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37、上松ゆりかはギフトを使えない

ヨルは自分のスマホをスピーカーモードにして3人全員に通話の内容が聴こえる設定にする。

スピーカーモードになったスマホへ五月雨茜が懸命な訴えを投げ掛け、宮村永遠は頷きながら返事をしていく。

「なるほど……」と理解したり、「えっ!?」とヨルやゆりかの奇怪な発言に驚いたりしていた。


「そんなわけだ永遠。あたしは別になんともはいんだが五月雨が暴れている」

「自分がチキンハートみたいなレッテル貼らないでくださいよ!?」

「いや、五月雨はギザギザチキンハートだな」

「子守唄じゃないんだから」

「こんな感じに弄られるんです宮村先輩!」

『あ、子供たちがレクイエムを歌っていますね。オペラ調です』

「こぇぇぇぇぇぇ!?」

『鬼鴉毒虚死無卍亡村のバトルホテルで甲冑に襲われるよりは怖くないですが、ヤバい状況なのは間違いないですよあなたたち。というかまずは部屋を出なさい』


永遠のアドバイス通り茜は走りながら部屋の出入口の扉に向かっていく。

施錠は元々していなかったので開けようとノブを捻る。


「……あれ?ま、まわらないんですけど?」


ガチャガチャとすらならない。

まるで誰かがドアノブを必死に抑えているような感覚に茜は必死になり力を入れる。


「うおぉぉぉぉ!右手握力15キロ女子舐めんなやぁぁぁぁ!」

『え?自信満々に言ってるけど茜ちゃんの握力弱くない?』

「弱いな……」

「開かないんですけどぉ……」


体育会系ではない永遠ですら茜の弱っちい握力の値に驚いたりもしたが、よくよく考えればギフトを使わない絵美も確かその辺の値だったのを3人は思い出した。


「じゃあ五月雨、ギフト使ったら?」

「自分のギフト、今は何の役にも立たないんですけど……」

「ゆりかのギフトでもぶっぱなしてみたら?」

「ドアの修理費がヨルか五月雨持ちで良いなら」

「パス」

「パスです」

「なら最終手段だな」


この2人が『ドアを壊したのがゆりかの仕業!』という図が余裕で浮かんだので、ゆりかはギフトの使用を諦めた。

それから握力35キロのゆりか、握力42のヨルの2人が扉を開けようとしたがやはりノブがまわることはなかった。


「うーん。ダメだな。次、永遠の番な」

「永遠この場に居ないだろ。それに確か永遠の握力は32キロだ。お前で無理なら無理だよ。永遠を連れて来ても犠牲者が増えるだけだ」

「え?自分の握力2倍にしても宮村先輩に負けるの……?」

『というか私が扉を開けたと同時に3人が脱出すれば良いのでは?』

「それだ永遠!早速来てくれ!」

『私、今は咲夜の勉強の家庭教師してるから行けませんよ』

『うむ。ウチが永遠自作テストで100点取れるまで部屋から出さないときたものだ。あと、ウチの握力21キロだ』

『あ、咲夜は無駄な雑談ダメね。ゆりかたちにテストの答え聞きかねないから』

「お前ずっと居たのかよ。てか我らは別に頭良くないから答え聞いてもわからないぞ」


一切会話に混ざってこなかった咲夜に驚きつつ、4人がこの状況の打破に悩ませる。


「あ、2階の窓なのにまた人影が出てきた」

「ずっと使ってなさそうな部屋だからあいつらも暇だったんだな……」

「なんで同情してるんですか?あ、ヨル先輩にびびっているのかちらちらこちらの様子を伺ってますね」


窓から目だけ出したり、視線が集まるとひゅっと窓枠から消えていく。

ヨルの怒りの琴線に触れないか、怯える子供のようだった。


「この部屋から無事に出るにはやはり除霊ですよ!宮村先輩、除霊をお願いします!」

『無理です。知識もないのに除霊をしたら逆効果だと思いますし……。人の頼みなんか聞かないだろうし……』

「頼み……。あ!打開の方法が浮かんだ!ありがとう永遠!やはりお前は天才だ!」

『え?打開策浮かんだの?おめでとう』

「よし、とりあえず奴に連絡する。電話切るぞ、ありがとうな永遠」

