41、十文字理沙は捕まえる
乙葉の特訓も3日連続で続いた。
ギフト板を通してギフトの流れを意識するのが彼女には呑み込みやすかったらしい。
ギフト板と鏡があれば自力でギフトのオンオフの切り替えがある程度は可能になったようだ。
しかし、残念ながらまだ素の力ではギフトのコントロール制御は無理という段階である。
三島遥香は常に『エナジードレイン』を少量とはいえ発動し続けているが、『乙葉流読心術』は完全遮断を目指しているので乙葉の方が難しいだろう。
中々思い通りにいきそうにないようだ。
ゴールデンウィークがもう少しで始まるが、果たしてここまで間に合うのだろうか。
半日授業を終えて、カレンダーとにらめっこをしていた時だった。
ダカダカと走る音がした。
「ウィィィィーン、ガシャッ。アケチヒデヨリ、捕獲」
「片言でしゃべって何やってんだよ」
タケルが腕をUFOキャッチャーのアームの形にしながら俺を挟み込む。
形としてはまんまカイロスのハサミギロチンでも喰らった心境である。
最近は乙葉も含め、タケルの親戚と絡む日が多い。
「なぁ、秀頼。テレビでやってるデカ盛りメニューって憧れないか?」
「唐突だな。……まぁ、憧れる気持ちはわかるよ」
「やっぱりお前も大食いタレントのジャイアントが好きな口か」
「俺はギャルの方かな」
前世での小・中学生の時には大食いブームなんてものも流行ったっけなんてテレビ番組を思い出す。
動画配信サイトでも1つのジャンルになる程度には大食いは1大分野になりつつある。
「流石親友だな。秀頼のなんでも理解を示すスタンス好きだぞ」
「バカにされてる気がする……」
「バカになんてするものか!ほとんどの奴はすぐ否定から入る。その点、秀頼は気持ちよぉぉぉく話をさせてくれる」
「はぁ……」
タケルの中ですぐに否定から入るのがトラウマになっているらしい。
身振り手振りを交えながらタケルはやたら強く力説を披露していた。
さながら劇団員のようにオーバーリアクションである。
「んで、そのデカ盛りメニューがどうしたんだよ?」
「家でやるつもりだ。デカ盛りメニュー」
「おつかれー」
「まてぇ!帰るなぁー!」
「これいつかにやったよな!?またわんこラーメンの流れだろ!?半日授業の終わりってシチュエーションが同じなんだって!」
「今回の理沙はデカ盛りメニューがしたいってお達しなんだ!頼む秀頼ぃぃ!」
「俺の知り合いは名前を大声で叫ぶとなんでもやってくれる人と思ってる奴ばっかりかよ……」
タケルしかり、咲夜しかり、ヨルしかり、悠久しかり。
なんでこうも斜め上の依頼ばかり俺に飛んでくる。
(モッテモテだな、主!)
中の人はけらけらと笑ってコケにしている……。
こういう時のこいつは生き甲斐のようにイキイキしているのだ。
それに俺はお前のいとこの乙葉とギフトのコントロールする特訓があるんだぞと口に出そうとして、ぐっと堪えた。
乙葉大好きタケルに『死ぬかもしれない』とか口が裂けても言えないと、心を落ち着かせる。
その時だ、別のクラスにいる彼の妹の声が廊下から響いたのだった。
「あっ、見て見て兄さん!じゃじゃーん、乙葉を捕まえましたよー!」
「あ、タケルお兄ちゃんだ」
「なんでだよ!?」
「あ、いたんですか明智先輩……」
「タケルお兄ちゃんとの露骨な差別がキツイ」
「俺と乙葉の絆舐めんなよ」
好感度に差があって当たり前だとタケルからのお達しであった。
流石、ギャルゲー主人公だ。
ヒロインの好感度がバグのように高い。
嫌われ者なギャルゲーの親友役は好感度がアビス並みである。
「あとですね、乙葉の友達さんも連れてきましたよ」
「よろしくっす先輩!理沙先輩から遊びに来てと自分もお呼ばれされました!」
「お前かい」
ギフト狩りの渦中にいるか弱い生き物であるオッドアイ娘の五月雨茜が礼儀正しくペコッとお辞儀をしていた。
ギフト狩りは案外暇なのかもしれない。
「なんか珍しいメンツが揃ったな」
タケルの呟きに反応し、俺も周囲の人物を確認する。
俺、タケル、理沙、乙葉、五月雨。
珍しいっちゃ珍しい組み合わせかもしれない。
