり、私は明智先輩の……」

「名前で呼んでくれるのか?」

「呼ぶわけないでしょ!?」

「呼ぶわけないのか……」

「先輩を名前で呼んで友達に噂とかされると恥ずかしいし」

「どこの幼馴染なんだよ……」


俺の乙葉からの好感度は地に付きそうな程度しかないのが伝わった。


「私が言いたかったのは、明智先輩の相談役になりますよ」

「は?」

「私に隠し事は通じませんよ。あなた、複数人と女と付き合ってないですか?」

「…………」


ギク、ギクゥゥ!?

そ、そりゃあ数人の子とは恋人になってる。

まさか、乙葉にそんなことを突き付けられるなんて想像すらしてなかった……。

基本的に複数人と付き合っているのを知っているのは当人らか、タケル、マスター、達裄さん、千姫、山本、悠久とごく少数だったはずなのに……。


「明智先輩……」


小さい後輩から責められるようにジトーッとした目で見つめられる。


「文芸部の先輩たちの心の声が聞こえてきましたよ?永遠先輩とか絵美先輩、円先輩などあなたを彼氏と思い込んでいるみたいですが?」

「俺が彼氏です!彼女ら全員、俺の彼女ですっ!」

「うわっ、ヤリチンだ……」

「やってない!やってないから!」

「やってようが、やってないだろうが関係ないんです。浮気はダメなんです!女の子を泣かせちゃいかんですよ!」

「浮気なんかしてない」


浮気はしていない。

それは本当であると同時に、全員が本命という事実を告げられない自分がいる。

そもそも信じてくれないだろう。


「だまらっしゃい!そんなゆーじゅーふだんなこと言ってダメ!優柔不断ですよ!『優』の字を『やさしい』って書くからと言って許されるのはフィクションだけなんですよ!?」

「わ、わかった!わかったからぁ!」

「そういうわけで、明智先輩への恩を返すためにアドバイスや相談役を買って出ます」

「は、はぁ……」


いらねぇー……。


「ギフトを使ってなくても『要らねー』って考えてましたね」

「いや、『いらねぇー……』って」

「誤差ですよ、誤差。はぁ、私がしっかりして明智先輩の性根を叩き直さないと」


「ふんすっ!」と鼻息を荒くしながら、やる気満々とばかりに乙葉は気合いを入れている。

弱ったなぁ……。


「私は明智先輩にころっと恋愛感情が芽生えるような安い女ではありませんからねっ!」

「おい」

「な、何怒ってるんですか」


今の言葉は聞き捨てならなくて、低い声で割り込んでしまった。

熱くなりすぎた自分に気付き、深呼吸をする。

「はぁ」と、新鮮な空気を体内に入れてから怒った理由を語った。


「まるで俺と付き合っている子が安い女みたいなニュアンスを喋るのはやめろ。俺は安い男だが、俺の付き合っている子に安い女はいないから」

「…………」

「なんだよ、目を丸くして?」

「あぁ、いや、ごめんなさい……。発言を訂正します……。許してください」

「そこまで怒ってはないけど……」


『私は明智先輩にころっと恋愛感情が芽生えるような安い女ではありませんからねっ!』という言葉だけは取り消せたようで何よりである。

みんなは俺にはもったいないほどに素晴らしい子しかいないのをわかって欲しかったのだ。


「と、とにかく!恋愛アドバイザーとして赤坂乙葉が協力しますからっ!」

「よ、よろしくお願いいたします……」

「す、素直にそう言えば良いのです……」


照れくさそうな声をして、下を俯く乙葉。

そんな会話をしていてクォクォスが見えてきた時だった。


『やっほー』


女性のそんな声がクォクォスの入り口から聞こえた。

幻聴なのか、誰かに向けた言葉なのかと、背筋を伸ばして店の入り口に視線を向けた時だ。


『あ、気付いた!やっぱり秀頼だ!やっほー』

『やっほー(棒読み)』

「…………」

「……誰ですかあれ?」

「……クラスメート」


アリアが大きく手を振ってきて、アイリーンなんとかさんが真顔で突っ立っていた。

え?金持ちって庶民の外食の味方であるファミレスのクォクォスに来るの!?と変な意味でま頭が真っ白になっていた。

あれ?

でも原作だとヨルのバイト先に足を運ぶシーンもあったし、庶民の店にも来るっちゃ来るのかもしれない。


「偶然だねー、秀頼」

「偶然だなー、明智秀頼」

「ぐ、偶然なのかな?俺?」

「知りませんよ。私に聞かないでください。というか、今は使ってないですから」


こないだまでの常時ギフトが発動状態だった乙葉から偶然か必然かはわかっていたはずだが、今回はギフトを使わずに行くらしい。


「使ってないとは?」

「あ、いえ!こちらの話ですっ!」


普通にコソコソ話をアリアに聞かれてしまい、復唱された時は誤魔化すような愛想笑いでその場を凌ぐ乙葉。

嫌な予感がするなぁと確信した時にはアリアから「偶然も運命だし4人でフォフォスに行きましょう!」と促してきた。


「アリア、フォフォスじゃない。カァカァスだぞ」

「いえ、クォクォスです……」

「…………」


店の名前もよくわかっていない姉妹を見て、偶然じゃねーやと気付いたが時既に遅し。

乙葉はアリアたちに着いていき、入店してしまったのである。

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