『は、はぁ……』

「咲夜の勉強びしばし見てやれな!」

『はい!』

『げ……』


30分ほどの長い通話を終えて、ヨルは次なるターゲットに連絡を入れる。

次のターゲットは暇をしていたのか2コール目ですぐに電話に出た。


『もっしー?』

「お、出たな明智。今から女子寮来てくれ!」

『行く行く』

「師匠!?お前は何を出前感覚で師匠に連絡している!?」


電話口の向こうの明智秀頼は、ギャルゲーと向き合っていた。

そこで、彼がギャルゲーで1番嫌いな作業である分岐地点まで既読スキップをしていて欠伸を噛み殺しながら退屈していたのであった。

秀頼は基本、同じ文章は読まない派である。


「出前?良いな、それ。明智、じゃがりんこサラダ味買ってきてくれ。あと、コーラ」

「図々しいなお前……」

『買う買う。あとはなんかいる?』

「ダメ元だったが買うのか……。ゆりかたちはなんか飲み物いる?」

「ウーロン茶」

「なっっちゃんアップル味」

「だ、そうだ。あとは適当に明智の飲み物も買ってきていいぞ」

『はーい』


突然呼ばれることも、パシられることにも文句を言わない秀頼にゆりかは感心し、茜は不憫に思っていた。

ヨルは感謝の言葉を述べながら電話を切る。

「なんで師匠を巻き込む?」とゆりかが問うと、にたぁと悪い表情を浮かべた。






─────






「え?女子寮って男子禁止なの?」

「そりゃあ、そうよ。女子寮は女子ロッカーの認識にしてもらえるとありがたいわね」


女子寮の寮長を名乗る門番に俺はひき止められた。

こうなるくらいなら絵美でも連れて来るべきだったかと後悔する。

(ギフト使えば?)という中の人の助言をされ、最終手段はそうなるかと思いつつも、穏便にことを進めたい。


「そうなんすか……。ならヨルに『男が来たこと』と、差し入れを差し出してください」

「っっっ!?」

「なんで目を強く開いているんすか?」

「あぁ、ヨルちゃんねぇ……」


寮長さんは困ったように目を向ける。

「なんか事情があるんすか?」と尋ねてみた。


「雨漏りをしたから大きな部屋を貸したんだけどねぇ。曰く付きなのよ。1人だと怖いだろうけど3人なら安心だろうと思って貸したの。ただ、彼女らになにかトラブルがあると悪いから様子見に行ってくれるかしら。特例で君を女子寮に入れてあげるわ」

「あざーっす」


なんだ。

ヨルたちは雨漏りして部屋を追い出されたのか。

だったらじゃがりんこ以外にもきのこの大山とか、パイパイの実とか何種類かの差し入れも買ってくるべきだっただろうか。


(甘え過ぎじゃない?)


困っているなら助けたくない?と中の人に意見するも、(そんなもんなん?)とあんまり理解できないらしい。

俺の右腕が粉砕した時なんか、色んな人から見舞いが来て嬉しかったからそういうのを返していきたいと考えるのだが、確かに理解を示しられにくいのかもな。

それから寮長さんから2階の端という情報をもらい、真っ直ぐにヨルたちの部屋に向かう。


「…………。鬼鴉毒虚死無卍亡村と同じ危険な気配がする」


別に霊が見えるわけではないが、ヨルたちがいる部屋に少なくとも10人以上は誰か中にいる気配がする。


(なんか、子供たちが大合唱してるな。レクイエムってやつか)


なんか中の人は感覚が鋭いようだ。

とりあえず中に入りたくはないが、入らざるを得ないだろう。

ノックすると「入ってくれ」とヨルから指示される。

面接に来たみたいと錯覚しながら、部屋に侵入し、扉を閉めた。


「ああぁぁぁぁ!?扉を閉めたぁ!?鬼畜せんぱぁい!」

「?」


いきなり、五月雨が俺の目の前で泣き出す。

よくわからないが抱き付いて、頭を撫でて五月雨を落ち着かせて、ヨルとゆりかにヘルプを求めた。


「あぁ……。この扉、霊?が邪魔して中から開けられないんだよ。それで五月雨が師匠が来て入り口を開けた瞬間に出ると息巻いていたのだが、その狙いを阻止するように師匠が扉を閉めたのだ」

