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43、五月雨茜は食べまくる

「ええぇぇぇ!?デカ盛りメニュー作るんですか!?」

「はい!腕によりをかけて作ります!それに見てください!両親からじゃがいもがわんさか送られてきました」


理沙が満面な笑顔で大きめの段ボールを開ける。

すると、蓋直前までじゃがいもがごろりと詰め込まれている。

マンション6階まで運んできた配達員さんが不憫である。


「段ボールいっぱいにじゃがいもが……」

「君らの両親、仕送り量異常だよね……」

「余ったら絵美さんや皆さんにもプレゼントします」

「この1食で失くすって相当だよ……?でも、ありがとう。えー、何作ろうかなー?」

「え!?じゃがいもいただけるんですか!?わぁ、ありがとうございます!」


絵美と五月雨がじゃがいもの段ボールを輝いた目で見つめていた。

俺もおばさんにじゃがいもをあげたら喜ばれるだろうか。

5個程度くらいは俺もお持ち帰りしようかなとじゃがいもの箱を眺める。


「茜ちゃん、料理得意なの?」

「いえ。ただ、こないだゆりか先輩からヨル先輩が料理メインのバイトをしていると聞いたので作ってもらおうと……」

「え?他力本願……」


乙葉ちゃんが声優さんの素の声に近いトーンで呟いた。

それくらいに衝撃や、ガッカリ感が強かったようだ。

か弱い五月雨茜はどこまで行ってもか弱いのだ。


「さて、ではみんなにお昼のデカ盛りメニュー作ります!」

「あ、わたしも食が細いので作る側になります。理沙ちゃんと共同で大きい料理するの楽しみー」


そう言って、理沙と絵美が段ボールを持って厨房へ消えていく。

こうして、居間には俺、タケル、乙葉ちゃん、五月雨が残る。

「なんか料理できるまで暇だなー」と口に出して、スマホでインスタを開いていると、タケルから「4人でスマブラすっか」とコントローラーを渡された。


「流石十文字先輩ですね。たくさんコントローラーありますね」

「あぁ。何年か前に両親から遊べって段ボールいっぱいにゲームのコントローラーを詰められて送られてきたんだよ」

「どんな両親なんだよ!?ねぇ乙葉ちゃん、タケルの親ってどんな人!?」

「あー……、真面目系ワイルドですかね」

「………………」


真面目系ワイルド……?

どんな人物なんだよと頭をモヤモヤさせる。

ワイルド系の父だとすると、無人島生活をなんなくこなす前世の両親父思い出す。

流石にそれはタケルの両親に失礼か。

規格外なあの人と比べるのがおかしいって話だな!