そんな風にタケルの意見を肯定すると、近くに絵美が通りかかる。
「なんか今日はいっぱい揃ってるね」
「絵美さんだ!絵美さんも混ざりませんか?」
「よくわかんないけどいいよ!」
前回のわんこラーメン未遂事件の悲劇なんか忘れた絵美も追加で参加が決まった。
遊びに行くメンバーだと勘違いしているだろうな……。
(生け贄が増えたな……)
生け贄とか言うな中の人よ……。
ただでさえ、原作の絵美の役割が秀頼の生け贄というだけで全部の説明になる女なんだから。
こうして6人の犠牲者……ではなく勇者が集まったのである。
「これからどこに行くの?この大人数だと色々出来そうだね!」
「カラオケですか!?自分カラオケ行ったことないのでワクワクです!」
「五月雨が行きたいだけじゃん」
「なっっちゃんが飲めるドリンクバーだと嬉しいです!」
「ちっちっちー。違いますよ皆さん!」
絵美と五月雨は単に遊びに行くと勘違いしているようである。
それを理沙が遮っていた。
そんな彼女を一歩引いた目で見ているタケルと、『乙葉流読心術』のギフトで理沙の頭の中身を覗いている乙葉は訳知りという態度で立っていた。
「残念だが特訓はお預けだな」
「仕方ないですね。理沙お姉ちゃんの数少ないワガママに付き合いましょうか……」
「よくあるのか?」
「理沙お姉ちゃんは食べ物を使って企画するの大好きなんですよ。今回はデカ盛りメニューを作りたいから食べさせたいらしいです」
「自分で食べたら?」
「理沙お姉ちゃん、草食なんですよ。あんまり食べられないんです……」
そうか。
理沙はあんまり食べられない系女子だったのか。
胸ばかり成長していて、完全に栄養が行き渡ってしまっているのを痛感してしまった。
その5分の1でも絵美にも……。
(まないたー)
まな板とか言ってやるな中の人よ……。
絵美のことは暖かい目で見てあげよう。
「暖かい目ー」
「なんか秀頼君の視線が不快です」
「なんで!?」
「なんとなくですがイラっときました」
「なんとなくでイラっとこないで!?」
と、突っ込んではいるが十中八九今のは俺が悪かっただろう。
ごめんな、絵美……。
大好きだよ。
俺はずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっと小さいままの君が好きだ。
頭を撫でる時もちょうど絵美の高さがちょうど良い高さなんだ。
これだけは絵美の特権なんだぜ、と想いを込めた視線を送る。
「カラオケはまた別の機会にします」
「そ、そんなぁー……。しょぼーん(o´・ω・`o)」
「でも、がっかりしないでください五月雨さん」
「ん?」
「美味しいランチにしましょう!」
「する!する!ランチします!」
無邪気な五月雨が理沙の意見に大賛成とばかりにぐいぐいとアピールし喜んでいた。
「わーい」と飛びはねながら喜んでいる。
「…………本当にあの子はギフト狩りなんですか?」
「そのはずなんだけど……。心ではなんて?」
「(わーい!わーい!ランチ何かなー!)って純度のはしゃぎ100パーセントですね」
「ある意味でギフト狩りとバレにくい最高の人材なのかもしれないな……」
「アホの子なのかもしれませんね……」
咲夜、ゆりか、ヨルに続くポンコツ系女子の候補かもしれない。
「なるほど、ランチですか」
「じ、自分あんまりお金ないんですけど」
「それは大丈夫です。私と兄さんの奢りです!」
「ん?」
「えぇ!?奢りで良いんですかぁ!?」
絵美の疑う顔。
五月雨の歓喜の顔。
理沙のドヤ顔。
3人が十人十色な反応を示す。
「はい!これから、私たちの家で食事しましょう!」
「あ、じゃあおつかれー」
「絵美さん!大丈夫!大丈夫だから!わんこラーメンしませんからぁ!」
「また……、また空腹地獄が……」
「もうしませんったら……。ほら、行きますよ」
逃げだそうとした絵美も既に遅し。
理沙にロックオンされた絵美はじたばたしても拘束から逃れることが出来ないのであった。
こんな経緯で久し振りに十文字宅にお邪魔することになるのであった……。