「鬼畜だなー、明智」

「心外だ……。あー……、ごめんなぁ五月雨」

「…………自分にお兄ちゃんが出来たみたいに先輩が優しくて嬉しい」


絵美や星子の頭を撫でているみたいで、可愛らしい五月雨であった。


「というか扉が開かない?そんなバカなぁ、やってみるよ」

「フラグだフラグ。明智、失敗フラグ踏みましたー」

「ん?誰か回せないように邪魔してるな。だが、力合戦じゃ負けないぜ!……ふんっ!よし、勝った」

「すげぇぇぇぇぇ!?」


ちょっと手間取ったが、普段から握力100キロ超えの達裄さんから同じようなことで虐められている俺が力比べに負けるわけがなかった。


「え?明智先輩、握力いくつですか?」

「こないだの体力テストでは84キロ」

「師匠……。その値はプロレスラーだ」

「あ、あたしの2倍強いのかよ……。へ、凹む……」


プロレスラーで80キロくらいなの?

え?

じゃあ達裄さんって何者……?


「まぁ、いつでも出れるなら安心だな。喉渇いたよ。飲み物ちょうだい明智」

「ほらコーラ。ゆりかがウーロン茶、五月雨がなっっちゃんだな」

「ありがとうございます師匠!家宝にします!」

「大袈裟」

「ありがとうございます先輩!クュゥー!」

「満足なら良かったよ」

「彼氏にするなら明智先輩が良い」

「あはは……」


相変わらず五月雨は変わった子である。

俺も自分のドリンクを飲もうとして緑茶を取り出した時だ。

背中からヨルに首をロックされて、何か耳打ちされる。


「霊に対してお前のギフトを使って成仏させてくれ」

「…………は?」

「ギフトだよギフト。『命令支配』だよ」

「れ、霊って効くの?」

「やるだけタダだろ」

「…………」


俺のギフトを知り尽くしているヨルの囁きによって、何故か除霊をする羽目になる。

ヨルが「今から明智による除霊の儀式の始まりだ!」とテンションを上げると、ゆりかと五月雨は目を真ん丸にさせた。


「流石の師匠でも出来ないことはある。ヨルの無茶振りなんか無視してくれ」

「まぁ、出来るだけやってみるよ」


手を祈るように形を作り、自作お経を唱えてみる。


「死してなおこの世界に留まるでない。成仏して転生してチートに生まれ変わるが良い……」

「なんだそのお経……?」

「【この世界に巣食う霊たちよ。成仏しなされ……】。なむあみだぶつ……、なむあむだぶつ……。はぁぁぁぁぁぁ!」


力を込めるように祈りを捧げた瞬間だった。

部屋に蔓延る怪しい気配が、スゥーと消えていく。


「あ、窓にいた幽霊も消滅していく……」

「本当だ……」


日当たりが良いのに薄暗かった部屋が、徐々に日の明かりが窓に射し込んでいく。

陰鬱とした空気も、晴れていく。


「流石、明智だ。除霊完了だな」

「凄いですよヨル先輩!左手の握力13キロの自分でも扉が開きますよ!」


なんかよくわからないが、『命令支配』は幽霊にも効果があるというわけがわからない結果が証明されたのであった。


「師匠が格好良い……。尊い……。我も満足した……」

「なんでお前まで成仏しそうになるんだよ!?戻れゆりか!?師匠命令だぞ!?」


満足した顔でこの世から成仏しかけたゆりかをひき止めるというオチも付いて、この曰く付きの部屋からは幽霊が現れることはなくなったという。


「ししょおぉぉぉぉ!好きだぁぁぁぁ!」

「明智ぃぃぃ!素敵だぁぁぁ!」

「せぇんぱぁぁぁい!ありがとうございますぅぅぅぅ!」

「わ、わかった!わかったから!」


3人娘に抱き付かれて揉みくちゃにされてしまい、緑茶を飲むことすら叶うことがなく女子寮を去る時間になってしまったのであった。

俺が金を出したのに、じゃがりんこもヨルに取られたのである。

非常に悲しい出来事になった……。

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