「確かにウチの親は真面目だけどワイルド入ってるよなー。なんとなく秀頼みたいなんだよ」

「話大好きでうずうずしているところ、おばさんに似てますよね」

「わかるー、それよ」


タケルと乙葉ちゃんは笑いながら頷き合っていた。

なんで俺がタケルの母ちゃんと似てるんだよ……と複雑な心境になりながらスマブラ4人プレイをはじめた。

接待プレイな意味も込めて、普段は使わないキャラクターで戦闘を開始した。

操作方法がよくわかってない五月雨が真っ先に脱落、彼女と五十歩百歩な実力の乙葉ちゃんがそれからすぐに脱落。

タケルのガチキャラ対俺の接待プレイは、タケルの最大火力コンボでぶっ飛ばされた。

大人げないと後輩から冷めた視線で見られていたので、スマブラはやめようという流れになり、理沙が録画したという3時間スペシャルの音楽番組を楽しんでいたのであった。

スマブラより、よっぽど平和である。







─────







「出来ましたー、ジャンボカレーライスです!」


理沙が笑顔で大皿に乗せたカレーライスを持ってきた。

本当にテレビや動画配信サイトみたいなでしか拝めない大盛りメニューを作り込んできたようだ……。

というか、今まで映像で見てきたどの料理よりもキングサイズである。


「みんなでシェアしようということでこんなサイズになりましたよ」

「わたしと理沙ちゃんの自信作です!あとはじゃがバターとかも用意してます」

「露骨なじゃがいも推しだな……」


カレーもじゃがバターも芋たっぷりである。

男の夢が詰まった2品である。


「理沙お姉ちゃんも絵美先輩も凄いです!」

「見てるだけで自分幸せです!」

「理沙の手料理!毎日俺は幸せ者だっ!」

「絵美と理沙の共同料理!俺は夢でも見ているのかってくらいに感激しているっ!」

「うふふふ、みんなお腹いっぱい食べてね」

「じゃあ手を合わせて……」


理沙の一言を終えて、全員で『いただきます!』と居間中に声が響き渡る。

最初に盛り付け用のシェアスプーンを手にした五月雨が「うはぁぁ!」とスタチャを前にしたスタチャファンのような黄色い声を上げた。


「うーん!とっても美味しいです!なっっちゃんが欲しくなります!」

「なっっちゃんありますよ。いかがですか茜さん?」

「本当ですか!?」


相変わらず「クュゥー!」と目を(*≧∀≦*)こんな風にしている五月雨後輩である。


「凄いうめぇ……。しかも、カレールー市販じゃない感じ?ルーにめっちゃ凝ってるね!」

「流石秀頼君ですね!わたし、最近スパイスからカレー作るのに凝ってましてね。理沙ちゃんのキッチンに色々なスパイスが置いてあって楽しかったよ」

「親がたくさん送ってきて」

「わかったって」


十文字家の両親、ドラ●もん説あるで。


「くどくならないように今回は味付けを市販より薄くしているんですよ」

「流石絵美ちゃんやで……。その気づかいが嫁になった時楽しみだよ」

「も、も、もう!秀頼君ったらぁ!好きっ!」

「こ、こういう人前は恥ずかしいからやめてくれ……」

「秀頼君からはじめたんじゃん!」


左に座る絵美から照れるように背中を叩かれる。

そのついでとばかりに右に座るタケルから無言で背中をバシンバシンと強く背中を叩かれてイラッとした。


「うん!うまい!うまい!うまいですっ!」

「茜ちゃん、凄すぎない!?」

「美味しいのはいくらでも食べられますね!じゃがバターもうまいです!バターに凝ってますね!」

「いえ、そちらのバターはスーパーで1番安かった市販です」

「…………えー?バターうまいですよ?」

「茜ちゃん……。明智先輩の真似しなくて良いですよ……」

「ぶーっ!」


五月雨は不服だと言わんばかりに頬をプクーッと膨らませていた。

頬をツンと触って風船みたいに空気を抜きたいくらいにキュートである。


「あ!そういえば皆さんはどんなギフト持っているんですか!?聞きたいでーす!」

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」


このメンバーのギフトはみんな特殊なギフトの者が勢揃いなので、五月雨の問いに楽しく返事が出せなかった。

乙葉ちゃんがチロッ、チロッと周りの人に視線を向けている。

とりあえず、俺は中の人の高笑いフィルターを用意だけはしておく。


「そういう五月雨はどんなギフトだ?」

「よくぞ聞いてくれましたね十文字兄先輩!自分は若干人より好かれやすいギフトなんですよ」

「へぇ。人間関係を円滑にするには最高のギフトだな」

「はい!」


いや、お前のギフト嘘じゃないけど本当でもないじゃん……。

理沙以外のギフトを丸っとわかっている俺は真実がわかってしまうのも嫌な話だ。


「俺はちょっとギフトが効かないみたいなギフトだ」

「へぇ!ふんわりしてますね!」

「私は人の内面の感情がちょっとわかるみたいなギフトだよ」

「へぇ!ふんわりしてますね!」

「わたしはたまに力が強くなるギフトだよ」

「へぇ!ふんわりしてますね!」


そしてみんながマイルドな表現でギフトを教えはじめた。


「理沙ちゃんのギフトって?」

「あ……。わ、私ですか……?……たまに悪い夢を見せちゃうみたいなギフトですよ。役に経たないギフトだよね……」

「へぇ!ふんわりしてますね!」

「毎回口にしているが、理沙はあんまりこのギフトが好きじゃないんだ。広めないでくれよ」


悪い夢を見せるギフト?

悪い夢?

…………なにそのギフト?

はじめて理沙のギフトの内容を聞いたがイマイチピンとこない能力である。

原作では明かされることのない理沙のギフトは、かなり地味な印象だ。


「最後は明智先輩ですね」

「そういえば長い付き合いになりますが明智君のギフト知りませんね」

「毎回未覚醒で逃げるけど、本当はなんかギフト使えるだろ?」

「は、はは……。そ、そうだね……」


中の人が(ひゃははは!)と笑っているのを確認する。

俺のギフトねぇ……。

ちょっとだけギフトの内容を知っている絵美だけが特に何も言わない。

だが、そろそろ限界なのかなと思う。

息を吐いて、意を決したように口を開く。


「て、手品のギフトだよ」

「手品?」

「手品のギフトって、お前の手品は全部ギフトか!?」

「いや、ギフトを使わない手品とギフトを使った手品が出来る。手品大好きな俺が神様にもらった凄いギフトだろ」

「ギフト使わないで手品出来るなら、ギフト意味ないのでは?」

「…………ごもっとも」


手品のギフトと昔から聞かされていた絵美以外からは弄られまくったギフトの話題であった……。

人の嫌がることをなんでもさせることができる『命令支配』ですなんて言えるわけがなかった……。

後ろめたい気持ちでいっぱいになるが、こればっかりは許して欲しい。

それからは『秀頼のギフト残念過ぎる』空気の中、カレーとじゃがバターの食事は続いていった。


「うーん!いくらでも食べられるー!」

「茜ちゃんすごっ……」

「お、俺ギブだよ……。なんだよこいつの食べっぷり……」

「さ、流石五月雨だ……」


原作でも描写されていた大食い娘・五月雨茜は全員がもう食べれないくらいに満腹になっても尚パクパクとカレーを口に詰めまくっていた。

小柄の大食いキャラクターは、こちらの世界でも衰えることはないようだ。

こうして、テレビでも見ることがないデカ盛りキングサイズのカレーのほとんどは五月雨の胃袋に消えていったのであった。

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